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友人と恋愛話

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 月曜になり、菜穂は彬良と話したくて仕方ないのに、話せないでいた。

「ねぇ、茉穂……今日仕事終わったら時間ある?」
「え?………終わったら?」

 ―――彬良と話したいけど……

 茉穂は一方的に、連絡を入れていたが、彬良からの返事が無く困っていたのだ。だが、英美から誘われ、彬良とも約束も出来てないので了承する。気を紛らわしかったのもあるのかもしれない。

「………時間そんなに取れないけど……」
「うん、それでもいい」

 仕事途中でも何度も連絡を入れたのに、既読スルーの彬良の真意が分からないまま、仕事を終え、会社の近くのファミリーレストランに入った。

「忙しいの?茉穂」
「仕事はそんなに忙しい訳じゃないんだけど、今弟がこっちに来てて」
「………あぁ……癖強い弟君……」
「困っちゃって……彼氏と今同棲してるから……」
「…………同棲しちゃったんだ……茉穂……と……」

 アイスコーヒーを頼んでいた英美が、カラカラとストローで氷を掻き混ぜている。

「っ!………英美………いつから気が付いて……」
「2週間ぐらい前?茉穂が仕事だった時、スーツ姿の男と交差点でキスしてたの見た」

 茉穂は、注文したパスタを巻き取っていたのだが、手の動きを止めた。

「………」
「茉穂、あの日と仕事だったよね?………始め、誰かは分かんなかったんだよ………ずっと誰だ誰だ、て考えてて……そしたらさ……その時と同じスーツ来てるが、会社に居るじゃん?」
「…………あ……」

 服を着回ししているのは、皆同じだ。あの土曜日の仕事の時のスーツと、最近そのスーツを着て仕事していたのを茉穂も覚えている。

「何で、隠してたのかな、てのと………のキャラが、あのキスの現場の風貌が違い過ぎて、私驚き過ぎてんの……アイツ、大丈夫なの?ヤバくない?」
「………ヤバイって……何?」
「どっちが本性なのか分かんないじゃん!騙されてんじゃないの?」
「…………本性を隠してるのは仕事のキャラの彼だよ………本性は凄く男らしくて優しい人…オタクっぽい所は全くない………バイクや身体を鍛えるのが好きなマッチョだよ」
「…………何で隠してんのよ」
「彬良は会社に知られたくない、て……前職場で、あの風貌で迷惑掛けたからと………端折って悪いけど、細かい事は彬良の了承が無いと話せない」
「…………好きになったんだ、君の事」
「…………うん……以前の合コンで助けてもらって、いろいろ気遣ってもらって……」
「………そっか………村雨君、茉穂を落としたか……好きそうだったからなぁ」

 英美も、注文していた料理を食べ、納得した顔をしていた。

「英美?」
「…………村雨君、顔隠してたでしょ、ずっと」
「そうだね」
「たまにさ……村雨君フロアから抜け出して、別オフィス階の自販機横の喫煙所にサボりに行ってんの知ってた?」
「知らない」
「複合ビルだし、他社の社員出入りするから、他社の社員と顔見知りになるんで、私親しくしてる人居るのよね……で見ちゃってさ………」
「何を?」
「…………菜穂とキスしてた風貌の村雨君……タバコ吸ってた………それを見る前は、そのフロアの他社社員かな、て思ってたんだよね……で、密かに惹かれたんだけど、がその人だと思わなかったよ……今、茉穂に言ったって、別れないだろうから私なりに区切り付けたくて、話したかったんだ……」

 揶揄していた英美が、揶揄していた彬良に知らずに好意を寄せていたのもショックだった様だ。好きな人なのに見抜けなかったのだ。茉穂に負けたと思う材料にはなるのだろう。

「私………助けて貰ったあの日、彬良は素の姿だったんだよ……私も見抜けなかった」
「じゃ、茉穂は如何やって知ったの?」
「え?自分から私に正体バラした」
「…………何だ……合致したわ……茉穂が好きだったから、自分でバラしたのか……敵わないなぁ」
「合致?」
「今言ったじゃん!が見てたのは茉穂だった、て……仕事帰りか何かかは知らないけど、交差点でのキス見て、フラレたな、て思ってた後に、相手が私が気になってた人で、実はその人こそがだったって……そりゃ好きな相手ならバラすよね……」
「………でも……続かないかも……」

 茉穂は食が進まず、フォークを持っては置きを繰り返している。
 英美と恋話をしていた中で、茉穂の今1番の悩みがやはり彬良の事なのだ。

「何で?」
「………弟」
「ブッキングした訳?」
「一緒に住んでるもん……金曜から弟からの電話スルーしちゃって、彬良とずっと……だったから、弟が来るなんて気が付かなくて……土曜の朝………」
「え?弟君、今住んでる場所に翌日に?急だね………」

 茉穂が気が付かなかったせいではあるが、急とは思われた。

「同棲始めたの伝えてなくて……それに付き合ってるのも何も報告してなくて……」
「なるほどねぇ……でそれで何で別れ話?」

 紹介もされていない相手を、姉である茉穂の住むマンションに男が居たのだ。感情的になっての事かと、英美は思っていた。

「ウチ、そういう事には厳しいのよ………彼氏出来たら紹介しなさい、認めたら結婚前提で付き合う事……その間、お父さんは相手の身辺調査………」
「ウザっ!今時そんな親居るの!古いよ、考え方!」
「うん………古い……だから、実家から離れたんだけど……弟もそういう考えでね……お父さんに知られたと思う」
「別れさせられるかも、て?」
「…………うん……」
「そんなの当人同士が決める事でしょ?親の反対があるから、て簡単に出来る事じゃないよ」
「…………お父さんが圧力掛けたら分からないよ……」
「………え?茉穂ん家の出来る訳?」
「…………されてきたから……私……」

 茉穂は、過去父親から茉穂の進路に関してレールを強いてきた。茉穂の夢を尽く潰し、邪魔をしていた毒親だ。高校卒業迄は我慢出来たが、大学進路は勝手に決め、逃げて離れて暮らす様になったのだ。父親からの干渉は減ったが、弟が茉穂に会いに来る度に、干渉が入る。父親の管理下で足掻く茉穂は、交際相手に迄干渉されたくない為、自分で相手を決めて、父親との距離を取りたかった。


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