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再会
しおりを挟む過去カチュアは練習を終え、サロンを出るとサロンから少し離れた所で、聞き覚えのある声に呼び止められた。
「カチュア」
「……………ゴードン様……ご機嫌麗しゅうございます」
「久しぶりだな、カチュア」
「………はい、ゴードン様は益々凛々しくなられたご様子で何よりでございます。兄上様のバッシュ様もお元気ですか?」
「……………兄上も来ている。君の演奏を一緒に聞いていた」
ほんのり頬を赤めたカチュアを見たゴードンだが、その赤めたカチュアの意図をゴードンは知らない。
カチュアはゴードンを慕い、会えた事で頬を赤めていたのに、バッシュの名が出た事で、ゴードンの嫉妬心を煽ぐ事になっていた。
「そうでしたか……夜会に出る事になりましたので、頻繁に登城する事になりました。私には場違いな場であるのは重々分かってはいるのですが………父の命ならば………仕方ない………と……」
「カチュアは今年の夜会は意にそまぬ事だったのか?」
「……………はい……私は………」
過去カチュアは、思い切って心の内を打ち明けるつもりだった。
なかなか会えない想い人に、『次に会えたら』と思っていた頃だったのだ。
それを、鳥カチュアは見守る。
(…………確かこの時にあの人も来たのよ………何とか私への興味を外さなきゃ!)
「…………私は………この夜会に……出……」
「あれ?ゴードン、こんな所で何してる」
「!!」
「………兄上、デューク、ロイス、グレゴリー……」
「お?カチュア嬢じゃないか」
「…………デューク殿下、ロイス殿下……グレゴリー様、バッシュ様………皆様、ご機嫌麗しゅうございます」
過去カチュアはヴァイオリンを抱え、頭を垂れた。
(……………来ちゃったぁ!)
鳥カチュアはある一点だけを睨む。
この半年後、カチュアを選び10年間陵辱を与え続けた張本人、デュークを。
思わず鳥カチュアは身体が動き、サロンから出た廊下の窓ガラスを突く。
過去カチュアに気付いて欲しかった。
コツコツ。
「………?鳥?」
「あら………ここに居たの?」
一斉に鳥カチュアを見つめる過去カチュア達。
「カチュア嬢の鳥か?」
デュークが過去カチュアにいち早く聞いてくる。
「………あ、いえ……今朝お屋敷にやって来た鳥なんですが、何故か私に懐いてくれていて、人懐こいので飼うか迷ってまして………野鳥のようですし、人に懐くのも、と……」
「大方、カチュア嬢のヴァイオリンを気に入ってたんじゃないか?俺もカチュア嬢のヴァイオリンの腕前に聞き惚れたしな」
「そ、そんな!グレゴリー様、何と恐れ多い…………他の令嬢方の腕前も素晴らしいものでしたわ」
「え?カチュアはずば抜けてたよ?」
「ロイス殿下迄…………本当に恐れ多い事でございます」
(……………駄目っ!謙虚になってはデューク殿下が興味を!)
「他の令嬢が下手だった、て事もあるだろ」
(…………え?………記憶と違う?)
鳥カチュアの記憶とは違う流れになる会話が出始めた。
デュークが記憶とは違う言葉を発したからだ。
鳥カチュアの記憶では『バッシュやゴードンから聞いていたが、見事な腕前の演奏を聞かせてもらったよ、カチュア嬢』だった筈。
どちらかと言えば褒め言葉だったのが、過去カチュアへの言葉は批判的な意見。
「…………私のヴァイオリンは他の芸事をそっちのけで習得しただけの事……他の方々は、ヴァイオリンは嗜み程度の様なので、差があると思いますわ」
そして、過去カチュアは辺りを見回す。
先程迄、一緒に練習していた令嬢達が、カチュアを睨んでいるようだった。
「私は目立つのは本意ではありませんので、今も注目を浴びる訳にはいけませんわね。何故か殿下方を独り占めしているかのように、他の令嬢方に睨まれておりますので、私は失礼致します」
本当に本意ではないこの光景。
鳥カチュアの記憶でもどうにかこの場を逃れたくて、以前はゴードンに目配りさせてまで打ち切った程だったのが、過去カチュアも記憶とは違う。
(…………私じゃないの?私、あんな台詞言ったかしら………)
【過去にはお前が居なかったから、多少は過去は変わるさ】
「!!………ピピピッ?」
【お前の目と耳を通して全部見てるから、思考で会話ぐらい簡単さ】
(………………)
【おい!思考を閉じるな!】
(…………覗かれてる感じで好きじゃない)
【そんな事は分かってる!俺も嫌だからな……だが、未来の為に我慢しろ!お前はカチュアであるが、カチュアじゃないんだからな!】
(意味分かんない!)
【目の前にいるカチュアが本物なんだよ!この時期ではな!】
意味不明過ぎて、頭がパニックにはなってはいるものの、鳥カチュアの目の前に居るカチュアは、紛れもなく18歳のカチュアなのだ。
鳥カチュアが何歳の時のカチュアかは分からないが、鳥カチュアの中では、18歳の目の前のカチュアは過去なのだから。
「お屋敷に帰るけど、あなたはついて来る?」
「ピピッ」
廊下の窓を開けた過去カチュアは、鳥カチュアの前に手を翳すと、鳥カチュアはその手に委ねられるように乗った。
「懐いてるな、見るからに野鳥なのに」
デュークが興味本位で呟くと、グレゴリーが更に続ける。
「俺ん所にも来るかな?」
グレゴリーが興味津々で、過去カチュアの横に寄り添う様に手を翳してくる。
しかし、その瞬間過去カチュアは身体を強張らせた。
長身でガタイのあるグレゴリーは威圧感があり、カチュアのタイプではなく、女性の選り好みされやすい男で、カチュア自身苦手な人だったからだ。
「ピッ」
鳥カチュアもその記憶から、そっぽを向き、過去カチュアの肩に飛び乗る。
「はははっ!グレゴリー、鳥に嫌われたぞ!」
「カチュア嬢が俺に怖がったからな、緊張が鳥にも伝わったんだろ」
「も、申し訳ありません、グレゴリー様………びっくりしてしまっただけです」
「グレゴリーはデカイからな」
デュークとバッシュが面白そうに笑っている。
(………デューク殿下が笑われてる………私の前で笑った事もなかったのに……)
鳥カチュアは過去カチュアの肩で、驚いたのだった。
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