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出会う
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しおりを挟む「反抗的な男は殺せ!女と子供だけ連れて来い!」
ジェルバ国の北街から山賊が侵入し、略奪や拉致をし暴れ回っている。しかし、20人程連れ出された後、兵士達がやって来ると山賊達は早々に逃げて行ってしまった。だが兵士達も馬鹿ではない。山賊全員捕まえる事は出来なかったが、捕えた山賊も少なくない。
「この壁の向こう側はコルセア国……その地域の山賊か?」
「国王に報告しましょう…………早く壁を埋めるのだ!これ以上侵入させるな!!」
この被害はジェルバ国にとって莫大な物だった。それは年々、ジェルバに対する【輸出量】の上乗せを要求するようになってた隣国達から圧力だった。その要求に応じなければ国土を削られ、国民は住めなくなってしまうのだ。散り散りになれば利用されてしまうツェツェリア族の特性に、国民は平穏に生きて行ける筈は無かった。その迫害は長年続くジェルバ国の悩みだという事は、国民全員が分かっている。
「今年の【輸出量】足りてるのだろうか?」
「分からない………だが、侵略を恐れながらの生活はもう嫌だ……」
「皆、同じ意見だ」
ジェルバ国北側の騒ぎの一方、東側では来賓が到着する。北側のコルセア国、東側のモルディア皇国、西側のアガルタ国側にそれぞれ大門があるジェルバ国。よじ登れるような高さではない高い塀の中にあるジェルバ国への往来はこの大門からでは行き来出来なかった筈だった。しかし、北側の壁に穴が開けられていたのを、行方不明になった少女が開けたのか未だ不明のまま、その穴を大きくし、山賊が侵入して来た事が後に判明するのだが、北側と東側の騒ぎで侵入経路の報告前に、その穴を塞ぐ事を北側の民や兵士達は優先となった。
「早く穴を塞げ!捕まえた山賊は牢獄に連行しろ!!」
「東側の騒ぎは東側警備の兵士に任せろ!」
その東側では、北側への注視をする余裕もあるとは思えない騒ぎになっている。
「民は近寄ってはならぬ!モルディア皇国からの大使に無礼を働くな!!」
「……………何やら北側が騒がしいと思わないか?マーク」
「知りませんよ、我々は初めてジェルバ国に入ったんですから………ルカス様こそ、他国で騒ぎを起こさなないで下さいね」
騎乗する丹精な青年と、その侍従であろう青年が並走して騎乗のまま会話をする2人。馬車や兵士達を引き連れた姿に、ジェルバ国の女達はうっとりとした顔を見せていた。貴族の青年を見る機会等、民からすればあまり無い様だ。
「人聞き悪い………いつも俺が騒ぎを起こす根源の様に言わないでくれ」
「起こしますよね?先日の夜這い騒ぎとか、魔獣討伐に行った際の、力を加減しなかったから、斬撃が兵士達にも当たった事とか」
「あれは魔獣が思ったより弱かったのと、夜這い騒ぎは、酔って部屋間違えたからだろ?女には被害無かったんだからいいじゃないか」
「日頃からの行いが雑で散漫だからの結果なのでは?」
「お前…………仮にも君主に対してよく言えるな……」
「日頃からの行いが悪い方に今更取り繕えと?」
「俺は仮にも皇太子だぞ」
「…………そうでしたねぇ」
黄色い声が飛び交う中で、それを気にも止めない2人は、ジェルバ国の兵士の案内でジェルバ国の城に着く。
「小さい城だな………裕福な国だろうに……」
「ジェルバ国の歴史を知らないのですか?ルカス様」
「知識だけでは計り知れんのだ………密集した街並み、それによる人口数………それに似つかわしくない国土………見聞きしてこそ分かる事もある………金があった所で、国外に出るに出れない種族の国だ。家畜や作物の需要も良いとは思えない」
「作物を育て、家畜を育てる場所がないのでしょうね………」
「…………あぁ………それに見たか?東門から西側の壁だけでなく、北側南側の囲われた高い壁を………長年、モルディアからだけでなく、コルセア、アガルタからの迫害があった証明だ…………それが、歴代の王達はジェルバ国の国土を削ってきてしまったと言うのだからな」
「コルセア、アガルタも………ジェルバ国の産出する宝石は欲しい物なんでしょうね………ですが、この国土で何処から産出されるのか……」
「……………知らないのか?ジェルバ国の種族の事」
「何をです?」
「城に入った後で説明してやるよ」
馬から降り、城内に入るルカスとマーク。そのまま、一旦客間に通された。そこで城の侍従が簡潔に説明をする。
「申し訳ありません、此方で暫くお待ち頂けますでしょうか………少し前に、国内で族が侵入しまして、その処理で国内が混乱しておりまして………」
詳しくは言わず、頭を下げ謝罪するジェルバ国の侍従達。
「………北側が騒がしかったのはそれでですか?」
マークがその言葉に反応する。
「は、はい………被害もありまして……」
「……………仕方ない、ゆっくりさせて頂こう」
ルカスは、部屋を見渡しソファに座らせて貰うと、首元を緩め一息付いた。着いて直ぐに会うにしても、旅疲れもありその休息は有難かったのだろう。
「只今、お茶を準備させますので……」
「ありがとう………頂くとする」
侍従は再び頭を下げ、退室した。
「それで?ルカス様………先程の続きを教えて下さいよ」
「…………先程の話?」
「ジェルバ国の種族の話ですよ」
「…………あぁ……それか………ジェルバ国の種族はツェツェリア族なんだよ……ツェツェリア族は話で聞いた事あるだろ?」
「…………ツェツェリア族なんですか?」
「昔は産出される宝石欲しさから迫害を受けて来たツェツェリア族は、この土地に壁を作り、迫害から逃れひっそりと住んでいた。だが、ツェツェリア族と名乗ると更なる迫害を受ける為、族長がジェルバ国を建国したのさ」
「………ツェツェリア族といえば、この大陸で奴隷にしたい種族の筆頭ですよね……もはや伝説で絶滅したのだとばかり………」
「…………実しやかに生き残って来た者達が居たんだよ……僅かばかりの宝石を加工し、輸出し生計を立てていた………だが、ジェルバ国周辺の国が大きくなり過ぎて、今はジェルバ国の国土さえ取り合う始末だ………奴隷にして服従させようと、模索する国が動き始めるのもおかしくない」
「だから、ルカス様は直々にこちらに来た、と?」
「………まぁ、そんな所だ………戦争になる可能性もあるからな………ジェルバ国王の返答次第になるが、動けるなら直ぐにでも行動を起こそうとは思ってる」
コンコン。
『失礼致します…………お茶をお持ち致しました……入室しても宜しいでしょうか?』
ルカスとマークが話をしていると扉をノックする音が聞こえた。
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