私、魔王に恋してしまいました!【完結】

Lynx🐈‍⬛

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 佑美にアマリエの記憶の断片だが蘇る。
 それを思い出すと、益々ルシフェルの方へとは行けなかった。

「シュゼルト………城に帰ろ………ね?」
「あぁ、そうだな」
「良いんですか?アマリエ………人間界に還らなくても」
「っ!」

 ケルベロスに佑美は乗せられて、キッっとルシフェルを睨んだ。

「…………私………還りたいけど、お兄様にされた事……許さない!お兄様に還して貰いたいとは思わない!」
「記憶を戻したくないんですか!アマリエ!」
「断片的でも………アマリエだった時と今の私、佑美も、シュゼルトが好き!愛してる!戻らなくてもこの気持ちは変わらないわ!」
「ユウミ………あぁ、俺もお前が全てだ……」
「シュゼルト………」

 ルシフェルの見ている前で抱き締め合う佑美とシュゼルト。
 邪魔するならすればいい、とばかりに、2人の絆は強かった。
 還りたい、とは常に思っている。
 だが、断片的に思い出されたのはルシフェルがアマリエにしてきた事を許せないから、ルシフェルの力を頼りたくないのだ。
 ケルベロスに乗った佑美とシュゼルトだが、出発直前ルシフェルにより、佑美へ神力が注がれる。

「っ!…………きゃぁぁぁぁっ!」
「ユウミ!」

 佑美はルシフェルに引っ張られる様に宙に浮き、防壁魔法をシュゼルトに掛けられていたものの、攻撃魔法ではなかったからか、鞭の様に靭やかな力で佑美がルシフェルの胸元に収まった。

「シュゼルト、貴方にはアマリエを渡しませんよ」
「ユウミ!…………ルシフェル!貴様っ!」
「っ!」

 佑美はルシフェルの腕の中で意識を途切れさせる。

「もう、貴方はアマリエに会う事はありません。私が永遠にアマリエを守りますからね」
「ルシフェル!待て!」

 ケルベロスの方向転換するより、シュゼルトは飛び降りたが、距離も離れていたので、佑美に近付く事も出来ず、ルシフェルは魔法陣で消えた。
 佑美を抱えながら。

「ユウミ!」

 アマリエの兄だと思えばこそ、手加減してしまった事を後悔するシュゼルト。
 魔王として、冷酷なシュゼルトだったが、アマリエには激甘な男だった。

「クソッ!…………天界か?………ふざけんな!」

 佑美を取り戻すべく、シュゼルトはまた動かねばならなくなった。


        ✦✦✦✦✦


 連れ去られた佑美はというと、見覚えのある風景が目覚めると飛び込んで来た。

「……………シュゼルト!」

 シュゼルトを呼んでも、シュゼルトが居ない世界。
 そこは佑美が慣れ親しんだ人間界だった。
 飛び起きた風景は、病室の様で、佑美はベッドの上で点滴をされている。
 倒した点滴台により、佑美から点滴の針が抜けてしまった音で、看護師達が駆け付けてきてくれた。

「気付かれましたか!」
「…………あ、あの此処は……」
「病院ですよ。お住いだったマンションが爆発に遭って、奇跡的に助かったんです」
「…………え?………か、還って来た?」
「還って来た、て………大丈夫ですか?頭打たれてますか?担当医を呼びますね」

 酒を飲んで眠り、それが夢だった、と言うのだろうか。
 それにしてもリアルな感覚が身体に残っている気がする。

「佑美!」
「……………え………じ、仁……?」
「良かった!気が付いて………」

 病室に見舞いに来ていたのか、佑美の恋人。
 現実なのか夢なのか、全く佑美は追い付かない現状に、呆然としている。
 しかし、背中が吊る様な痛みが走り、佑美は点滴が刺さってない方の手で、背中を擦った。

「痛っ…………っ!」
「佑美?怪我してたのか?………背中、血が滲んでるじゃないか!」
「…………え……」
「手当しますね………爆発時に背中を擦ったのかもしれませんね」

 担当医だと言う医者や看護師に囲まれ、恋人も佑美を心配そうに見守っている。
 
 ---私………夢見てた?………異世界に居た記憶は夢?…………っ!

 しかし、下腹部からドロッと溢れ出る感触は、夢では無い気がする。

「あ、あの………トイレに行かせて貰えませんか?」
「もう少し我慢出来ますか?背中の消毒したばかりで、今ガーゼ当てますから」
「歩けるか?佑美」
「あ、うん……多分………」

 背中の手当や、担当医の診察も済むと、トイレへと佑美は行く。

 ---コレ………夢じゃない………シュゼルトとセックスした後………ルシフェルに捕まったのよね………ルシフェルが私を人間界に戻したの……かな………

 還って来たかった場所だ。
 嬉しい筈なのに、あやふやな記憶に、情事の痕跡。
 点と点を結ぶのに、情報量が足りない。
 
 ---夢じゃなかったら…………シュゼルトは私を探す筈………ルシフェルは何処に居るの?ルシフェルはただ私を人間界に戻すだけで、解決させたの?

 分からない事だらけで、溢れた残骸は拭き取ると、佑美はトイレから出る。

「佑美」
「…………仁……付き添ってくれたの?」
「心配だからだろ。デートした夜に、佑美の住むマンションで爆発が起きて、奇跡的に怪我人は出たものの、死者も出なかったけど、凄い大惨事だったんだ。俺も翌朝それ知って、会社でも佑美が住むマンションだったから、会社も大騒ぎでさ………佑美は、マンション内の部屋で無事に見つかって本当に良かったよ」
「………:そ、そう………」
「精密検査で入院は必要らしいから、暫く安静にな」
「う、うん………そうするよ」

 幸いにも、2日程の入院という事になった佑美。
 現実に戻って来た事が、シュゼルトとの日々を忘れていきそうな気がし、夢で終わらせると思わされた。
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