結婚したのに最後迄シない理由を教えて下さい!【完結】

Lynx🐈‍⬛

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 アルマは月の穢れが終わると、寝室からの謹慎は解かれた。
 ジークハルトと仲直り出来た事が大きいだろう。
 だが、行動範囲は邸内だけ、という厳戒態勢にアルマは少々不満気だ。

「外は駄目なんですか?」
「本調子には見えないから駄目だ」
「元気になりましたよ?」
「それでも駄目だ」
「…………過保護」
「か………過保護!そんな訳は………」

 お互いの気持ちが分かると、見えなかった部分も見えてくるもので、アルマはジークハルトは過保護の気がしてならなかった。

「過保護です、旦那様」
「です」
「っ!それでもまだ駄目だ!邸内は何処に居ても良いが外は駄目だ!」
「…………分かりました。運動兼ねての散歩してきます」

 体調不良で、勉強も休みがちになっていて、それさえもジークハルトから止められてしまったのだ。暇で暇で仕方ないアルマ。
 邸中の本も読み切ってしまい、何もする事が無いのは手持ち無沙汰なので、侍女の手伝いをすれば侍女に断られ、料理人達の手伝いをしようとすると、執事に止められ、邸や領地の管理の仕事をしようとすると、執事に任せろ、とジークハルトに止められて、アルマは何もする事が無い。

「過保護じゃなきゃ、何なのよ………アレ……」

 1人フラフラと、邸探索でもしようと、知らない部屋を開けては中に入り、景色を眺めてまた部屋へ移動する事にした。

「あ、この棟はどの部屋にも入った事がなかったわ」

 産まれ育ったリンデル伯爵邸とは違い、大きな邸のヴォルマ公爵邸。棟も東西南北に分かれていて、入った事のない棟に迄来てしまった。

「邸内なら何処に居ても良い、て言ったもんね~」

 興味が打ち勝つアルマは、一際大きな扉の前に来る。

「此処は何だろ…………あ………肖像画?凄い並んでる…………え?………え!………え~!お、お母様だ!これ………」

 小さな肖像画だったが、2人の少女が花冠を作って遊ぶ構図が描かれている。
 1人は分からないが、1人はアルマの母親の絵。アルマもこの肖像画に見覚えがあったのだ。

「む、昔………お母様がこの絵と同じ様な物を見せてくれてた………え?………アマリリスとメリッサ………メリッサはお母様の名……え?………アマリリスという方はお母様の知り合いなの?………でも…………お母様と同じぐらいの歳よね、これ………」

 ジークハルトと医者の会話で出て来た名、アマリリス。そのアマリリスとジークハルトの関係性が分からないまま、他の肖像画にヒントが無いかと、別の肖像画を見渡した。

「…………享年………14歳………ジーク様が大事にされていると思った人はもう………」

 若くして亡くなった女性に勝てる訳はない。
 それが好きな人の心の片隅に生きている人と張り合える事は出来ないからだ。

「奥様、何故この部屋に………」
「…………あ……」

 古参の侍女に見つかり、肖像画を見て落ち込むアルマに近寄って来られた。

「奥様、この方…………旦那様のお母様なのですよ」
「…………は?………で、でも……享年14歳って………」
「…………はい……13歳でご結婚、14歳でご出産され出血多量で還らぬ人となられました」
「13歳で結婚なんて許されないですよね?」
「…………旦那様を妊娠されたので異例で……ご婚約中の事です」
「…………だ、だから私に若い年齢で出産するのを反対されてたんですね………」
「…………それは旦那様から奥様にお話あると思いますよ。それ以上はなるべくご本人から伺って下さい………私達も、奥様にその件は話すな、と言われております」

 理由もジークハルトがアルマに言いたいのに言えないのだと知った。気にはなるがまだ気になる事があったアルマ。

「も、もう1つ!あの………こ、この肖像画は……アマリリス様と隣に描かれているのは私の母で………」
「…………まぁ……それもご覧に……ご存知なかったのですね、奥様………メリッサ様はアマリリス様の従姉の方なんですよ」
「い、従姉………母が………」
「はい。前ヴォルマ公爵閣下である旦那様のお祖父様の妹さんが、メリッサ様のお母様でそれは仲の良いお2人で………リンデル伯爵領への救済も、メリッサ様が嫁がれた領地だから、と旦那様が仰って」
「そ、そんな事………父も母も一言も………」
「あ…………喋り過ぎましたわ………失礼致します」
「……………ジーク様……」
「見つかってしまったか、この部屋………邸内何処に居ても良いと言った後、思い出して慌てて追い掛けてきたんだが………」

 侍女はジークハルトに気付き、去って行くと入れ違いにジークハルトが入って来る。

「リンデル伯爵領の救済は、俺の気持ちだ………母上の遺言書もあった事だしな」
「遺言書、ですか」
「…………そう……君の母上、メリッサ夫人と俺の母上は幼い時に約束を交わしていた、と書いてあった」
「約束………」
「その約束は、2人共結婚して子供が産まれたら、その2人を結婚させてしまおう、てね」
「…………え………?」

 幼い母同士の肖像画の前で、苦笑いするジークハルト。
 すると、面白そうに続けた。

「小さな子供の遊びの様な約束だったそうだ。実際にそうなる訳はない、と大人になってメリッサ夫人は思っていたそうだ」
「そうですね………私もそう思います」
「だが、俺の母上は違う」
「…………14歳で………」
「そう………まだ子供だ………そのお遊びでした約束を守りたい、と遺言書に残していた………それを見付けた時、メリッサ夫人に会いに行ってるんだよ俺は」
「リンデル伯爵領に来られたんですか?」
「会ったのも覚えてくれてなかったな………」
「え………会った?私と?」
「君はあのセルトという男に夢中で、記憶に残らなかったらしい」
「も、申し訳ありません………」
「脱線してしまったな………メリッサ夫人に遺言書を見せたら、その約束はまだ有効か、と聞かれた」
「お、お母様…………なんて事を………」

 失礼にも程がある、とアルマは呆れて言葉が出ない。

「まぁ、そう思うよな………だが、それだけ母上との約束に思いを寄せるには訳があるから、聞かれたんだと思う………母上が俺を14歳で産まなければならなかった理由が関係するからな」

 穏やかに話ていたジークハルトの表情が変わっていく。
 怒りの矛先は一体何処にあるのか分からなかったアルマだった。
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