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しおりを挟む「アホ!ヤり過ぎ!」
「痛っ!何すんだ!小夜!」
麗禾の頭の近くで晄の怒る声がする。
「もっと怒れ、小夜」
「卓もよ!何で止めないのよ!胃の中も空っぽで、脱水症状迄起こした女を抱き潰してんのよ!」
「……………邪魔すると殺されそうで……」
「アホかぁぁぁぁ!」
「痛っ!俺迄殴るな!」
「……………2人は部屋から出てけ!お粥ぐらい作って来い!」
晄が誰かに怒られていた。
「…………ん……」
「あ、気が付いた?熱があるから無理しないで………気持ち悪かったでしょうから、身体は拭かせて貰ったからね………あ、男どもには触らせてないから」
「…………貴女………は?」
「私は榊小夜………晄の秘書の榊卓の奥さん………私、医者なの」
「……………医者……榊さんの奥さん?」
「えぇ………喉乾いてない?水飲む?スポドリもあるけど」
枕元で医療道具も出されていて、小夜は本当に医者なのだろう。
「水で…………」
「今、晄達にお粥作らせてるから………ごめんね、旦那が止めに入りゃ良いのに、自分の生命の方を優先したばかりに…………えっと……麗禾ちゃん……だよね?」
「私の事………知ってるんですか?」
「話を聞いてるだけよ…………私の父親も医者で、長く黒龍組と関わってるから………晄の事は弟みたいで、卓と見守ってきたんだけど………今回ばかりは…………あの馬鹿……」
「……………私が……逆撫で……したから……いっその事………殺してくれて良かった………のに……」
「なっ!何て事言うのよ!幾ら極道と関わってたって、医者の前で殺すとか死ぬとか、人生諦めた言葉言わないで頂戴!」
「……………ご、ごめん……なさ………っく………つ、辛く………て……」
「……………はぁ……とりあえず、今は熱を下げる事を優先して………晄に土下座させても謝らせるから」
「……………会いたくありません……」
止めて、と懇願してきた。意識が途切れる寸前、嫌いと呟いた途端、晄は我に返ったのか、止めてくれた。人に嫌い、と言った事は麗禾は無い。人を傷付けて来た家柄から、贖罪のつもりで傷付ける言葉は避けてきた。それを始めて晄に言った。
もし、顔を見たらまた同じ様に嫌い、と言いそうで会いたくない。
「極道の世界で育ったのに、麗禾ちゃんはスレてないのね」
「…………え?」
「人であろうとしてたんだね………晄は悪魔だからさ…………あの事件から……生まれ変わったみたいに変わったの……極道は皆それが普通………」
「あの事件?」
「…………晄がね………始めて人を殺した時の事よ………残酷過ぎて麗禾ちゃんに詳しくは言えないけど」
「…………私の誘拐されかかった時の事ですか?」
「記憶無いんじゃなかった?そう聞いたけど」
「…………覚えてはいません……でも、思い出そうとすると、頭が割れそうに痛くなるので………思い出すのを諦めました………両親も無理に思い出すな、とばかり言いましたし」
「思い出したってね………良い事なんて無い事だから」
熱もあるので、汗も出て来ると、小夜が拭ってくれている。
晄の愛人の1人かと思ったのに、違うというのもあり、心にモヤが掛からない。そのモヤは自分に構うな、愛人の方へ行け、と苛つくモヤだ。小夜ならそれを感じる事も無い。
『粥を持って来た』
ドアが開いたと同時に、晄と榊が顔を出す。
「卓は入って良いわ」
「は?俺は!」
「晄は駄目」
「何だと!俺の家だぞ!」
「その家でレイプしたアンタは駄目!」
「お嬢…………申し訳ありませんでした……止められずに………控えてはいたんですが………」
「控えてはいた、だと?何を弁解しとるんじゃ!」
「痛っ!頭グリグリするな!禿げる!」
榊がベット脇に粥を起き頭を下げたが、小夜に肘でつむじをグリグリとされている榊。
「控えてた、て言うなら何かあった時に駆けつける役割を言うのよ!何の為に、此処に居たの?アンタは!」
「い、いや………何かのタイミングを逃し……」
「逃したから、大事なお嬢がこうなんでしょ!アンタは晄の暴走を止めなきゃ駄目なんだから!」
「お、お粥………食べて良いですか?………食べられるか分かりませんが………」
粥の入った土鍋の湯気を見たら、空腹を感じ食べたくなった。
「起こすわね………着替え無いから、晄のシャツは着せてるけど………ちゃんとクリーニングしてあった奴だから!」
「……………そ、そこ迄黒龍さんを拒否してる訳じゃないですよ?」
「いや………晄のフレグランスや煙草のニオイは病人には刺激強いからさ」
「……………ふふふ………そうかも……」
そういえば、この部屋でそんなニオイはしない。空気清浄機でも置いてあるのかもしれない。
「お嬢…………若頭の事ですが、水をキッチンに取りに戻ってから、何があったか伺っても良いですか?」
「卓!アンタ阿呆なの?傷付いてんのに聞く?」
「小夜さん………大丈夫です」
「麗禾ちゃん……」
麗禾が晄を怒らせたのだ。自業自得とも言える。それでも晄の行動は許せないが、理由として晄に全て責めれない。
麗禾は粥を冷ましている間に、何があったのかを話した。
「八つ当たりじゃない、それ………ガキよねぇ……こんなに、卓や私が晄を大事にして、裏切らない、て知ってる癖に、それ以上の存在を増やしたくなかったのは、守る存在が守りきれるか自信が無いだけじゃないの」
「晄さんが俺達を信用するのは付き合いが長いからなだけだ………お嬢は違う」
「だからって………図星突かれて、鬼畜っぷりを発揮されちゃったら、腹上死するわ!アイツが死ねば良いけどさ」
「さ、小夜………」
「良いのよ、アイツは簡単には死なないから」
今、医者の前で殺すとか死ぬと言うな、と言っていたのに、医者本人が言うのは良いのだろうか、と思いながら麗禾は粥を口に運んだのだった。
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