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その婚約に異議申し立ててみせる

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 イルマが王城から侍女達を返した翌日。ラスウェルから聞かされて、イルマの部屋へとやって来た侍女達。

「お久しぶりでございます、イルマ様」
「ご無沙汰してましたわ、カーラ侍女長」
「ラスウェル殿下から、イルマ様のお世話は必要無い、と伺ったばかりでしたが、やはり必要な様ですね」
「ごめんなさいね、わたくしが連れて来た侍女が怪我をしてしまったの」
「お話は伺っておりますわ…………私が用意した侍女達は、口の堅い者ばかり………必ずやイルマ様を隠し通します」

 5人の侍女が、イルマに頭を下げる。顔を覚えておくイルマ。

「お願いしますわ…………今はバルカス殿下やバルカス殿下派の派閥貴族、婚約者になられたマリア・ドルビー侯爵令嬢に、わたくしが王城に居る事を知られたくありませんから」
「お任せ下さい、私ユーナが中心に、イルマ様の身の回りのお世話をさせて頂きます」
「宜しくお願いしますわね、ユーナ」
「はい」

 暫くは平穏だと思っていたイルマ。だが、平穏は3日とは続かなかったのだ。
 それは、バルカスにイルマがクライン公爵家に居ない事が知れたのである。執務が溜まり過ぎて、マリアに丸投げしたバルカスだが、マリアもまともに執務をやれず放り出した。しかもその執務が出来ない事を、マリアはドルビー侯爵に泣き付いた事で始まった騒動。

「私がするより、今迄やっていたのなら、引き続きイルマ様にやらせればいいじゃないの!バルカス様だって、イルマ様を信用して任せてたんだから!」
「そうだ!イルマにやらせろ!こんな量をマリアにやらせるのは可哀想だろ!イルマを王城に呼べ!」

 バルカスがやらなければならない仕事を、全てイルマに丸投げしたのはバルカス本人だ。それが自分で出来ないからと言って、再びマリアに丸投げした事への反省も無い。
 だが、バルカスの部下がクライン公爵家から戻ると『不在』との返事。クライン公爵家では、バルカスに関係する者には、イルマの所在の箝口令を強いていたのだ。ただ『不在』とだけ伝えれば良い、とだけにして。

「居ないだと!何処に行ったのか聞いたのか!」
「それが…………不在、とだけしか説明が無く…………」
「くそっ!!それなら、俺に仕事を回すな!!」
「それは無理です!!」
「なら、兄上に持って行け!」
「……………ラスウェル殿下はバルカス殿下以上に仕事抱えてますよ………」
「は?何か言ったか?」
「…………いえ………失礼します………」

 書記官や補佐官達は、睡眠時間や食事時間さえも削り、サインだけでも書いて欲しくて、バルカスに持っていくのだが、それさえも溜め込んでいたのだ。執務室でマリアとイチャイチャし、剣術稽古はマリアに披露しながら、有頂天で過ごすバルカス。
 そんな話を、イルマはジャイロから聞かされたのは、そんな時だった。

「一体、ご自分の事を何だと思っているのでしょう…………」
「神様にでもなった気でもしてるんだろ」
「書記官達が気の毒だわ」
「ラスウェル殿下も、バルカス殿下の仕事を回されてしまって、更に忙しくなって、なかなかイルマに会いに来れなくてすまない、と言伝だ」
「わたくしは構いませんが………」
「気にしてやれよ………ラスウェル殿下はイルマに会いたくて仕方ないのに………」
「何故ですの?」
「……………何故って…………そりゃ、好きな女には会いたい、て思うからじゃないか」
「好き?………誰が誰を?」
「……………はぁ……」

 色恋の話には全く皆無なイルマ。恋愛小説等読んだ事も無いのか、恋焦がれて愛を囁き合う光景もイルマは知らないのかもしれない。

「イルマは、夜会をよくバルカス殿下に連れ回されていただろう?」
「思い出すのも忌々しいですわ」
「その中で恋仲の年頃の会話等聞いた事は無いのか?」
「そういう方々の邪魔はしたくありませんから、聞かない様にはしてましたわ」

 夜会ともなれば、恋愛小説を夢見て、意中の貴族の男への恋心等聞く事もあっただろうに、イルマは聞いた事もないのか。

「……じゃ、じゃあ女同士の話って何を話すんだ?」
「友人との話は…………誰かに好きだと言われた、とか婚約者のお話とか………」
「してるじゃないか…………お前だってそういう話をしてるなら、誰かを好きになる事だって………」
「ある訳ないじゃないですか、バルカス殿下に振り回されていたんですから、好きという感情等、わたくしに男性へそういう感情を皆無にした張本人に全部壊されましたわ……夜会で素敵な方々にも出会いましたが、バルカス殿下に邪魔され、帰りの馬車で滾々と卑猥な話をバルカス殿下から聞かされましたのよ?」
「……………は?卑猥な話?」

 イルマは、夜会の後の帰り馬車で、イルマが異性に声を掛けられたのを見たバルカスに、『あの男は何人も恋人が居て弄ばれて捨てられるのがオチ』とか、『この男のイチモツは小さい』とか、『キスが下手で婚約者に振られた男だ』等、イルマが声を掛けられた男達の、性的な趣味や性格、女への扱い等を、イルマを馬車から下ろすまで喋り続けられていた事を話す。しかも、馬車の中でバルカスも見せて『性教育』と称し、講義をする事もあったという。

「…………本当に下衆過ぎて………」
「そんな男性達に恋心も芽生える訳ありませんでしょう?………全員がそんな男性ではない事を知っているのは、ラスウェル殿下やジャイロ兄様………わたくしに紳士的にしていてくれるからからこそ、正常心を保てるんですから」

 イルマにそんな態度を見せて、バルカスは何がしたかったのか等、男のジャイロなら分かってはいたが、不器用なバルカスがイルマの気を引きたくて必死だったのが分かる。だがバルカスの行動は全て悪い方向へ行き、イルマはバルカスに対し、嫌悪感しか残っていなかった。

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