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『偽』聖女の誕生
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しおりを挟むそれからというもの、マリアは事ある毎にバルカスへ手紙を送り、夜会の参加を照らし合わせる迄の付き合いを密にしていった。
バルカスも、イルマを同行させて参加するものの、マリアの姿を見つけるとイルマを放置する様になっていく。それに対しイルマは何も言わない。だが、イルマに近付く男達を見つけると、バルカスは邪魔をしていた。
「イルマ、浮気するなよ」
自分の事を棚に上げ、婚約者であるイルマには牽制をするバルカス。マリアはバルカスの後ろで隠れる様に控え、イルマを見ているが、イルマはただ無表情でバルカスに物申す。
「わたくしは、同伴者が何処ぞの誰かと仲睦まじくしていらっしゃるので皆様が気を使って下さって、わたくしの話し相手になってくれているだけですわ」
この頃になると、初対面でマリアのカーテシーの下手さに注意したイルマへ、マリアは挨拶さえもしなくなっていた為、マリアの礼儀作法への注意もする気も無くなっていたイルマは、冷たい態度でバルカスとマリアを跳ね除けていた。
マリアの身分は侯爵、イルマは公爵だ。マリアより身分上のイルマに対し、敬いも表さない令嬢に、イルマも優しくは接しない。初対面での言葉の意図も感じ取らないマリアに、変わっていくのを望んではいたが、余りにもバルカスしか見ない言動に、もう何も言う必要は無いのだ。所詮、礼儀知らずの無礼な令嬢、と思うだけ。
バルカスに注意はしてはいたが、イルマの言葉等聞く耳を持たないバルカスは、マリアの甘え上手な媚と愛嬌で、盲目的にイルマを目の敵にしていった。
「イルマ!俺の友人に失礼だろう!」
「…………まぁ、おかしな事を仰る……仮にも婚約者として同伴しているわたくしの前で、男性を口説く様な振る舞いをされる方の方が失礼ではないでしょうか?それならば、わたくしを同伴させる必要は無かったのではないでしょうか?ご自分の見栄で、婚約者同伴にされたかっただけでございましょう?」
イルマがそう言うと踵を返し、バルカスから離れて行く。
「ど、何処に行く!まだ話は終わってないぞ!」
「……………つまらないので帰りますわ……殿下と一緒に乗って来た馬車とは違う馬車を頼みますから、殿下はそちらのご令嬢とごゆっくり……」
「うっ……………酷いです………イルマ様……私が何をした、と…………」
「マリア!!泣くな…………こら!イルマ待て!!」
「貴女はもっと礼儀を学ばれた方が宜しいのではなくて?侮辱行為を受けたのはわたくしなのよ?………皆様、失礼しますわ」
夜会の雰囲気は悪くなり、明らかに悪くしたバルカスとマリアに非難が集中する様になった。だが、バルカスは第二王子という立場であり、この行動から神輿を担ぎ祀り上げれば、調子に乗って王太子、王位継承させれば安泰ではないか、と考えた貴族達が派閥を作っていく。馬鹿な王子を崇めて王太子にしてしまえば政権を取れると踏んだ者達は、同じ様に馬鹿な令嬢、マリアにも媚を売る。
「お父様!私如何しても許せないの!あのイルマ、ていうバルカス様の婚約者!!バルカス様は私を好きなのに、何であんな失礼な女がバルカス様の婚約者なの!?」
「マリア…………可哀想なマリア……イルマ嬢はバルカス殿下と幼い頃から婚約者だ。それに、教養もあり人望があるクライン公爵の令嬢………その娘に勝つ見込みはあるのか?お前の方が可愛く美しい、バルカス殿下もお前に夢中ではあるが、真っ向勝負では勝てないかもしれないぞ?」
派閥が出来てからは、着々と事が進み、マリアは派閥貴族から、サウスローズ国の『聖女』の話を知る。
「あぁ、そうだ!『聖女』にお前がなれば、陛下も文句は言えまい!お前の名は初代『聖女』の名から頂いたものだ!お前こそ『聖女』に相応しい!」
ドルビー侯爵は、国内の幾つもある神殿の1つに大金を寄附し、神官を丸め込ませる。小さな金に困っていた神殿は、ドルビー侯爵やバルカス派の派閥貴族達に従ってしまう。そして、マリアはバルカスを神殿に連れ出した。
「バルカス様、私のお父様が支援している小さな神殿がありますの、祈りを捧げに行くのですが、バルカス様も行きましょ?」
「支援している神殿があるのか………マリアも慈悲深いな………俺はイルマが神殿に祈りを捧げている所等見た事はないぞ」
「………まぁ、イルマ様には慈悲がないのかしら…………だから私にあんな冷酷になるんでしょうか………」
「マリア…………イルマの冷酷さは今に始まった事ではない………昔からだ……俺の婚約者候補になってから、高飛車な女になっていった………マリアが気にする事はない」
マリアにまんまと騙されていくバルカスは、神殿へと祈りを捧げに行く。
「……………おぉ………『聖女』………『聖女』が………貴女が『聖女』様なのですね!?」
「…………え?」
マリアの芝居で、この後の結果が変わる。バルカスに信じ込ませるかによって、マリアの運命が変わるのだ。
「聖女だって?…………まさかマリアが?」
「そうです!この方が今………神からの神託で聖女だと!」
「え?私が聖女??」
「マリア!!なんて事だ!…………やった!兄上を蹴落として俺が王になれる!!…………マリア!イルマと婚約を解消する!……君が俺の婚約者だ!!」
―――やったわ!あの女に勝った!!
バルカスはマリアを信じて止まない。感極まりマリアを抱き締め、有頂天になっていた。
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