暗闇の麗しき世界へ【完結】

Lynx🐈‍⬛

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 晄のマンションに世話になってから4日目。
 休んでいた麗禾は大学の前で、晄に腰を抱かれ頬を擦られていた。

「無理するなよ」
「っ…………わ、分かりましたから………あ、あの………この手放して下さ……」
「……………顔が赤い………やっぱり休……」
「い、行ってきます!」
「あ……………クソッ!逃げられた!」

 車の助手席から顔を覗かせた榊は呆れ顔で、晄に言う。

「そりゃ、公衆の面前でそんな色気出して、キスしようとしたからですよ」
「あわよくば、と思うだろ!別れ際に惜しむぐらい何が悪い!」
「……………お嬢に至っては、恋愛初心者なんですから、照れが勝るんです………早く出勤しますよ」

 長くは晄も外には立てないので、麗禾と離れると、直ぐに車に乗り込んだ。

「……………お前、最近毒舌になってるよな……夫婦揃って似てんじゃねぇよ」
「小夜から、お嬢を守れ、と言われてるんで………若頭と違って、俺好きな女には毎日好きだ、と言えますからね」
「お、俺だって…………言えるもんなら……」
「フラレてますからね、若頭は」
「っ!」

 そんな会話が晄の車で行われている中、麗禾は友人達に囲まれて、休んでいた日の講義内容を移させてもらっていた。

「インフルだって?気をつけないと」
「う、うん………大変だったよ………熱が引かなくて」
 
 晄の方からは大学に数日休むと、連絡は入っていた様で、騒ぎらしき事にはなってはいなかった。
 何故ならあの後、朔夜が神崎組から逃げたという事を、今朝晄から聞かされからだった。
 神崎組に引き渡された朔夜は、神崎家の見取り図を熟知していて、逃げ道も確保していたらしい。それなので、本当は晄も麗禾が大学に行くのを反対したのだが、単位は落としたくない、と麗禾の我儘を通した。

「ところでさぁ、麗禾」
「何?」
「昨日、麗禾の前の付き添い君、大学の近くで見たんだけど、如何なってるの?降ろされただけじゃなく、クビにしちゃった訳?」
「そんな事は………そんな宣告するのは父だし……」

 逃げ出した、となれば本当に父親から、殺害宣告をされて、逃げ出したのだろう。甘い考えで朔夜を放置したとは思えない。

「ねぇ、朔夜はどんな姿してた?いつものスーツ姿だった?あと、何処で見た?」
「……………パーカー羽織って、顔を隠してた………一瞬誰かとは思ったけど、何回も見てるから顔は覚えてたし………でも、何か暗い顔してたな………場所は駅地下だったけど」
「あ、ありがとう………教えてくれて……ちょっと、メール入れて来るわね」
「あ、うん」

 メールする内容を見られたくはないので、女子トイレに駆け込み、父と晄には連絡を入れて、教室に戻ろうとした途端、視界が遮られてしまった。

「んっ!…………だ、誰…………か………」

 警備が厳重だった大学内で、侵入者は調べられる。
 だから、朔夜も晄でさえも、門から中には入れない様にしていた。理事でもある麗禾の父も組員を厳選していたので、朔夜や晄が入っても直ぐに報告は入るだろう。それが安易に潜入されて、麗禾は意識を失った。

「…………頼んで正解だった………お嬢の友達とは、面識ありましたからね………入れて貰ったんです………教室の近くの女子トイレで張ってりゃ、来るでしょ?お嬢………いや………麗禾……青葉会で精一杯、可愛がってあげますよ………」

 友人達の中の1人から聞かされた朔夜の情報。
 友人は麗禾が極道の娘とは知らないし、言葉巧みに容易に騙せたかもしれない。
 朔夜は清掃業者に扮し、麗禾を掃除道具の中に入れて、大学から連れ出された。

「何だと!麗禾が居ないってどういう事だ!頭!」
「落ち着け、晄!」
「今…………防犯カメラを確認中だ………朔夜に逃げられ警戒態勢を怠らせたつもりは無い………」

 大学の理事長室に集まった晄と黒龍組組長、そして神崎組組長と母麗子。

「ま、また怖い目に…………あの娘がなったら……」

 自分は麗禾に暴力を奮ったくせに、他人が奮うのは心配なのだろうか、と晄に握り拳が作られた。

「若頭………若頭、今は落ち着いて下さい……青葉会に大勢で乗り込めば、警察も動きますし」

 極道も動き辛くなってきたからこそ、地の利を活かし、副業を表に出し稼いで来たのだ。表立って騒ぎを起こせば、副業さえも危うい。

「あの男が行きそうな場所はやはり青葉会か………」
「お嬢からのメールで駅地下で見たらしい、と教えて貰った、て………」
「駅地下だと?」
「神崎の頭…………何か心当たりでも?」

 麗禾の父はメールを見てはいなかったのだろうか。

「俺には、駅地下で目撃情報があった、とメールが来ましたが………」
「いや…………来てない……麗禾からのメールは来た事自体………この数年無い。連絡が入るのは大抵麗子の方で…………メールアドレスも変えた覚えも無い」
「頭!お嬢のスマホが落ちてました!」
「何処にだ!」
「GPSも大学構内だった……」
「裏門の駐車場です!」

 神崎組の組員が麗禾のスマートフォンを見つけて慌てて持って来た。
 顔認証ロックは外されていて、中を誰でも見える様になっている。

「おかしい…………ロック解除してある状態で見つかるなんて………」

 麗禾は確かに自動ロックが掛かる様にしていた。それが解除状態のままになっているのはおかしな事だった。
 晄は、麗禾のスマートフォンを操作し、メール送信履歴を確認すると、確かにと表示されたアドレスに送信していて、晄が送られた内容と一緒だった。

「違う…………このアドレスではない………」
「違うわ………似てるけど……rがlに変わってる………」
「じゃあ………誰かが意図的にメアドを変えたか変えさせたか…………か………」
「あの男でしょ………攫ったんですから」
「……………だな……」
「駅地下…………駅………」

 メールアドレスが変更させられていた事より、麗禾の父はブツブツと、駅地下の事を気にしている。

「頭?」
「……………駅地下を探せ!地下水路に繋がる入口!それと使われなくなった店舗!今すぐに向かえ!」
「何か分かったの!」
「あぁ…………朔夜の事で、思い出した事があった…………記憶違いで無けりゃ良いが………」

 ソファを前屈みの姿勢で浅く座り、肘を付いて顎をその手で支えている麗禾の父は全身に冷や汗をかいて青褪めていた。
 これだけ見れば、麗禾は愛されていたのだと分かるのに、神崎家の夫婦は何故素直になれなかったのだろうか。
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