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気まずいのに

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 アルフレッドの執務室。
 
「………碌な男ばかりだったな」
「下心しか見えませんでしたね」
「ドーソンに邪魔されたしな」

 会場の警備が甘かったのが分かった。招待者は厳選し、アルフレッドが決めた者だが、エディンバラ公爵派閥は尽く排除した未婚男性で仕事振りや家庭内や、金銭的問題点の有無、女性関係等吟味して12人に絞り込んだのだ。それでも、男達はドーソンに抱き締められたエリザベスを見ても気遣い等見せず、怒りも表してはいなかった。
 それは、エリザベスに好意は持ってはいない様に見える。

「エディンバラ公爵派閥をもう一度洗い流し、ドーソンが誰と入れ替わったのかは分かっていますので追求致します」
「カエアンはドーソンをリズと結婚させる気なのか、殺害を考えているのか………」
「ドーソンは殿下と結婚したがってましたね……エディンバラ公爵の指示の様ですが」
「殺害はもう諦めていると思うか?」
「思いませんよ………結婚を失敗したら、殺害………でしょうね」
「あんな馬鹿をリズと結婚させられるか」
「同意です…………かといって、直ぐに他の男と結婚して頂く、というのも難しい様な気もしておりますが?」
「……………両思いの気がするのだがな……」
「……………あぁ……殿下と息子、ですか?」

 アルフレッドは、今日のエリザベスとイアンを見てそう思ったのだが、エリザベスから『結婚はまだしない』とアルフレッドに言っていた。

「イアン………生真面目過ぎないか?」
「真面目がモットーで何がいけませんか?」
「………仕事面では必要だ……だがアレでは口説けぬぞ?」
「…………そうですね……」
「エスコート時にエリザベスに触れる事が多い、と報告あるにはあるが……」
「腕を組むとか、背中を添えるぐらいしか無いと、ありますね」
「モルディアーニ公爵」
「はい」

 仕事の手を休め、アルフレッドはモルディアーニ公爵を見据える。

「イアンの房事経験は?」
「………成人後、屋敷の侍従に連れ出させて、娼館に数回手解きを……」
「それなら、未経験ではないのだな?」
「はい、それ以降は私は関与しておりませんが、侍従に誘われて行く事もあった様です」
「…………イアンに、私が許可するから、リズに閨作法を教える様に伝えてくれ」
「陛下!本気ですか!」
「結婚迄はだぞ?」
「…………そ、そういう事ですか……それであれば………ですが大丈夫ですかね?」
「……………リズを結婚する気にさせなければ……今日の様に、抵抗出来れば良いが、それが出来なかったら困るし、生命を狙われる事であれば、阻止し続け犯人探しをすればいい………待っていたら派閥の差が広まり兼ねない………リズが帰って来てからはカエアンを支持する側に回る者も少なくなったが、リズの婚姻でまた動きがあるだろうと見ている……カエアンの派閥に寝返らせる訳にはいかないのだ」

 アルフレッドは温厚ではあるが、政治的な策略は温厚ではない。国のこれからを思えば、エディンバラ公爵に国を任せられないからだ。
 強欲で我儘な弟だったからこそ、前王が王位継承権を息子に与えなかったのだ。それを兄のアルフレッドは見ていたから、任せておけないだけである。

「ごもっともです………では、早々に息子に伝えます」

 イアンに翌朝、告げたモルディアーニ公爵。

「………閨作法を私がお教えしろ、と?」
「陛下から許可が降りたのだ………触れるのはされていたのだろう?」
「………はい、それは……」
「陛下から、『結婚迄で通すなら、教えて欲しい』との事だ………他の男から殿下を守るのも、殿下をお前から守るのも大変だろうが」
「…………理性が保ちませんよ、きっと……」
「殿下にお前と結婚したい、と思わせれば良いのだ……要は口説きなさい、という陛下からの許可だという事だ」
「私が口説けるとお思いですか、父上」
「思えぬな………だから先ず順序として、殿下に触れる事にしたのだろう?……せめて、殿下に触れる時は感情を出しなさい………お前が殿下に懸想しているのは知っているのだ。だから、陛下からお許しが出たと思っている………頑張りなさい」
「…………はい……父上」

 そうは言っても、イアンは女性を口説いた事は無い。
 城のイアンが使う部屋から、警護の騎士を数人通り過ぎた先にあるエリザベスの部屋の扉が、日々重く開け辛くなっているのだ。触れる事にも緊張しているのに、閨作法を教える等難易度は高過ぎたイアン。

 ―――娼館の女達とは違う……気軽に触れられない方なのに………

 準備を整え、起床したであろうエリザベスの扉を叩いた。

「殿下、おはようございます」
「…………おはよう……大丈夫?イアン、落ち着いた
?」
「はい………昨夜はお見苦しいなりをお見せし、申し訳ありませんでした」

 あまり眠れていなかったのか、お互いに目の下にクマが出来ていた。

「殿下、眠そうですね」
「…………あはは……ま、まぁ……読書してたから………」
「睡眠時間はしっかり取って下さい、殿下………一体何の本を……これですか?」
「あ!見ないで!」
「え?」

 イアンがエリザベスが読んでいた本は、侍女達が薦めた、別の官能小説だ。それを夢中に読んでいて興奮で眠れなくなってしまったのだ。それをイアンに見られたくなくて、本を手にしたイアンから奪おうとしたが、手から落ちた。

「あ!」
「…………っ!」

 文章がイアンの目に入ると、少しの文章で察する。イアンの足元に落ちた本は再びイアンの手に戻っていた。

「……………どうぞ、殿下………しおりも落ちてしまったので、どこ迄読まれたかは分かりませんが、勝手に触れて申し訳ありません」
「…………だ、だいたい……どこ迄読んでたかは覚えてる………から」
「そうですか………寝不足の様なので、今日は午前中迄お休み下さい……午後からまた伺います………あと、少しモナをお借りしますね、殿下」
「あ………うん……」

 イアンが淡々としているので、エリザベスは弁明し損ねる。真面目なイアンの事だから、そんな物を読むなら、勉強に関する事を読みなさい、と言われるかも、と思っていたのだ。

 ―――あ、あれ?嫌味の1つも無い?

「殿下、寝不足になる迄読まないで下さい、とあれ程……」
「だ、だってあまりにも過激な描写で止まらなかったんだもの………」

 起きて、着替えたばかりだったのだ。目の下のクマは化粧で隠せていなかったのだ。
 一方のイアンとモナ。

「殿下に閨作法を教えているのですか?」
「いえ、お教えする前に恋愛小説から、と……しかも官能的な小説から、入ってもらおうとなりまして……」
「…………そうですか………」
「あ、あの……お怒りになられますか?」

 モナはイアンが無表情なので、恐る恐る聞いて来た。

「あ、いえ……それは続けて頂いて構いません、寧ろ助かりました」
「…………え?」
「陛下から、殿下に閨作法を私からお教えする様に、と仰られたので、夜から開始しようと」
「え!」
「…………あ、でお教えしますから!………ですから、侍女達にその様に通達を……殿下に先にお知らせすると、嫌だと言われそうですから内緒でお願いします」
 
 イアンはそれをモナに伝えると、エリザベスの部屋には午後迄来なかった。
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