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少女期
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しおりを挟む「此処に居ろ!」
エレノアが連れて来られたのは地下牢だった。
謹慎場所にはもってこいの場所だろう。
古い邸には、各貴族の邸に地下牢は必ずあった。古びた地下牢を見ると、手入れはされていない様でカビ臭い。
エレノアは壁に凭れ、足を投げ出す行儀の悪い座り方で、天井を仰いだ。
「…………流石に、これは堪えたなぁ………王太子に会うの楽しみにしてたのに………コッソリ見ちゃおっかな………私にはこんな場所、簡単に抜け出せるし」
働いて分かる、邸事情というものがある。
この地下牢に人は滅多に来ない。そして、それは恐らくそのまま、食事も運ばれる事も無いだろう。
「丁度良いかも………このまま帰らなくても誰にも心配されないし、首都から離れてのんびり過ごせるわ………邸や家族に未練ないし」
抑制していた魔力を全開にし、エレノアは裾に付いた砂埃を払うと、口の中を治癒する。
「さて…………王太子を拝んでから出て行くとしましょうか…………」
ぽわぁぁぁっ、と暗い地下牢に光が照らされると、ブツブツと魔法詠唱したエレノアは、魔法陣を床に作った。
『我、聖女エレノアより命ずる。我を光導く先へと転移させよ』
ベルセルク公爵家の庭に一瞬で移動し、見つからない様に姿を隠したエレノア。
『エレノア様、何をなさってるんですか?』
「ロンか…………何って家出しようと思って隠れてるの」
ベルセルク公爵家に住み着いていたフクロウのロンの住処にエレノアは来たのだ。何処に出るか、で見つかっては困るので、獣の住処であれば、人も寄り付かない。
『へぇ~、なら俺も付いていきますよ』
「気に入って此処に居たんじゃないの?」
『エレノア様が居たから俺も此処に居たんですよ。貴女が俺に名前を下さったから』
「ふふふ………私もロンが傍に居てくれたら嬉しい」
エレノアがロンの住処に入ったのに、嫌がるどころか、エレノアの指にスリ寄って来る真っ白なフクロウに、エレノアは癒やしを貰えた。
「じゃ、そうと決まれば、家出!………と言いたい所だけど、先に王太子ご尊顔に出発!」
『王太子?』
「今、此処に来てるのよ………もしかしたら、私の結婚相手だったかもしれなくって………眉目秀麗だったら残念だったけど、私の弟の子孫だったんだから、まぁまぁ見れる顔だと思ってんのよね」
『面食いなんですね、エレノア様』
「うん、結婚した事ないもん。だから、結婚とか恋に憧れるんだぁ」
『……………10歳にしか見えないので、乙女チックなエレノア様は何か不気味です』
「し、失礼ね!ロンも行くなら、姿消すよ?」
『お供しますよ』
良きパートナーはフクロウになったが、これからは楽しい生活が出来る、と思って浮足立っていたエレノア。
姿を消して、妹とレオナルドが居るガゼボに向かうと、やはり警護は厳重で、気配も消す羽目になる。
『気配迄消させるとは、流石王家直属の騎士達ね』
『俺からすれば、エレノア様に勝てる人間なんて知りませんよ』
『過大評価し過ぎよ、ロン』
ガゼボ迄やって来ると、まだ8歳ながら目がハートになっている妹と、目の前でつまらなそうにしている男がレオナルドだろう。
『ほら、やっぱり眉目秀麗!流石初代聖女エレノアの血筋ね!』
『エレノア様、乗り出したら気付かれますよ!』
『気付かれないってば!私の気配を気付く人が居るとしたら、魔獣達か余程の魔力を持った人達じゃ………な………』
『エレノア様?…………うわっ!』
妹の後ろに居て近付き過ぎたのか、レオナルドが妹ではなくエレノアを見据えている。
そして、目が合った瞬間、レオナルドが立ち上がった。
「レオナルド殿下?…………あ、あの……如何なさったのですか?」
「……………あぁ、いや……何でもないよ……所で、令嬢は聖魔法の訓練はしているのかな?」
「は、はい!で、ですが父は、エレノアの聖魔法はオルレアン国随一なのだから、焦って訓練はしなくて良い……と………王妃教育を優先にしなさい、と言われております…………わたくしはレオナルド殿下の妃になるのですもの………立派な淑女になるべく、勉強しておりますわ」
「……………ふ~ん……で、君は誰?」
『!………ロン!逃げるよ!』
『あ!エレノア様!』
「君?」
「……………あぁ、行っちゃったか……残念」
明らかに、レオナルドはエレノアに興味を示して声を掛けた。
妹はエレノアの気配に気が付きもせず、レオナルドだけが知るエレノアにレオナルドは含む所があった様だ。
「レオナルド殿下?」
「もう良いだろ?顔は合わせたし、私は帰るよ。やらなければならない事が出来たしね………あぁ、あと……令嬢との婚約は白紙に戻す事になると思うから、そのつもりでね………正式書簡は直ぐに出す。令嬢が嫁ぐ先は、直ぐにきっと見つかるだろう…………失礼」
「え!…………で、殿下!」
一方的に婚約解消したレオナルドは、急ぎ側近を呼んだ。
「直ぐにベルセルク公爵家の家族構成を調べてくれ…………もう1人エレノアが居る筈だ!彼女を俺の婚約者とする!」
エレノアの知らない所で、何やら動き出すオルレアン国。
これからのエレノアは本当にのんびりライフが出来るのだろうか。
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