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悲しき処罰と重圧の枷

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 マシュリー誘拐監禁事件の処罰が決定されたのは、マシュリーが意識を取り戻してから1週間程経ってからだった。事件から2日程で目を覚したマシュリーへの事実確認をまとめ、首謀者と見られるアンナレーナ、共犯者のコレットや加担したアンナレーナの下僕達の話を照らし合わせた結果、アンナレーナは薬物療法も含み無期限の投獄が決まり、コレットは爵位剥奪、平民として暮らし、慈善事業を5年続ける事を課される。他の男達はレナードに暴力を奮った事もあり、傷害罪で3年から5年の投獄が決まった。

「わたくし………アンナレーナ様のお気持ち察しますが、参考はしても同意はしませんわ」
「は?何で察せるんだ?………あの女の事」

 判決をマシュリーも聞いた後、ルカスと皇族専用庭園を散策中の時に、しみじみと言葉にする。

「始めは純粋にルカス様を愛していたんだと思いますわ………それが、卑屈になっていってしまったのは、ルカス様がアンナレーナ様を愛してなかったから………美しくなれば着飾ればまた見てくれると思っていたのだと思います」
「俺には欲の塊にしか見れなかったからなぁ…………幻覚作用の植物を常用していた事で、益々意固地に執着したのだとしたら、迷惑な話だ………婚約をアンナから持ち掛けられ、打算をした方が俺だが、条件として始めに伝えておいた事がある………『俺からの愛情を求めるな、その代わり俺も愛情を求めない』と………ただ、になれる女を求めた利害関係で居たかった」
「…………そんな条件、冷たいですわ」

 マシュリーは、そんな言葉を言うルカスの腕に掛けた手を抜こうとするが、ルカスはその手を掴んで離さなかった。

「……………」
「………ルカス様?」
「今は違うぞ?」
「……………分かってます…………ですが……今のわたくしの前でのルカス様と違い過ぎて……少し怖くなりました………」
「…………マシュリーと出会ってなければ、今もだと思ってるよ………君が変えてくれたんだ」

 マシュリー自身、ルカスの性根を変えたとは思ってはいない。思い返してもそのきっかけが分からなかった。

「わたくし、ルカス様を変えましたの?」
「変えたなぁ………弱々しい印象だった君が立ち上がった時に、こんな純真で民達を大事にする令嬢を見た事無かったからね………モルディア皇国には、俺の外見と地位しか見てくれない令嬢ばかりで、民達を大事にしようと考える者等居なかった………あぁ、この令嬢は民を思う気持ちは、国が変わっても俺が支え、愛情を注いでいけば、変わらないだろうな、とね…………手放したくないんだ……生涯ね……俺が俺で居る為に」
「……………ルカス様……」

 出会った時に、そう思ってくれていたのを初めて知ったマシュリー。ただ外見で好かれ、異種族間の婚姻を企んだからから来た、上辺の婚姻かと思っていた。好きにさせといて責任を取る安い気持ちではなかった事に、安堵と愛しさが溢れ出る。
 マシュリーはルカスが握った手の上から、逆の手を添えると、ルカスを見上げた。

「ん?」
「安心しました………わたくし、ルカス様のお気持ちに不安がありましたから」
「…………あれだけ、好きだと言っていたのに?………信用無いなぁ………」
「…………わたくしを上辺でしか見てくれていない男性が多かったのです………でも、ルカス様は言葉はそうでも、行動は生真面目な方でしたから戸惑ってました」
「もう不安は無い?」
「はい………ありませんわ………わたくし……夢を諦めなくても良いのだと……改めて思いましたから」
「…………あぁ、言ってたな……密かに秘めた夢がある、とか……それは何?」

 ルカスは歩みを止め、マシュリーも止まり、お互い見つめ合う。

「笑わないで下さいね?」
「笑える話なのか?」
「誰にも話た事が無くて……」
「へぇ~、じゃあ俺が初めて聞くのか」
「そうなりますわね………」
「それで?マシュリーの夢は?」

 マシュリーは俯き恥ずかしそうに言う。

「異種族同士でも、争いのない国で幸せに暮らしたい、と………そして、ツェツェリア族の民を増やす為に、愛する人との子を沢山産みたい、と………ですが、愛する人がわたくしには居なかったので…………」
「…………その愛する人、て俺の事?」
「ほ、他に………誰が居ると!?」
「今からでも協力するけど?」
「結婚式迄は、避妊します!」
「ちぇっ」

 ルカスは笑いはしなかったが照れていた。マシュリーに選ばれた喜びと照れで嬉しそうな顔をする。

「わたくし…………ルカス様に嫁げば願いが叶うと、打算したんです………純真なのでは決してなく、わたくしもルカス様を利用した様な気がして………気持ちも本心での事なのかそれとも助けて頂いた事で感謝から来る気持ちなのか………分からなかったのです…………ですが、先日のルカス様がわたくしを救って頂いた時、ルカス様の事しか頭に浮かばなくて………目の前でレナードが暴力に遭っていた時も、ずっとルカス様に縋ってましたわ………助けて頂けましたが、もし手遅れだったら、と思えばとても恐ろしくて……あぁ、わたくしはルカス様を慕っているのだな、と………申し訳ありません……わたくし重いですわね……」

 ルカスは一瞬固まり、手を繋いでいた力を込めると、マシュリーを早足で引き連れてガゼボに連れて来て膝上に座らせてしまう。

「ル、ルカス様?」
「……………はぁ………駄目だ………」
「は、はい?」
「………もう、可愛くて可愛くて……」

 そう言ったルカスはマシュリーを膝上で抱き締め、長い髪をまとめていたマシュリーの項や肩に顔を埋めると、ドレスの裾を捲っていく。

「ルカス様っ!」
「触るだけ…………ね?」
「!!」

 耳元で色気のある声色で、マシュリーをにさせようと、マシュリーが弱い声質と音量で、身体を疼かせた。
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