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しおりを挟むジークハルトが寝室から出て暫く経った頃、1週間ぶりに夜間の邸内は騒がしくなり、アルマは身体を起こす。
「まさか…………」
動向が気になり、夜着から軽装に着替え、寝室から出ようとしたアルマ。しかし、それと同時にジークハルトが戻ってきてくれた。
「ジーク様…………何があったのですか?」
武装し戻って来たジークハルトに問うしかなく、抱き着く勢いで、ジークハルトに縋ったアルマはジークハルトに聞かされる。
「また魔獣被害が出た様だ。行ってくるよ」
「…………ま、また?そんなに頻繁にある事なのですか?」
「…………魔獣は気まぐれだからな……頻繁に出る事もあれば身を潜める時もある」
「…………お気を付け下さい……ジーク様のご無事をまた祈らせて頂きます」
「あぁ………本当はアルマから逃げては駄目だと思うが、魔獣の所為ですまない」
「に、逃げるだなんて思っていません!」
「…………分かっている……アルマ、出掛ける前に、アルマから祝福のキスを貰えるか?」
「…………ジーク様………」
ガチャ、と鎧が鳴り、ジークハルトは膝まずくのを見たら、アルマも拒めない。
「ジークハルト様が無事にご帰還なされる様、お祈り致します」
額、頬、口に順に落とすキスをするアルマ。
そのキスは嘘偽りなく、アルマから離れてしまうジークハルトへ傍に居て欲しいと願いながら、キスを贈るしかなかった。
この夜、虚偽か如何か等、アルマには分からないからだ。今生の別れにならぬ様に願うしか出来ない。
「…………行ってくるよ、アルマ」
「はいっ………帰って来て下さいね、ジーク様」
ジークハルトが寝室から離れ、アルマが見送るが姿が見られなくなると、直ぐにベランダへ出ようと駆け寄った。
---っ!………またこの窓を開けたら……
セルトが入って来たら、虚偽の可能性があり、アルマは窓を開けず、外の木々を確認し、セルトが居るかを目を凝らしていた。物陰には居る事が確認出来ず、アルマは窓を開けてしまう。
「…………ほっ……居ないようね………」
「誰が?」
「っ!」
もう、ベランダの壁に凭れ掛かり、腕を組んで蹲るセルトの姿が足元にあり、アルマが驚いて閉める手を素早く捕まれてしまう。
「嬉しいな、待ってたんだ」
「ま、待ってない!私はジーク様の無事を祈ろうと…………」
「でも喧嘩してたじゃないか。今日はシなかった様だな………でも1週間分注げばいっか、な?」
「嫌っ!離して!………ジーク様を甘く見ないで、セルト!」
「甘く見てる訳ないじゃないか。ボンクラじゃない事ぐらい俺だって知ってる。だが、女に対しては浮名流し過ぎて、女を寝取られても知らんぷりするぐらい、困らない男なんだ。アルマが寝取られても構わないだろ?俺の子種で自分の子と思って育てさせたって、気付きゃしないって」
「きゃぁぁ………んぐっ!」
悲鳴を今度も挙げようとするアルマだが、また口をセルトの手で塞がれてしまい、力で敵う事が出来ないアルマはそのままベッドにまた連れて行かれてしまう。
「久々にキスしよう………本当はこの前もアルマとキスしたかったんだ………だけど、アルマはわからず屋だし、頑固だからさ。一度決めた事を悩む女じゃないのも分かってるから、俺をまた受け入れる勇気が出ないんだろ?それなら俺はいつだって協力する。その手始めに俺達の子供作ろう?」
「そこ迄だ!あの男を捕まえろ!」
バンッ、と寝室の扉が開け放たれ、武装したジークハルトと共に数人の騎士達がなだれ込んで来た。
「ジーク様!」
「うわぁぁっ!離せぇ!」
セルトから解放されたアルマはベッドから転がり落ちても、軽装のドレスの裾を足で踏んで縺れても、ジークハルト1人に真正面に駆け寄っていた。
「アルマ!」
「っ!…………ジーク様っ!」
「くっ…………大丈夫だ………もう君の患いは排除する」
「離せ!アルマ!俺の女だ!」
アルマはジークハルトに抱き着いて、ジークハルトもアルマの所在を確認するかの様に抱き締め返したその姿をセルトが見ると、押さえつけられながら叫んでいた。
「違うわ!貴方とはお別れした筈よ!もうあの時迄の気持ちは彼処で捨てたの!」
「嘘だ!アルマは俺を好きなんだろ?この前も俺を受け入れて抱かれたじゃないか!」
「黙れ!口を綴じらせろ!」
「っ!…………嫌………嫌ぁぁぁぁぁっ………申し訳ありません!ジーク様…………」
「むぐっ!ぐっ!」
セルトに暴露されてしまった、1週間前の密通。
アルマが知られたくなくて黙っていた事を、捕まってしまったセルトの足掻きで、ジークハルトに知られてしまった。
「アルマ…………」
「っ!…………ひっく………ゔっ……」
ジークハルトは抱き締める手を緩める事なくアルマの顔を覗くが、アルマはジークハルトと合わせる顔が無く、顔を俯き泣き始める。
「その男をぶち込んでおけ」
「はっ!」
「来い!立て!」
「んんっ!んぐぅ………!」
セルトが寝室から連れて行かれても、アルマは見ようとはしない。あの恐怖と気持ち悪さでセルトへの愛情等、遠に消えたからだ。
扉が閉められると、残されたのはアルマとジークハルトだけだ。
これからジークハルトに何を言われようとも、アルマは弁明を許されないだろう。
洗いざらい話すつもりでいるアルマだが、果たしてジークハルトが信じてくれるのか、アルマには分からなかった。
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