14 / 38
13
しおりを挟むアルマは月の穢れが終わると、寝室からの謹慎は解かれた。
ジークハルトと仲直り出来た事が大きいだろう。
だが、行動範囲は邸内だけ、という厳戒態勢にアルマは少々不満気だ。
「外は駄目なんですか?」
「本調子には見えないから駄目だ」
「元気になりましたよ?」
「それでも駄目だ」
「…………過保護」
「か………過保護!そんな訳は………」
お互いの気持ちが分かると、見えなかった部分も見えてくるもので、アルマはジークハルトは過保護の気がしてならなかった。
「過保護です、旦那様」
「です」
「っ!それでもまだ駄目だ!邸内は何処に居ても良いが外は駄目だ!」
「…………分かりました。運動兼ねて邸内の散歩してきます」
体調不良で、勉強も休みがちになっていて、それさえもジークハルトから止められてしまったのだ。暇で暇で仕方ないアルマ。
邸中の本も読み切ってしまい、何もする事が無いのは手持ち無沙汰なので、侍女の手伝いをすれば侍女に断られ、料理人達の手伝いをしようとすると、執事に止められ、邸や領地の管理の仕事をしようとすると、執事に任せろ、とジークハルトに止められて、アルマは何もする事が無い。
「過保護じゃなきゃ、何なのよ………アレ……」
1人フラフラと、邸探索でもしようと、知らない部屋を開けては中に入り、景色を眺めてまた部屋へ移動する事にした。
「あ、この棟はどの部屋にも入った事がなかったわ」
産まれ育ったリンデル伯爵邸とは違い、大きな邸のヴォルマ公爵邸。棟も東西南北に分かれていて、入った事のない棟に迄来てしまった。
「邸内なら何処に居ても良い、て言ったもんね~」
興味が打ち勝つアルマは、一際大きな扉の前に来る。
「此処は何だろ…………あ………肖像画?凄い並んでる…………え?………え!………え~!お、お母様だ!これ………」
小さな肖像画だったが、2人の少女が花冠を作って遊ぶ構図が描かれている。
1人は分からないが、1人はアルマの母親の絵。アルマもこの肖像画に見覚えがあったのだ。
「む、昔………お母様がこの絵と同じ様な物を見せてくれてた………え?………アマリリスとメリッサ………メリッサはお母様の名……え?………アマリリスという方はお母様の知り合いなの?………でも…………お母様と同じぐらいの歳よね、これ………」
ジークハルトと医者の会話で出て来た名、アマリリス。そのアマリリスとジークハルトの関係性が分からないまま、他の肖像画にヒントが無いかと、別の肖像画を見渡した。
「…………享年………14歳………ジーク様が大事にされていると思った人はもう………」
若くして亡くなった女性に勝てる訳はない。
それが好きな人の心の片隅に生きている人と張り合える事は出来ないからだ。
「奥様、何故この部屋に………」
「…………あ……」
古参の侍女に見つかり、肖像画を見て落ち込むアルマに近寄って来られた。
「奥様、この方…………旦那様のお母様なのですよ」
「…………は?………で、でも……享年14歳って………」
「…………はい……13歳でご結婚、14歳でご出産され出血多量で還らぬ人となられました」
「13歳で結婚なんて許されないですよね?」
「…………旦那様を妊娠されたので異例で……ご婚約中の事です」
「…………だ、だから私に若い年齢で出産するのを反対されてたんですね………」
「…………それは旦那様から奥様にお話あると思いますよ。それ以上はなるべくご本人から伺って下さい………私達も、奥様にその件は話すな、と言われております」
理由もジークハルトがアルマに言いたいのに言えないのだと知った。気にはなるがまだ気になる事があったアルマ。
「も、もう1つ!あの………こ、この肖像画は……アマリリス様と隣に描かれているのは私の母で………」
「…………まぁ……それもご覧に……ご存知なかったのですね、奥様………メリッサ様はアマリリス様の従姉の方なんですよ」
「い、従姉………母が………」
「はい。前ヴォルマ公爵閣下である旦那様のお祖父様の妹さんが、メリッサ様のお母様でそれは仲の良いお2人で………リンデル伯爵領への救済も、メリッサ様が嫁がれた領地だから、と旦那様が仰って」
「そ、そんな事………父も母も一言も………」
「あ…………喋り過ぎましたわ………失礼致します」
「……………ジーク様……」
「見つかってしまったか、この部屋………邸内何処に居ても良いと言った後、思い出して慌てて追い掛けてきたんだが………」
侍女はジークハルトに気付き、去って行くと入れ違いにジークハルトが入って来る。
「リンデル伯爵領の救済は、俺の気持ちだ………母上の遺言書もあった事だしな」
「遺言書、ですか」
「…………そう……君の母上、メリッサ夫人と俺の母上は幼い時に約束を交わしていた、と書いてあった」
「約束………」
「その約束は、2人共結婚して子供が産まれたら、その2人を結婚させてしまおう、てね」
「…………え………?」
幼い母同士の肖像画の前で、苦笑いするジークハルト。
すると、面白そうに続けた。
「小さな子供の遊びの様な約束だったそうだ。実際にそうなる訳はない、と大人になってメリッサ夫人は思っていたそうだ」
「そうですね………私もそう思います」
「だが、俺の母上は違う」
「…………14歳で………」
「そう………まだ子供だ………そのお遊びでした約束を守りたい、と遺言書に残していた………それを見付けた時、メリッサ夫人に会いに行ってるんだよ俺は」
「リンデル伯爵領に来られたんですか?」
「会ったのも覚えてくれてなかったな………」
「え………会った?私と?」
「君はあのセルトという男に夢中で、記憶に残らなかったらしい」
「も、申し訳ありません………」
「脱線してしまったな………メリッサ夫人に遺言書を見せたら、その約束はまだ有効か、と聞かれた」
「お、お母様…………なんて事を………」
失礼にも程がある、とアルマは呆れて言葉が出ない。
「まぁ、そう思うよな………だが、それだけ母上との約束に思いを寄せるには訳があるから、聞かれたんだと思う………母上が俺を14歳で産まなければならなかった理由が関係するからな」
穏やかに話ていたジークハルトの表情が変わっていく。
怒りの矛先は一体何処にあるのか分からなかったアルマだった。
52
あなたにおすすめの小説
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました
蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。
そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。
どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。
離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない!
夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー
※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。
※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。
身代りの花嫁は25歳年上の海軍士官に溺愛される
絵麻
恋愛
桐島花は父が病没後、継母義妹に虐げられて、使用人同然の生活を送っていた。
父の財産も尽きかけた頃、義妹に縁談が舞い込むが継母は花を嫁がせた。
理由は多額の結納金を手に入れるため。
相手は二十五歳も歳上の、海軍の大佐だという。
放り出すように、嫁がされた花を待っていたものは。
地味で冴えないと卑下された日々、花の真の力が時東邸で活かされる。
愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。
そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。
相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。
トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。
あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。
ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。
そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが…
追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。
今更ですが、閲覧の際はご注意ください。
ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~
cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。
同棲はかれこれもう7年目。
お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。
合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。
焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。
何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。
美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。
私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな?
そしてわたしの30歳の誕生日。
「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」
「なに言ってるの?」
優しかったはずの隼人が豹変。
「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」
彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。
「絶対に逃がさないよ?」
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる