29 / 45
28
しおりを挟む麗禾はその日1日起き上がって、立つ事も出来なかった。
ベットのシーツも不快感が無かったのは、意識が無かった間に変えてくれたのだろう。栄養補給と解熱剤を飲み、麗禾はまた眠ってしまった。
「……………悪かった……麗禾………」
眠っていても、誰かの気配を感じるが、目が重くて開けれないぐらい、疲労が蓄積されている様で、うつらうつらとしていた。
ボディーソープだろうか、仄かに香るニオイが落ち着くと、額に大きな手が当てられる。その手は肘辺り迄大きな傷があり、肩辺り迄延びていた。
---刀………傷………痛………い?………ごめんなさい…………お兄ちゃん………おに………っ!
麗禾が目を開けたのはいきなりだった。
それに驚いたのか、額に手を置いていた晄が手を引く。
「う、うわっ!びっくりさせんな!」
「はぁ………はぁ………はぁ…………ごめんなさい…………ごめんなさい………痛い?………お兄ちゃん………痛い?……」
「麗禾?…………麗禾!しっかりしろ!おい!………小夜!小夜!来てくれ!」
麗禾がフラッシュバックを起こした様で、全身震えて、上の空で謝罪を繰り返している。
晄も只事では無いと思ったらしく、小夜を呼んだ。
「如何したの!晄!」
「わ、分からん!寝てるから、様子を見に来たら…………」
「……………フラッシュバックだわ………鎮静剤!卓!私の医療バック取って!」
「フラッシュバックだと?」
「……………多分ね……覚えてない、て言ってたあの事件を思い出し始めてるんだと思う………断片的にアンタ達話をしてたんでしょ?」
「あ、あぁ………少しな」
「何かヒントがあったのよ………きっかけになる………お前かぁ!傷!」
「……………風呂上がりだったし……」
「若頭………またやっちゃいましたね……下に下りておいた方が良くないですか?」
「……………大丈夫よ……今、落ち着いたから……」
小夜に鎮静剤を打たれ、麗禾の呼吸は整い始めた。
冷や汗迄小夜はかいていたが、医療道具を避けて、半裸の晄の胸にパンチを食らわした。
「ぐっ!何すんだ!小夜!」
「アンタねぇ…………天然なの?精神状態も良く無くて、熱もあるのにそんな姿で、麗禾ちゃんの前に来る?アンタ、レイプしたんだよ!そしてその傷!フラッシュバックが今迄無かった事自体不思議だったけど、何ダブルパンチ与えてんの!」
「ダブルじゃないだろ………少なく見積もってトリプルですよ、若頭」
流石に、榊も庇う気は出ないらしい。
「っ!」
「嫌われて当然ですよ」
「私でも嫌うわ…………それでも、私はアンタを裏切らないけどね………早く人間に戻りな……麗禾ちゃんの為にもね」
「人間だが………」
「アンタは悪魔だわ………心配してるから、今日仕事してないじゃないの………てか、手に付かないんでしょ?此処でも出来るのに、うろちょろうろちょろ、寝室の前に居たり、卓にちょっかい出して、ずっと何か言いたげで………好きなんじゃないの?」
「な…………な、何だと!」
「あぁ…………やっぱり、魚釣って餌やらないつもりが、逆に釣られちゃってましたか」
「ち、違……………絶対に違う!」
「アンタなんて、麗禾ちゃんに嫌われてろ」
「小夜に同じく」
夫婦揃って、晄の気持ちを察し、晄の相手をするのが馬鹿らしくなってきた。
「お嬢の様子見ないと」
「そうね…………何?アンタまだその格好な訳?濡れた身体で居たら風邪引くわよ………看病なんてしないからね、私…………麗禾ちゃんが心配だから」
「ぐっ…………お前等………ふざけやがって……」
「あら、何か人間らしくなってきたっぽくない?卓」
「まだ悪魔だって…………お嬢への気持ちを自覚したら、人間に戻るだろ」
「か、勝手な事をベラベラと言いやがって!」
「あ、そうだ………晄、またシャツ借りるわよ、勿論クリーニング済みのよ」
「勝手に使え!」
乱暴にドアを閉めた晄。
そして、夫婦揃ってその晄に笑っていた。
「…………騒がしかったですね………黒龍さんの声もしてましたが………」
「あぁ、うん…………悪魔が生まれ変わったみたいよ」
「……………え?」
「お嬢、もう安心して良いですよ………もう、若頭はあんな事しないでしょうから」
「意味が分からないんですけど………起きて大丈夫なら、身体洗いたいです………汗で気持ち悪くて」
上半身はなんとか起き上がれる体力は戻った様だった。2日も大学を休み、いつまでも寝たきりではいられない。
「俺がバスルームに運びましょう」
「……………晄!其処に居るわよね!」
「何だよ!」
ドアが直ぐに開いたのには、榊も小夜も爆笑していて、麗禾はキョトンとしている。
そして、榊が爆笑する姿には驚いた。
「榊さん、そんなに笑える人なんですね」
「い、いや…………面白かったら人は笑いますよ…………若頭、お嬢が風呂に入りたいそうなんです。お運びしても良いですか?」
「俺が運ぶ!」
「っ!…………さ、榊さん!お願いします!小夜さん、ごめんなさい!あの………洗うのは私自分で何とかしますので!」
「私が洗うのは手伝うよ…………卓、運んであげて」
「俺が運ぶ、て言ってんだろ!」
「じゃあ、若頭お願いします………お嬢、若頭に謝罪をさせるチャンスを与えてやって下さい」
「っ!…………そ、そんな………い、今は………」
まだ、晄への恐怖心が拭えていない麗禾は、緊張して身体を強張らせた。しかし、晄はお構い無く、麗禾を抱き上げていく。
「きゃっ!」
「何もしない…………無茶させて悪かったな……」
「っ!」
バスルームは寝室の隣だったのにも驚いて、しかも硝子張りの大きな窓が、夜景を映し出していて、まるで1枚の絵だった。
「小夜も手伝いは要らね………俺がやる」
「…………あ、そ?でも、私は医者だし、脱衣所で待機してるわ………またセックスしようとしたら、その窓からアンタ落とすからね!」
「割れねぇよ、コレも防弾強化硝子だ」
「ムカつく!どれだけ金掛けてんのよ!うち等の方にも付けろ!」
「お前達ん所も良い部屋に住まわせてんじゃねぇか」
脱衣所で脱がされると思ったら、シャツのまま湯船に入れられた麗禾。そして、晄も服のまま浸かると背後に回った。
脱衣所には小夜の姿が確認出来、晄も無茶な事をしない様に思えた。
17
あなたにおすすめの小説
ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~
cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。
同棲はかれこれもう7年目。
お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。
合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。
焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。
何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。
美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。
私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな?
そしてわたしの30歳の誕生日。
「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」
「なに言ってるの?」
優しかったはずの隼人が豹変。
「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」
彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。
「絶対に逃がさないよ?」
幼馴染の許嫁
山見月あいまゆ
恋愛
私にとって世界一かっこいい男の子は、同い年で幼馴染の高校1年、朝霧 連(あさぎり れん)だ。
彼は、私の許嫁だ。
___あの日までは
その日、私は連に私の手作りのお弁当を届けに行く時だった
連を見つけたとき、連は私が知らない女の子と一緒だった
連はモテるからいつも、周りに女の子がいるのは慣れいてたがもやもやした気持ちになった
女の子は、薄い緑色の髪、ピンク色の瞳、ピンクのフリルのついたワンピース
誰が見ても、愛らしいと思う子だった。
それに比べて、自分は濃い藍色の髪に、水色の瞳、目には大きな黒色の眼鏡
どうみても、女の子よりも女子力が低そうな黄土色の入ったお洋服
どちらが可愛いかなんて100人中100人が女の子のほうが、かわいいというだろう
「こっちを見ている人がいるよ、知り合い?」
可愛い声で連に私のことを聞いているのが聞こえる
「ああ、あれが例の許嫁、氷瀬 美鈴(こおりせ みすず)だ。」
例のってことは、前から私のことを話していたのか。
それだけでも、ショックだった。
その時、連はよしっと覚悟を決めた顔をした
「美鈴、許嫁をやめてくれないか。」
頭を殴られた感覚だった。
いや、それ以上だったかもしれない。
「結婚や恋愛は、好きな子としたいんだ。」
受け入れたくない。
けど、これが連の本心なんだ。
受け入れるしかない
一つだけ、わかったことがある
私は、連に
「許嫁、やめますっ」
選ばれなかったんだ…
八つ当たりの感覚で連に向かって、そして女の子に向かって言った。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
兄様達の愛が止まりません!
桜
恋愛
五歳の時、私と兄は父の兄である叔父に助けられた。
そう、私達の両親がニ歳の時事故で亡くなった途端、親類に屋敷を乗っ取られて、離れに閉じ込められた。
屋敷に勤めてくれていた者達はほぼ全員解雇され、一部残された者が密かに私達を庇ってくれていたのだ。
やがて、領内や屋敷周辺に魔物や魔獣被害が出だし、私と兄、そして唯一の保護をしてくれた侍女のみとなり、死の危険性があると心配した者が叔父に助けを求めてくれた。
無事に保護された私達は、叔父が全力で守るからと連れ出し、養子にしてくれたのだ。
叔父の家には二人の兄がいた。
そこで、私は思い出したんだ。双子の兄が時折話していた不思議な話と、何故か自分に映像に流れて来た不思議な世界を、そして、私は…
【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる
奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。
だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。
「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」
どう尋ねる兄の真意は……
旦那様の愛が重い
おきょう
恋愛
マリーナの旦那様は愛情表現がはげしい。
毎朝毎晩「愛してる」と耳元でささやき、隣にいれば腰を抱き寄せてくる。
他人は大切にされていて羨ましいと言うけれど、マリーナには怖いばかり。
甘いばかりの言葉も、優しい視線も、どうにも嘘くさいと思ってしまう。
本心の分からない人の心を、一体どうやって信じればいいのだろう。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる