聖女はもうのんびりしたいんです【完結】

Lynx🐈‍⬛

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少女期

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「レオナルド殿下!………あぁ、わたくしの為に来て頂いたのですね!」
「聖女様、先ずは皆にご挨拶を………こんなにも貴女を祝福しておられますよ」
「はい、教皇様」

 神々しいというより、禍々しい気がレオナルドには感じる。特にの背後に立つサーダリーにだ。

『あの者です!…………あの少女も出てますが……あの者の方が……』

 ヴィンの声が震えていて、レオナルドも警戒した。

「わたくし………この度聖女となりました、エレノア・ベルセルクと申します。婚約者のレオナルド王太子殿下も駆け付けて来て下さいました」
「神殿の言葉の方が事実だったんだ!」
「違う!」
「王太子殿下、ご婚約おめでとうございます!」
「聖女様、王太子殿下、万歳!」

 言った物勝ちとはよく言う。大勢の民衆の中で、大騒ぎになるのは直ぐだった。

「黙れ!殿下のご婚約者はその娘では無い!」

 サーダリーを捕らえるより、民衆の騒ぎを終息させる方に手間取るだろう。

「クソッ!何度、神殿に苦渋を飲まされてきたか…………」
『突風を起こします』
「頼む!」

 ブオッと突風が吹いた神殿前。

「聖女様、中へ」
「で、でも…………殿下も……」
「王太子殿下は直ぐに貴女の元に参りますよ」
「待て!教皇!」

 パニックになっている神殿前で、レオナルドは何も出来なかった。
 民を傷付ける事も出来ず、ヴィンに風を起こして貰っただけの不甲斐なさに、地面に片膝を付き、地面を殴った。

「クソッ!クソッ!……………王家を何だと思ってる!神殿の傀儡にさせるな!」
「殿下………民衆が見ています………お立ち下さい………」
「っ!……………サイラス、この民衆達に説明してやれ…………信じるかは分からないがな………あれは偽聖女で、王家に巣食う汚れた物達の集まりだ、と…………」

 信用をいつまでも取り戻せない王家。
 神殿を信用する民衆。
 腐敗をこれ以上広げる訳にはいかなかった。


       ✦  ✦  ✦


「申し訳ございません、陛下………儀式は止める事が出来ませんでした」
「……………そうか……中の様子は分かったのか?」
「いえ…………ですが、頑なに姿を王家に見せなかった教皇の顔は覚えました」

 王宮に戻って来たレオナルドは国王に報告中も肩を落とし消沈している。

「教皇…………か……其方の話では、過去の聖女4代から5代目のエレノアが居られない間に、神殿が出来たという事だが、言うなればその教皇は、王家の血筋の可能性もあるかもしれぬな」
「神殿は、我々王家に系図さえも渡しませんからね…………何処迄馬鹿にすれば気が済むのか………」
「エレノア嬢は何と?」
「戻って来てからはまだ会ってません」
「そうか…………この事はしっかり伝え、助力を求めるが良い………」
「はい」

 その後も会議が行われ、王族派と神殿派の派閥争いが更に溝を深くして行った。


       ✦  ✦  ✦


 国中で、神殿の策略だろう、またも王族への許可無く、祭りが行われたのは、神殿前の騒ぎから翌日だった。
 祭りは準備が必要であろうに、神殿派の領地では賑やかな祭りが行われていて、大盛況という、またも王族派の神経を逆撫でする。
 神殿派の一派の領地は、神殿が建てられているので、無い領地や街や村は、まるで蚊帳の外。

「何で聖女様が誕生したのに、この村じゃお祭りしないの?」
「……………それはね、私達が神殿にお布施を出せないからよ…………お金が無いと、聖女様からの加護が無いの………」

 金を巻き上げられない貧しい場所には加護が無い、と言わせる神殿。そんな街や村は至る所にあった。少しずつ蝕み、神殿は貴族を味方に付け増やしつつ、王家への不満を貴族達に漏らしながら、神殿の代々の教皇の手により完成形になりつつあった。

「神殿の中で、祝賀会が行われるんだそうだ」
「……………何で知ってるの?」
「招待状が君の妹から送られて来たよ」

 レオナルドがエレノアに見せて来た。

「行くの?レオ」
「行く訳ないだろ…………俺は神殿が嫌いだ………何が神だよ………エレノアは此処に居るのに、それを崇め、神殿の新しい聖女は初代聖女エレノアの声を聞ける、て巷では噂してるそうだ」

 エレノアの妹は、神殿の厳重の警護で、会わせては貰えないだろう。レオナルドが面会を求めても、神殿に来い、と言われているらしく、王宮には来ない。王宮での面会であれば、対処は出来るのに、とレオナルドはエレノアにボヤいた。

「よしよし…………」
「な、な、慰められた!」
「して欲しそうだな、て思ったから」
「……………エレノアは、如何してそんなに強い精神なんだよ」
「なまじ、人生経験豊富ではないのだよ………あははっ」
「……………もっと撫でて………エレノア……」
「うん…………気の済む迄撫でてあげる」

 エレノアは自分を理解してくれるレオナルドが可愛く見えて仕方なかったが、それを言ってしまえば、もう逃げられないだろう。エレノアにまだその覚悟は無かった。
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