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過去

安息香

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 マキシマスの屋敷に来て数日経ったが、全く落ち着かないロゼッタ。何から何迄、豪華過ぎて落ち着かないのだ。豪華な調度品も壊してはいけない、食事も豪華過ぎて恐れ多く、質素でいい、とマキシマスやイヴァンカに言ってしまう。

「…………私、やっぱり屋敷に帰るわ……ロベルトに会わないようにするから……」
「駄目だ、俺が安心しない!」
「………だって、慣れないんだもの!調度品も壊してしまいそうで………」
「………イヴァンカ、ロゼッタが使う部屋を全て取り替える、直ぐに職人を………」
「待って!勿体無いわ!!」
「ロゼッタ……君好みの部屋にしようと思ったんだが?」
「…………分かっているわ……でも私の為にお金を湯水の様に消費しないで」
「……………なら、ロゼッタの屋敷にある、ロゼッタの部屋の調度品を運ぼう」
「……………は?」

 名案、と言わんばかりに、マキシマスは一気に楽しそうにワクワクとし始めた。ロゼッタは疑問符が頭の中で飛び交う。調度品等を運び出すなんて、大仕事で引越しではないか、と。そんな事をするなら、帰った方が落ち着ける。

「おいで、ロゼッタ」
「…………何処に?」
「君が使ってる部屋」

 マキシマスは、侍従達も引き連れ、家具を運び出させると、侍女達は掃除と大騒ぎだ。マキシマスはロゼッタを抱き寄せ、空間を歪ませる。いきなりだった移転魔法だったので、声をあげてしまいそうになったロゼッタの口を塞がれてしまった。

「しぃ~~っ」
「……………」
「へぇ~、こんな感じの部屋なのか………よし、運ぶか」
「………え?ど、どうやって?」
「人間2人転移魔法つかえるんだから、こんな物体お手の物さ」

 マキシマスはベッドやチェスト、テーブル、ソファ、鏡台、机等を次々と魔法で動かすと、ロゼッタの部屋は殺風景な部屋になってしまった。

「またこの屋敷に戻れる時が来たら戻すよ……ま、結婚したらどうなるか分からないけど」

 マキシマスは嬉しそうに引越しを強引に行うと、再びマキシマスの屋敷に戻ってくる。

「後は壁紙を………と……壁紙は、職人を呼んどいてくれ、イヴァンカ……ロゼッタが選ぶ」
「マキシマス!?」
「壁紙ぐらい、新しいのにさせてくれ、ロゼッタ」

 部屋の広さは違うので、全く同じではないにしろ、配置は似せて置いてくれている。調度品が変わっただけで、ロゼッタが落ち着ける空間になった。

「凄い…………」
「………ロゼッタの香りになった………」
「……え?」
「気付かないか?君が愛用する物があるだけで、君の香りが漂っているよ………安息香だな、ロゼッタの」
「…………ありがとう……大変な事をやらせてしまったのに、私……貴方を怒れないわ……凄く嬉しい………」
「ロゼッタ………お礼するなら抱き着いてきて」

 マキシマスが両手を広げ待ち構える。その雰囲気を察知した侍従達はそそくさと、部屋を出て行ってしまい、ロゼッタも引くに引けず、抱き着いた。

「うん、やっぱり同じ香りする」
「………私には分からないわ?」
「香りは人それぞれの生活に染み付く物だからね。魔道士なんてやってると、5感が鋭くなるから、よく分かるのさ」
「そうなの?」
「俺はね、他奴等は知らない」

 抱き締める腕を緩めたマキシマスは、ロゼッタの髪を撫で始めると、頬や耳を優しく擦る。

「擽ったいわ……」
「キスしたいなぁ、て思って……」
「…………え?……キ、キス?」
「序でに言っちゃうと、ロゼッタの香りで欲情してる………」
「………キスだけよ?」
「……………え?嫌だ………食べたい」
「た、食べ………」
「…………今夜、駄目かな……」
「………結婚もしてないし、婚約だってまだ口約束でお父様の了承も無い……し……」

 申し出は嬉しいし、ロゼッタもマキシマスになら、と思ってはいたのだが、一気に緊張感で身体を強張らせる。

「大丈夫………結婚前だから、子供は出来ないようにはする」
「……………わ、私……マキシマスを満足させられるか分からない………それに……怖いわ……」
「うん…………俺も怖いよ……」

 マキシマスはロゼッタを強く抱き寄せると、胸に耳を当てさせた。鼓動が早くマキシマスも緊張しているようだ。

「………何人も女性とお付き合いしてきたのよね?」
「してたけど、本気に好きになった相手はロゼッタだけかな」
「誰にでも同じ事言ってない?」
「………う~ん……言ってはいないかな……俺が口説いた女はロゼッタだけだし、結婚したいと思ったのもロゼッタだけ…………信じた?」
「…………わ、分からない……だって……恋したのも私初めてだから……」
「………俺ね………ロゼッタの初めての経験を俺と分かち合ってくれるのは嬉しいかな」

 初めてを分かち合う、確かにそう考えられる経験をマキシマスとしているロゼッタ。

「………うん……私も嬉しいわ………キスも嬉しかった」
「……じゃ、キスしてくれる?ロゼッタから」
「………む、無理無理!………難易度高いわ!」
「じゃ、俺が目を綴じてる………ならいい?」
「…………目……開けない?」
「約束する」

 俯き気味に目を綴じるマキシマス。ロゼッタは少しつま先立ちをしなければマキシマスとキスが出来そうになく、恐る恐るマキシマスの肩に手を添え背伸びをする。少しずつ近付く唇は震え、その振動が手にも伝わった。マキシマスは笑いを堪えるのを必死で我慢する。

 ちゅっ。

「……………」
「……もっとしたい……」
「………もう、恥ずかしいから無理っ!」
「可愛かったけど、俺が求めるキス………てのは……」
「んっ!!」

 初めて唇を重ねた時の様に深くロゼッタの口内を荒らす舌で、マキシマスは抱き締める腕の力も込め、逃さない様に首の後ろを支える。くちゅ、くちゅ、と口の中から音が聞こえる。優しい性格なのだから、優しいキスをしてくれる人だと勝手に思っていたロゼッタは、激情的なキスに酸欠状態になりそうだった。
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