暗闇の麗しき世界へ【完結】

Lynx🐈‍⬛

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「麗禾、好きなの選べ………似合ってるか如何かは俺が判断するが、似合ってたのは全部買ってやる」
「5着ぐらいでとりあえず良いんですけど………着回して使いますし、今は大学への通学ぐらいしか必要無いから」
「今はまだ寒い、コートやマフラーなんかも要るんだ、5着じゃ足らん………小夜、お前にも礼をするから、何点か選べ」
「え!本当!晄!やったぁ!ね、ね、卓………一緒に選んで!」

 大盤振る舞いの晄に、申し訳無さもあり、素直には麗禾は喜べない。

「自分で買いますよ?貯めてきたお金ありますし…………」
「そんな事は知ってる………1等地に家建つぐらいの金を持ってんのもな………だが、これは俺からの詫びもある………結婚したら、それは子供が産まれた時に使え」
「結婚!…………わ、若頭?………わ、私を………私は………如何………な……」
「お前か?売り上げを餞別にしろ………お前とは今日で切る」
「そ、そんな…………若頭………私……貴方が好き………」
「お前からのは俺には効かん………仕事してくれ」

 キッパリと縁を切る主義な男だと知っていたが、何故か麗禾は嬉しい、と思える。
 気の毒な女だと、同情するのかとも思っても、清々しさの方が勝っていた。

「…………麗禾………エロい顔すると、この後抱くぞ」
「っ!な、何言ってるんですか!嫌です!」
「…………そうか……残念だ……おい!見せもんじゃないぞ!榊!小夜!」
「……………脱、悪魔!」
「若頭の成長を見た気がします」
「ちっ…………お………下着選びは任せろよ」
「……………え?………遠慮します!絶対に!」

 下着のパンフレットを捲りながら、結果的に晄は榊とつるみ、下着を買っていた。

「小夜さん………良いんですか?下着選びを榊さんに任せて………」
「良いの良いの……私、卓のセンス宛にしてるから………それに、私に着て欲しくて選んだんだから、着てあげないとね」
「……………そんなものですか?」
「男は自分が選んだ服を、好きな女に選んで脱がせる事が大好きだからね」
「っ!」

 麗禾は手に持った服を思わず握り締めてしまった。

「あ…………皺付いちゃう!」
「これ、可愛いね………試着してみなよ」
「で、ですよね…………着てみます。サイズも合うし」

 即席の試着室に入って着て、麗禾は出て来た。
 オフホワイトのスプリングコートだが、ワンピースにもなり、インナーも自由に着回せそうで、ひと目で気にいった。

「麗禾、似合ってるな………それ」
「本当ですか?………良かった……服を褒めてくれたの初めてですね………今迄は母が選んだ服でしか会ってなかったですし」
「…………そうだな」
「若頭、鼻の下伸びてます」
「っ!」

 麗禾は笑顔を作るのも久々だったし、見せるのも久々だった。あの日のセックスが無ければ、麗禾も晄に心を開いていたのだろうが、まだ踏み込めるのには時間が掛かるのか、笑顔もぎこちない。

「駄目だ………押し倒したい………」
「若頭、小夜に殺されますって………あ、ほら睨んでる」
「あんなのは放っておけよ」
「あんなの、て俺のカミさんですよ!」
「〆る!晄!」
「さ、小夜さん!」

 晄と小夜は犬猿の仲なのはもう理解した。それをどう止めるかが問題だったが、それを考えるのも楽しくなってきていた。

「とりあえず、こんなもんか…………」
「買い過ぎじゃ………」
「やったぁ………嬉しい!」
「良かったな、小夜」
「ありがとうございます…………若頭………っううっ………」

 外注の女は、隙を見ては晄にアピールしていたが、晄はスルーするか、命令するかしか対応せずに、女はなす術無しで撃沈し、今後も晄から会おうとは言われないだろう。

「手切れ金として、色付けておいた………じゃあな」
「っうぅっあぁぁぁぁ………」

 女は晄を好きだったのは分かったが、果たして麗禾も晄に対してあれだけの涙を流せるのだろうか、と女を見ていた。

「あの………ティッシュ使って下さい……」
「あ、ありがとう………若頭をフッたら許さないから!」
「……………えっと………」
「如何なのよ!ねぇ!結婚するんでしょ!アンタ!」
「止めろ…………惚れてんのは俺の方で、今口説いてんだよ………フラレたら俺が至らなかっただけだ…………分かったら引き上げろ」
「あらぁ…………サラッと言っちゃったわ……」
「若頭にしては、しれっと言ったな……」
「……………っ!」

 本当に自然に出た言葉の様で、晄は顔が真っ赤になっていた。

「ま、待て!あ………その………これは………麗禾………?」
「麗禾ちゃん、固まっちゃってるじゃん」
「衝撃過ぎたんだろうな」
「面白いわねぇ、晄………如何する?また覚えてません、て言われたら………また爆弾投下しないとね」
「面白いもん見た様に言うな!」
「……………ごめんなさい………」
「麗禾?」
「まだ……………今の黒龍さんの言葉……聞かなかった事にします………ちょっと、休みますね………」

 麗禾は新しく買った服で過ごせる様になり、麗禾用にとクローゼットを用意してくれた部屋へ駆け込んだ。

 ---ど、如何しよう………に、逃げちゃった………凄いドキドキしてる………あ、あんな事されたのに………

 どうやら、麗禾も自覚出来てはいなかった様だ。
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