領主は私です、婿の貴方は何様ですか?【完結】

Lynx🐈‍⬛

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プロローグ

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「はぁはぁはぁはぁ………」

 ドレスを踏みそうになりながら、20代ぐらいの女が走る。宛の無い足取りではない。彼女は屋敷から、煉瓦の建物を縫う様に、角を曲がりながら、ある一点に向かって走る。立ち止まると、堤防の階段を登り、走るのを止めた。

「何なのよ…………いくらお父様の命令だったからって、何故サブリナを充てがう訳?サブリナも嫌がってたじゃないの?……あんな男の何がいいのよ!!」

 苛々している女は、海に向かって叫ぶ。この時間は満潮な為、海には降りれないが、干潮になれば、貝が豊富に取れる海岸だ。港もあるが、女はこちらの海岸の方が何故か好きだった。ここに来れば、懐かしく感じる。3年前、事故により数カ月の記憶がなかったが、それ以降ここが女のお気に入りだった。

「あ~~~~っ!!スッキリしない!!」
「ロゼッタ!!」
「…………?」

 海の方から声がする。そちらの方へ注視をする女。すると、空気が歪む景色の中から人影が浮かび上がる。

「…………わ、私の名を呼んでる?」

 徐々にぼんやりからはっきりとその外見が分かる。黒いフードを被り、ウェーブが掛かった黒髪が見え隠れする、剣とメイスを持つ男。そして、宙に浮き歩いて女の前にやって来た。

「ロゼッタ!!会いたかった!!やっと君の元へ戻って来れた!!」

 男はそう言うと、女を抱き締める。

「!!………だ、誰ですか!!私、貴方の様な人なんて知らないわ!!」
「………え?ロゼッタだろ?」
「そうですけど、私は貴方の事知りません!!それに私は夫の居る身!気安く触らないで!!」
「………夫………だと……?まさか、その夫というのはロベルトじゃ………」

 ロゼッタと呼ばれた女は、男を押し戻し、押し戻された男は、硬直する。

「そうですけど?」
「…………ロゼッタ……嘘だ………あんなに毛嫌いしていた男と結婚なんて!!俺を忘れたのか!?恋人だった俺を!!」
「…………え?………恋人……?」
「そうだ!マキシマスだ!王宮魔道士のマキシマス!!国境警備の任を終え、帰ってきたのに!!」

 ロゼッタは恐怖心を覚えた。目の前の男を全く知らない。だが、記憶が無かった数カ月にこの男と出会って恋人になっていたなら、とてもこの男にとっては失礼な話だった。

「で、でも知らないものは知らないんです!」
「ロゼッタ!!」

 ロゼッタは怖くて逃げた。その後ろ姿にマキシマスは呟いた。

「俺が掛けた魔法は、記憶を忘れるものではなかった筈だ………何故忘れてるんだ、ロゼッタ………」
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