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しおりを挟む王都に着くと、その日はゆっくり過ごしたアルマとジークハルトだが、翌日は街に出ていた。
観劇を観よう、という話にもなり、劇場へと入る。
「久々です、観劇」
「俺もだな………王都に来る時も用事済めば直ぐ帰っていたし」
「勿体無いですよ、それ」
「誘われるのを断るからな」
「…………あぁ……なる程」
ジークハルトの言葉に納得してしまう。
入場前からアルマやジークハルトに向けられる目線が多いからだ。
---ジーク様はオモテになるから……
アルマの夫でなければ、アルマが拝める立場になっていただろう。
例え、セルトと別れずに一緒に居たとしても。
「どんな観劇の内容が好きなんだ?アルマは」
「私ですか?私は恋物語です」
しかし、その本人は見られていても平然としていて、アルマとの会話を楽しみながら、席に向かっている。
「乙女だなぁ」
「ジーク様は、どの様な話がお好きなんですか?」
「俺は時代物だな。歴史の勉強にはなる………恋物語はイチャ付くのを見るだけだしな」
「今日の観劇は恋物語でしたけど良かったんですか?しかも悲恋ですよ?イチャ付きがあるか如何か………」
「アルマが劇を見て楽しそうにしていたらいい。知らなかったアルマが見られそうだし」
「よくご存知ではないですか」
「泣いたり笑ったり、どういう所で感動するかを見たいのさ」
会話が続くと、周辺の視線は気にならないもので、声が掛けられる迄楽しかったアルマ。
だが、それは長くは続かず、2人の時間を無粋な声掛けで、止まってしまった。
「あら、ヴォルマ公爵閣下ではありませんか」
「…………これは、ローズマリア嬢……お元気でしたか」
その無粋な声の主は、猫なで声で男を誘惑する目的の様なドレスで口元を扇子で隠し、色気を醸してジークハルトに声を掛けて来た。そのジークハルトはその返事を淡々と返すので、途端に不機嫌になった、とアルマは見えた。
「いいえ………ジークハルト様がお見えにならない王都で過ごすのは、とても寂しくて………病気になりそうでしたわ………」
その令嬢はジークハルトに向かって歩いて来ると、アルマを隠す様に立ち、アルマをジークハルトから離そうと間に足を入れて横に立った。
「…………っ!」
「…………アルマ、行こうか」
ローズマリアの行動は自然ではあったが、明らかにアルマを威嚇し牽制した行為。
ジークハルトはアルマの腕を解き、腰に手を添えると、ローズマリアを避けて歩き出す。
「お待ち下さいませ、お話ぐらい良いではありませんか!」
「話は私にはありません、ミルザム侯爵令嬢」
「っ!」
先程は名前で呼んでいたのに、その呼び名を止めたジークハルト。
「妻と同行しております。余計な嫉妬をされては困りますからね。ミルザム侯爵令嬢も非ぬ誤解をされぬ様に身を慎まれたら如何ですか?失礼」
「くっ!…………どんな女と結婚したのかと思っていたけれど、大した事なさそうね」
ジークハルトに相手にされなかったからだろう、捨て台詞をアルマへ放った。
---前の恋人かしら……それにしても派手な方………令嬢達のドレスの流行りは今あんな感じなのかしら
罵倒されようとも、此処で騒ぎになるのは良くない事なので、アルマは怒る事もなくジークハルトの元恋人の可能性を示唆していた。
同じ土俵に上がるのを避ける為、ローズマリアの着ているドレスに着目して、意識を切り替える。
「ちょっと!無視?」
「アルマ、放っておけばいい」
「はい………騒ぎたくありませんから」
「何ですって!」
「ローズマリア嬢、そろそろ僕達も席に行こう」
「相手にされなかったんだから、仕方ないよ」
淑女らしからぬ、大声を出したものだから、注目はローズマリアに一転し、付き添いの者達に止められた。
「煩いわね!…………くっ………覚えてらっしゃい!」
ジークハルトのローズマリアに対する扱いが格下げされて苛立つローズマリアだが、怒りの矛先がジークハルトではない辺り、ジークハルトを手に入れたくての嫉妬だろう。
付き添いの者は男ばかりで、取巻きの様で、眉目秀麗のジークハルトを入れたかったのかもしれない。
「元恋人ですか?」
「…………恋人……ではないな。そんな綺麗なものではないよ。捌け口の相手を過去1回か2回ぐらいかな………見ただろ?彼女が連れていた男達」
「おみえでしたね……4人程……」
「あの中に入れられては堪らないからな、直ぐに相手にもしなくなったよ」
恋人という2文字にも値しないのだ、とジークハルトは言っている様なもので、アルマにはジークハルトがその様な立ち位置は似合わないと思った。
「似合いませんよ、ジーク様があの中に居るのは」
「…………では、何処が似合うんだ?」
「私の隣、て言わせたいんですか?」
「当然だろ」
「っ!………冗談で言ったのに………」
「冗談だったのか?本心で思ってる事で、俺の横はアルマしか立てないぞ?」
まだ席に到着しないのに、イチャ付いてしまったので、アルマの顔は火照って頬を覆う。
「あ………煽るなよ、まだ」
「煽ってません!ジーク様が所構わず仰るから………」
「そんな事より、歩くの早めるぞ」
「え?」
アルマのその火照りを、観劇客に見られて色めき立つ男達からジークハルトが隠しながら、睨みを効かせたのは言うまでもない。
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