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18 *レイノルズside
しおりを挟むオルレアン国の問題が明るみに出ても結局、結論が出ないまま、更に数日程経過したある日。痺れを切らしたアステラが、サブリナに内緒でオルレアン国の国王宛に手紙を送っていた。
【拝啓、オルレアン国王閣下殿。
オルレアン国王太子レイノルズ殿と妃、サブリナ殿と離縁の話を、遠く離れたファルメル国にも届いて参りました。何やらその事が火種になり、貴公の国内では情勢が不安定だとも聞き及んでおります。交友関係にあります我が国は、オルレアン国を心底心配しておりますが、王太子と妃の思いを汲み取る形に丸く納めた方が宜しい様に思えてなりません。離縁せねば、王太子の次世代の世継ぎも誕生しないでしょうし、妃は亡命したと此方にも耳に入っておりますので、妃は帰国する意思は無い様に思えます。数々の事が明るみになっておられる様ですが、根本的な事から解決されるのが吉かと存じます。
ファルメル国国王、アステラ】
と、届けられた。
「簡単に言ってくれる………アステラ王よ……」
「陛下、お加減は如何ですか?」
「…………王妃………只の疲れだ……大事無い」
日々窶れて行く国王に、王妃が心配そうに見守る。アステラの手紙を手にする国王の横で王妃もその手紙を読むが、王妃はその手紙の感想を述べた。
「陛下…………もう、サブリナは諦めましょう………」
「王妃…………」
「サブリナは帰ってきませんわ、きっと」
「帰って来たら如何するのだ!」
「その時はその時です。離縁させていても、国政に関わらせる事も出来る様に体制を作れば良いのです」
「……………なる程……」
「勿論、レイノルズとの子供をこの手に抱きたかったですわ………しかし、民衆はサブリナに対して同情されて、レイノルズは批判されております。レイノルズも可哀想ですわ。離縁したがっていたのですもの………何故あんなにあの子がサブリナを嫌うのか分かりませんが」
「レイノルズはサブリナに嫉妬しているのだろう。頑なな男だ。自分より優秀な妻なのが気に食わないのだ。それでも、サブリナより優秀な者等、臣下にも見ないがな」
「自尊心を傷付けられたレイノルズは認めたく無かったのですものね…………お互いに理解させてから結婚させていれば変わってましたでしょうか」
「…………無理だろうな。今なら余にも分かる」
暫くこの2人の沈黙は続き、口を割ったのは国王だった。
「………離縁状の承認をしよう……良いな?王妃」
「………分かりましたわ。陛下のお心のままに」
「だが、まだレイノルズには伝えてはならぬ。サブリナにだけ知らせ、あの娘を先に解放しようではないか。今迄のせめてもの償いだ。レイノルズにはまだ灸を据えたい」
「そうですわね。反論ございませんわ」
その直ぐ後には、ファルメル国のアステラに向けて、サブリナの離縁を承認した、という手紙が送られた。
国王も馬鹿では無い。冷静に考えれば予想は付いた。
ユーザレスト公爵の長男、マイルの妻はファルメル国出身だという事。隣国になるファルメル国は、移動が容易い事。オルレアン国の情勢が伝わりやすい事を踏まえ、サブリナがファルメル国に居るのだと、アステラからの手紙で確信したのだ。
「ファルメル国にサブリナは居るのでしょうか」
「恐らくな………アステラ王にはサブリナの所在もそれとなく確認したい、と認めている。薄情な男ではない。返事は来るだろう」
「サブリナが元気で居てくれたら………」
「泣くでない、王妃。今生の別れではない、そう思って待とうではないか」
「…………はい」
更に数日後、毎日続けられていた議題が終止符を打った。
「何ですと!早急に王太子を立てろと申されるのですか!」
「父上!俺が居るのに何故、王太子を立てろだと!」
レイノルズの廃位には賛成だった貴族達。
只1人だけ足掻いていたレイノルズが認めないので難儀していた事だ。
国王もその議題には、渋っていたのも知っている貴族達だっただけに、国王自ら挙げられたのは意外だった様だ。
「王族血脈の公爵家から選ぶのだ。余より歳が若く、健康で優秀な男をな…………そして、その血脈から王位継承が続くのが良いだろう」
「反対です!父上!」
「レイノルズ………今直ぐではない。其方の代わりが見付かってからだ。その前に其方は今明るみになっている醜聞や、民衆への信頼を立て直す事を考えねばならぬ。良いな」
「ふざけるな!俺を王にするのではなかったのか!父上!」
「殿下!お静まりを!」
レイノルズは激高する。
1人息子であったレイノルズには、何不自由無く育てられていて我儘ではあったが、不出来な男では元はなかった。
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国王に食って掛かるレイノルズは、近くに居た貴族達に引き止められ、レイノルズは暫く謹慎処分を受ける事になってしまった。
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