聖女はもうのんびりしたいんです【完結】

Lynx🐈‍⬛

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少女期

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 翌日、神殿では聖女降臨の儀式を王宮非公認で行われてしまった。
 王族の公認が出ていない儀式は無効だという、国王の訴えも神殿はお構いなしで、王族を馬鹿にした態度だったのは、民達も不審である。

「如何なっているんだ、最近の王族と神殿の関係は…………王太子殿下のご婚約者様が聖女だというのを誤報だというのも結局分からないままだし」
「神殿の方の儀式、見て行くか?」
「見て何になるんだ………平民の俺達に何か恩恵がある、て言うのかよ………中にはどうせ入れねぇよ………お貴族様達がゾロゾロ集まって来やがって…………」

 一方の王宮では騎士達を招集させ、神殿に向かわせようとしていた。

「無許可で儀式をする等、王族を蔑ろにした行為、断じて許さん!」
「全くです!陛下!」
「これから、王族と神殿との対立は激化するであろう………腐敗した神殿の在り方を、如何にかして一掃しなければならない………正式な聖女は、我が手中にあるのだ…………それだけは忘れないで欲しい」
「陛下、私に騎士団を指揮を取らせて下さいませんか」
「王太子…………良いのか?」
「はい………エレノアの名を汚す神殿には私も怒りが治まらないので」

 サイラスと神殿に向かう準備をしていたレオナルドの所に、エレノアがやって来た。

「行くんだ、神殿に」
「エレノアは来ちゃ駄目だぞ」
「行かないよ………両親も妹も見たくないし……でも、ベルセルク公爵家が神殿派だったのは知らなかったなぁ」
「俺も知らなかったよ。ツヴァイクもマクレーも友人だったのに、何も聞いた事がない」
「知らないんじゃない?あのクソ兄達は………姉達も、自分勝手な人達だしね………会ったら馬鹿、て言っといて」
「……………言っとく………サイラス、行くぞ」
「はい」
「あ、ちょっと2人待って!……………そのままね……………はい!良いよ」

 背中をエレノアに向けた時、エレノアはレオナルドとサイラスの背中に手を翳した。

「何かしたのか?エレノア」
「加護を与えておいた…………魔法防御のお呪い…………少々、強い魔力に当てられても守って貰えるから」
「ありがとう、エレノア」
「エレノア様、感謝致します」

 本当は全員に掛けたいが、今思い付いた事なので仕方ない。

「……………ヴィン………聞こえたら返事して」

 窓を開けて、風の精霊を呼び出した。

『お呼びですか?エレノア様』
「神殿を見張ってて欲しいの、私の代わりに」
『何が起きるのです?』
「無いならそれに越した事は無いんだけど、神殿でするんだって」
『聖女降臨?…………もう、エレノア様はお生まれになられて降臨されているのに、ですか?』
「神殿は馬鹿なのよ…………私が生まれた時点で、聖女は私なのに、私が聖女を拒否した頃から、降臨される方法知らないもんだから、そんな儀式に拘るんだよ…………騒動が起きるだろうから、レオ達を守って」
『……………了解しました。エレノア様の願いなら』

 神殿は知らないのだ。オルレアン国の聖女は、生を受けた時に降臨する事を。それは記述にはエレノアは残さなかったからだし生まれ変わった時、自分に何が起きたのかも分からなかったので、手記にも残しておらず、それが確信出来た時にはもう、神殿が出来てこの体制が出来てしまっていたのだ。

「姿消して行ける事も出来るけど………わざわざ腹立つ顔を見に行きたくもないもんね………」


        ✦  ✦  ✦


 その頃の神殿前。

「王太子レオナルドが命ずる!直ちに門を開けろ!許可せぬ儀式は即刻止めるのだ!」

 神殿に入れない平民達と、神殿の聖騎士達に囲まれ、王宮騎士団とレオナルドが対峙する。
 一速触発のこの場所で、今から儀式を始めようとする神殿の入口から、枢機卿が現れた。

「これはこれは、王太子殿下…………ご婚約者であられる、エレノア様の儀式をご覧になられるのですね…………どうぞ中へ」
「我が婚約者は王宮で、この騒ぎの鎮圧を望んでいる!この神殿に居るエレノアは、聖女に非ず!」
「儀式を始めたら王宮騎士団は神殿に関わる者全て反逆罪と見なし捕らえよ!」

 王宮騎士の指示も聞こえ、枢機卿は気持ちの悪い作り笑みを浮かべた。

「反逆罪?おかしな事を仰る………我々は聖女を神と崇め、愛する者達………オルレアン国全ての民がエレノア様を愛しているではありませんか………その代弁者として、今此処に新たな聖女様が君臨されるのですぞ!」

 如何したら伝わるのだろうか。
 反逆罪として捕まえても、殆どが貴族達。言い逃れる術も用意されている筈だった。
 すると、神殿の中から歓声が挙がり、嫌な余暇がレオナルドの中で過る。

「まさか、時間を早めたな!枢機卿!」
「はて、何の事やら………」

 布令で予告した時間より前に、レオナルド達は到着していて、儀式その物を潰そうとしたのに、儀式その物を早めていたらしい。

「聖女が降臨したぞ!」
「素晴らしい、力だ!」
「神々しい!」
「クソっ!乗り込むぞ!」
『駄目です!入っては!』
「っ!……………ま、待て!」
「殿下?」
『禍々しい物を感じます………エレノア様から貴方様をお守りする様、申し使ったヴィン、風の精霊です』

 レオナルドが突入指示を出した途端、ヴィンが阻む。

「エレノアが?それは頼もしい………禍々しい物とは何だ?」
『エレノア様が嫌いな物としか………』
「うん、嫌いだろうな………」
「殿下、何故突入しないのですか!」
「風の精霊が止めた………エレノアの言葉と取る………ヴィン、と言ったな………如何すれば良い?」
『禍々しい気が出て来ます…………それを捕らえれば良いかと』
「今から出て来る者に注視せよ!捕らえて構わない!」
「はっ!」

 しかし、出て来た者に驚いたレオナルド。
 
「ベルセルク公爵令嬢!」
「え?エレノア様の妹君!」

 そして、その肩を掴み、エスコートをしていた教皇、サーダリーだった。
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