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しおりを挟むアルマがジークハルトに嫁いで1ヶ月経った。
初夜の時も、ジークハルトは優しくしてはくれたが、子供はアルマがヴォルマ公爵領の生活に慣れたら考えよう、とジークハルトに言われた。
それは、アルマも安心する事ではあった。
16歳というまだ若いアルマには、覚えなければならない社交的な事が遅れていたからだ。
貧しい領地であった実家のリンデル伯爵領では、満足な教育が受けられてはいない。
アルマが知る知識等、王都に住む貴族令嬢達より遅れていたからだ。それでも領地の管理はアルマも公爵夫人としてしなければならない訳で、執事に教えて貰いながら、あっという間に1ヶ月経っていた。
「奥様、厩舎の補修工事の事ですが………」
「あ、はい!木材調達は予定通りだと聞いてますが、工事も予定通りに出来そうですか?」
「それは可能なのですが、修繕費が少し嵩みそうです。地盤沈下が見られ、難航するかと」
「地盤沈下?………土を盛らねばならない、という事ですか?」
「そうです。その工事を先にしなければ………」
「馬は大事な足です。多少の修繕費増額は致し方ないですから、厩舎を頑丈にさせて下さい」
貧しい領地出身だからか、優先すべき事を見る目は長けているアルマ。
そういう知識だけは意見を言えても、淑女教育は全くだった。
「アルマ」
「ジーク様、お帰りなさいませ」
「午後から、勉強だろう?領地の管理は任せて、準備をしておいで」
「………あ、もうこんな時間!行ってまいります」
「あぁ、頑張って」
アルマには居心地良い環境に間違いはない。
勉強も許されて、程々の領地管理の仕事。遊ぶ事は実家でもあまり無かったアルマだったが、ジークハルトは程良くアルマにも自由を与えてくれていた。
「明るくなりましたな、奥様が来られて」
「今迄はむさ苦しいだけだったからな」
「旦那様も王都では羽目を外していらっしゃったではないですか」
「結婚したんだぞ、女遊びはもう卒業だ………今、厩舎の事を話していたんだろ?」
「はい…………奥様は倹約家でいらしゃる様で、ヴォルマの森に自生する木材からの選び方も目利きが良く………」
「木材の目利き?」
「はい、通気性と湿気、乾燥等、野晒しになる厩舎ですから、馬達が快適に過ごせる様、丈夫且つ、劣化しにくい木を教えて頂きまして。今迄はそこら辺の木を適当に切ってましたが、それでは駄目だ、と」
「…………そういう知識は大したものだな。見習うべき所と教えなければならない所の見極めして、手助けしてやってくれ」
「御意」
ジークハルトが何故アルマを妻に、としたかはまだアルマも教えられてはいない。
ジークハルトから聞かされる時が来るのか如何か、アルマはまだ聞けないでいた。
勉強も終わり、アルマはヴォルマ公爵邸の書斎に来ていた。
「…………あ、この本まだ読んでない……あ、これも………」
知識は宝だ。
なかなか本を読む機会に恵まれなかったアルマは、時間があれば本を読み漁っている。
それでも、夜更しして読む事は出来ないではいるが、寝室のベッド脇に本を数冊置いておけば朝、起き上がれる迄少しは読めるので、その為に寝室に持込んでいる。
「と、取れな………あとちょっと………」
「これか?」
「っ!……ジーク様っ!」
「また寝室に持ち込み、朝の気怠さを紛らわすのか?アルマ………それなら、余韻を強く残さねばならないな」
「っ!」
書斎にジークハルトも用事があったのだろう。
アルマが取ろうとした本が届かずに、手を伸ばす本をジークハルトが取ってくれたのだ。
2人きりになり、ジークハルトはアルマが欲しかった本を手渡さず、アルマを背後から抱き締めてくる。
「明日の勉強は何?」
「マ、マナーの勉強です………」
「それじゃあ、体力は余り使わなそうだな………ん?」
「…………えっと………そうでしょうか………」
「そうだと思うのは俺だけか?………先に、寝室で待っててくれ。それ迄は君の好きな読書の時間だ」
「は、はい………」
「俺はまだ執務があるから、寝ないでくれよ?」
「っ!」
アルマの耳朶にジークハルトはキスを落とすと、取った本をアルマに持たせて、書斎から持ち出そうとしていた本をジークハルトは持って出て行った。
---ま、まだ慣れない……ジーク様との閨………
唯一、嫁いでから慣れないのはジークハルトとの閨だった。
寝室は一緒に、と初夜から言われ、子作りしないのに、身体を繋げているのだ。
繋がり、ジークハルトはアルマへ熱を注ぐ事なく、吐き出すのはアルマの身体の外だった。
達する直前、アルマの腹や背に出す白濁は、直ぐにジークハルトが拭き取ってはくれるが、夫婦なのだから子供を期待されている筈で、アルマも覚悟してジークハルトに嫁いで来た。
処女ではあったアルマだが、初夜での恐怖心を取り除いてくれたのもジークハルトであり、その優しさからアルマもジークハルトに心から信頼出来る様になっていた。
それでも、まだ気恥ずかしさはある訳で、ところ構わずジークハルトは、アルマにスキンシップをしてくるので、ヴォルマ公爵邸内の侍従達に微笑ましく傍観されている。
「奥様、此方でしたか」
「あ、はい!何かありました?」
「いえ、お食事の用意が出来ましたのでお探ししておりました。旦那様はまだお仕事があるので、執務室でお食事を取られるそうなので、奥様は食堂へお越し下さい」
「分かりました。本を部屋へ置いてきたら行きます」
アルマは侍従達より若く、同じ年頃の者は邸に居ない為、ついつい敬語で話してしまう。
公爵夫人となったのに、腰が低い若き妻を馬鹿にする侍従が居そうだが、アルマが見る限り誰もそういう扱いはしてこなかった。
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