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少女期
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しおりを挟むその日の夜のベルセルク公爵家は大騒動だった。
帰宅したベルセルク公爵の前には、大泣きする四女の愛娘と怒り狂うカミラ。そして、慌てる家令達で、何が起きたのかが分からないまま、ベルセルク公爵宛にレオナルドの名と承認したとする国王からの、エレノアとレオナルドとの婚約解消報告。
「貴方!如何してエレノアが婚約解消されなければならないのです!エレノアは殿下と談笑しお茶を嗜んでいただけですのに!」
「何があったのだ!エレノア!」
「わ、分かりません…………ひっく……何も………」
泣きじゃくってばかりで、エレノアはパニックになっていて宥めても泣きやまなかった。
「出来損ないも苛立たせるし、今日はエレノアには災難な日ですわ………全く……」
「出来損ない?………あの娘が如何したのだ」
「……………貴方がエレノアに与えたネックレスを欲しがって、引き千切ったそうです……もう………腹立たしくて……」
「…………出来損ないは何処だ」
「地下牢ですわ………謝罪しないので、反省させてます」
「……………腹立たしい!エレノアに対する仕打ちもだが、こうなったのも出来損ないの所為だ!」
ネックレスの件と婚約解消は関連は無いのに、エレノア可愛さに怒りの矛先を見失ったのだろう。ベルセルク公爵は直ぐに地下牢へと足を運んだ。
しかし、エレノアが居る訳は無く、ただ其処には魔力残渣が残され、魔法陣がくっきりと印されている。
「な…………出来損ないは何処だ!鍵はしっかり掛けたのだろうな!」
「は、はい!今もしっかり………」
鍵が掛かっていれば、そう簡単には出られないだろう地下牢。人目にも付くし、出たら分かる筈だった。
「あの娘の魔力は大した事は無かった………な、何故こんな高度の魔法陣が………」
「壁も壊れた形跡ありません!この壁は攻撃魔法が効かない仕組み………例え効いても、大爆発が起きる筈………」
「直ぐに魔法研究所の職員を呼べ!調べさせろ!」
怒りの矛先になるエレノアが居ないのだ。ベルセルク公爵の感情は如何程だっただろうか。
この事は内密に調べさせようとしたが、それは無理だった様だった。
✦ ✦ ✦
翌日のベルセルク公爵家。
「な…………何だって?………も、もう一度説明してくれ………」
「は、はい…………あの魔法陣は古代の文面が記載された魔法陣………過去数度………初代聖女エレノア様が使えたとされる、移転魔法でした………」
「し、初代………聖女エレノア………い、一体誰があれを起こしたのだ!」
ベルセルク公爵家一大事のこの事件に、エレノアを除く家族全員が見守る中、明かされたのはベルセルク公爵家一同、度肝を抜く人物だった。
「ま、魔力残渣からは、その方の魔力か如何か調べねばなりませんが、状況を察するに……失踪された三女、エレノア様かと………」
「エレノア!あの出来損ないだと!…………あ、あり得ん…………絶対にあり得ん!」
「そうですわ!貴方!あり得ません!あの娘は、洗礼式で微弱な魔力しか無かったのですもの!誰もあの娘が魔法を使うのを見た事もありません!」
「いい加減な事を言うなよ!あの出来損ないは禄に字も理解してなかったんだ!」
「ツヴァイク………そう………そうだ……あの娘には書庫の出入りも禁止して………」
「し、しかし………状況が物語っておりまして………」
信じられないとばかりに、ベルセルク公爵家一同は否定する。
「あり得ん!」
「あり得ないわ!」
「だ、旦那様!奥様!」
「何だ!この忙しい最中に!」
執事が慌てた様子で、走って入って来ると、ベルセルク公爵に耳打ちをして来た。
「な、何でまたこんな時に!」
「如何なさったのです?貴方」
「レ、レオナルド殿下がお見えになられる」
「殿下が!きっとわたくしに、昨日の事を謝りに来られたのだわ!す、直ぐにお通しして!」
もう、何が何だか分からなくなって来たとばかりに、ベルセルク公爵は喜んで良いのか、焦らねばならないのか、と結局青褪めていた。
ただ、カミラとエレノアは大喜びしていたのだが、これまた予想に反する事を、レオナルドは突き付けにきたのだった。
「…………い、今………何と……」
「何度だって、言おう。ベルセルク公爵家三女、エレノアを我が妃に所望する、と言ったのだ」
「で、殿下………よ、四女のエレノアでは………」
「紛らわしいな………何故娘に同じ名を付けたのだ………三女だ三女!彼女を私の妃にしたい」
「殿下………言ってはなんですが、アレは出来損ないで…………」
レオナルドと学友であるマクレーも黙って居られずに、口を出した。
「マクレー、何だ出来損ないって…………あれだけの魔力に、獣迄従事させた彼女だぞ?しかも昨日、四女の後ろで気配と姿を消し、フクロウと楽しそうに話していた。それ程の魔力の持ち主が出来損ないだなんてあり得るか」
「ふ、フクロウ?………姿を消して……」
「この中で誰か出来るのか?」
もう、言葉が返せなかったのか、ベルセルク公爵家一同は真っ青な顔して固まっていた。
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