私は競売に出された……でも終わりだと思ってたら大間違いよ!番外編【完結】

Lynx🐈‍⬛

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 翌朝、ロゼッタのショールが見つかった。
 そのショールがあった場所は城の庭園のガゼボ。
 しかも、切り刻まれた上、男の体液がベットリ付いた状態だった。
 
「き、気持ち悪い……調べ終えたら捨てて下さい………」
「当然です」

 来賓達は観光も兼ねて数日滞在する者も多く、王都の宿へ宿泊先を変えたり、王城での滞在を希望し、国交会議をする事になっていた。
 ロゼッタも新婚なのに甘い雰囲気は後回しし、リードと忙しくしなければならない中の、ショールの発見だ。

「リムル、怪我は大丈夫なのですか?」
「はい、打撲ですし……少々痛みがあるので、剣は握れませんが、護衛を増やして対処させて頂きます」
「無理しないで下さい」
「お心に感謝致します」

 何故切り刻まれたのか、何故白濁塗れなのかは気になるが、窺わしい者なら居る。
 ロゼッタに執着するオーウェンだ。
 しかし、オーウェンは部屋に篭って出ては来ないらしい。
 其処で、リードはヴェルゴを使い、オーウェンと仲の良い3人に集まって貰った。

「申し訳ございません、殿下方」
「…………いえ……」

 セヴィルとレインは黙っていたが、ダニーが代表で言葉を紡ぐ。

「オーウェンの事ですよね」
「はい………お話を伺いに行こうと部屋に訪れましたが、侍従達に阻まれまして」
「…………あの侍従達………誰1人として、オーウェンの侍従は居ないので………」
「気心知れた者を連れては来られてない、と?」
「全員………王妃や王太子の息の掛かった侍従だよ」
「…………な……」
「た、多分なんだけど……姫を奪い損ねたオーウェンの失敗を見越して、国に帰る前に………かも……だから、昨日止めに入りたかった……」

 ダニーは、王太子の側室を寝取るぐらいだから、侍従の顔も見た事があるのだろう。
 そして、セヴィルも国の事情も知っている。

「昨日、姫が味方を作ればいい、と言ってくれたけど、オーウェンには居ないんだ………オーウェンが出来が良過ぎて、味方になろう、王太子にさせよう、という時期もあったんだけど………」
「粛清された………」
「う、うん………だから、国から逃げるしかない、て………すると、レヨルドの王女が立太すると聞いて、婿に入りたい、てオーウェン志願してたら…………王が【妻競売】を再建させろ、て……」
「多分、オーウェンがセヴィルを押し倒した戴冠式は、オーウェンがロゼッタ王女と話すきっかけが欲しくて、だと思うんだよね………セヴィルは人付き合い下手だけど、それは一生懸命、人と接したい奴だから、きっかけ作りにさせたかったんだと」

 ダニーの言葉から少しずつ、事情を話していくレインとセヴィル。
 だが、友人だろうとも国の情勢に首を突っ込めないのは理解出来るので、聞いているヴェルゴもどうしようも出来ない。

「昨夜、夜会が終わられた後、オーウェン殿下とはお話しに?」
「…………オーウェンは、侍従達に連れて行かれたよ」
「後を追い掛けては行かれなかったのですね?」
「俺達…………アイツ等に近付けないんだ……だから、オーウェンが俺達に会いに来る」
「王妃や王太子から言われてるんだろうさ」

 身分を憚って、客間の清掃等は借りている侍従達に確認を取って、世話も必要最低限から、完全に城の侍従に任せる国も様々で、ベリエフ国は、食事以外の世話は拒否されていた。
 だからこそ、オーウェンが使う客間の中が今如何なのかは把握出来てはいない。

「…………分かりました……また何かあれば伺うかもしれません。帰国される迄はご協力を頂く事もあるかと思います」
「それは構わないけど………」
「レイン殿下……何か……」
「もし、オーウェン達が帰国を早めたりなんかしたら?」
「そのご報告はまだありませんので、今は何とも申し上げる事はございません……帰国が早まれば殿下方にはお知らせ致します」

 今はそれしかヴェルゴも言えないだろう。
 一旦、それをリードへと報告しに戻ると、ロゼッタのレースの残骸を苦々しく見ているリードが居た。

「閣下………見たくないのは分かりますし、触りたくもないのも分かってます………誰も好んで自分の以外のを触りたくないですし」
「いや…………もう洗った物だ……だが、コレを切り刻まれた事がロゼッタ殿下には悲しいだろう?」
「そうですね」
「今、目撃した者が居ないか、探し回らせている………」
「兄上!」
「…………何か分かったか!リムル!」
「はい!この者が目撃者から聞いた様で、目撃者も此処に連れて来ていますが、入室許可を頂いても?」

 リムルダールと王族騎士と一緒に入室は出来るが、リードの執務室への入室の許可は制限されている。

「構わん、入れてくれ」
「では、入れます」
「…………入室許可が出た、入って宰相閣下に説明を……」
「は、はい………」

 入室をして来たのは、庭園の庭師の1人だ。

「ほ、ほ、本……日……」
「挨拶はいい………見たままを閣下に話してくれ」

 城の中にも入れる立場ではない庭師だ。緊張で吃り、汗を拭くタオルを握り締めて震えている。

「楽にしてくれていい。敬語も不慣れだろう?見た事を話してくれ」
「へ、へい………ガゼボ周辺に、肥料を置き忘れてたのを思い出しまして、取りに行ったんですわ……ですが、何処かのお貴族様が騎士様数人に引っ張られる様にガゼボに向かって行ったんです………」
「貴族と騎士は、レヨルドのか?」
「し、知らない騎士の制服きてましたです……」
「何処のかは分からないか………それで?彼等はガゼボで何を?」
「わ、分かりませんです………俺が近くに行こうとしたら、追い返されて………こ、コレを………黙って受取れ、て………見た事を忘れろ、と………で、でも俺はこんなもん貰っても使えねぇ………レヨルドの金貨じゃねぇもん……」
「…………今、持っているか?」
「へ、へぃ………これですわ……」

 ポケットに入れていた金貨1枚。
 国ごとに違う通貨があり、他国に持って行っても使えはしない。
 そして、平民は簡単には他国へ行ける手段が無かった。
 庭師はリムルダールに金貨を渡し、リムルダールが確認すると、それを訝しげにリードに渡した。

「兄上………ベリエフ金貨です」
「……………ベリエフだと貴族はオーウェンしか来てないな……それで?他に何か見聞きしたか?」
「…………う、呻き声と………罵声……が……お、俺、喋っちまってこ、殺されやしませんかね?」

 怯える庭師はベリエフ国の騎士らしき者を怖がっている様子。

「…………大丈夫だ、彼等は直に帰る……それで、罵声はどんな事を?」
「…………し、失敗……しやがって……とか………どうせ殺される運命……とか………お、俺怖くって…………城の騎士様じゃねぇし……ど、如何したらいいか………」
「…………ヴェルゴ」
「はい」
「この庭師に、レヨルドの金貨1枚、そしてベリエフが帰る迄、休暇を取らせてやる様に、この男の上司に伝えておけ」
「はっ」
「君は暫く仕事を休ませる。ベリエフが帰る迄な」
「っ!………へ、へい!み、見つからない様にします!」
「騎士達もその男に危害が出ない様に気を配って欲しい」
「分かりました」

 リードは、金貨1枚ヴェルゴに渡し、ヴェルゴから庭師に渡された。ベリエフ金貨と交換したのだ。
 庭師を執務室から出すと、リードは更に苦々しくした表情へと変わっていくのを、ヴェルゴやリムルダールも見守った。


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