結婚したのに最後迄シない理由を教えて下さい!【完結】

Lynx🐈‍⬛

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 玉座のある方向から、ざわざわと通り道を開けられていく。
 その分かれていく中心に冷や汗を垂らして避けていく貴族達。

「ご登場だぞ、アルマ………毅然の態度で負けるなよ」
「っ!…………は、はい」

 ジークハルトが、アルマの腰を抱き寄せ、顔を寄せて貴族達が避ける相手を待ち受けた。

「ジークハルト様」
「イェルマ殿下、ご機嫌麗しゅう。本日も見目麗しくあられ、良き日になりましたね」
「そうですわ………毎日わたくしの為にある日ですもの」

 あたかも、自分中心に世の中が動いているかの如く、胸に手を当て、威張るイェルマが其処に居た。

「…………そうかもしれませんね、アルマもそう思わないか?」

 小声で囁く様に耳元に口を近付け、イェルマに見せ付けるジークハルト。
 アルマもこの接近は想定内なので、冷静に対処しにこやかに微笑み返す。

「本当ですね………ご挨拶遅れました、イェルマ殿下………ヴォルマ公爵の、アルマでございます」

 流石にカーテシーはジークハルトから離れてしなければならないが、マナーの勉強を嫁いでから必死に練習や勉強をして来たおかげで、恥ずかしくない礼が出来た。

「っ!…………誰か、ワイン下さる?」

 イェルマはその挨拶にも目もくれず、給餌からワインを受け取ると一口飲んだ。

「このワイン、美味しくないわ………あら、ゴミ箱があるから捨てますわね………」
「!」

 イェルマがそのワインをアルマの頭から掛ける。

「お、おい…………」
「うわぁ………」
「イェルマ殿下、流石ですわ!」
「いい気味よ!」

 近くの貴族達もイェルマのした行為は、嫉妬と興味本位や話題の的となる。

「ほほほ…………まぁ、お綺麗だこと………ジークハルト様もそう思いません事?貴方はわたくしと婚約するのです。ゴミはゴミらしく床に這いつくばればよろしいわ」
「…………イェルマ殿下、ワインは其方のドレスに掛かりませんでしたでしょうか?」
「…………なっ……」
「私のドレスより、殿下のドレスの方が何倍も何十倍もの価値があるとお見受け致します……この良き日の為に厳選された唯一の一点物に、汚れが付いたら大変ですわ」
「そうだな、殿下………私共と離れた方がよろしいかと………アルマ、着替えて来ようか」
「そうですね、ジーク様」

 ワインを掛けられ侮辱されたアルマが怒る事も反撃する事もなく、イェルマのドレスを心配する言葉を掛けた。
 返ってその言葉がプライドを逆撫でしているかの様だ。その光景が見ていた者達へ笑いを誘ったからだった。

「…………プッ………」
「お、おい………笑っちゃ……プハッ……ハハハ……駄目だ、笑える………」

 イェルマが我儘な事は有名で、振り回された者も多い。特に侍従達はイェルマの我儘の被害者で、失笑が止まらないどころか、どんどん広まっていた。
 と言わんばかりに。

「ジ、ジークハルト様が汚れてしまいますわ!此方にいらして?」
「もう私も汚れておりますよ、殿下………妻とこんなに近く寄り添っているのですから、跳ねてしまってます。失礼の無い様、私も着替えなければなりません」
「わたくしがジークハルト様のお着替えをご用意致しますわ!それはもう最高の衣装ですのよ!」
「止めんか!イェルマ!」
「っ!」
「はい、退いて退いて………」

 この騒ぎに、国王とアレクシスが玉座から降りて来ていた。

「イェルマ、負けを認めなよ」
「アレックスお兄様!わたくしは負けてはおりませんわ!お父様、負けてませんわよね?」
「我儘を大目に見ておれば、この騒ぎ…………其方は何をしたか分からんのか!」
「っ!…………わ、わたくしはワインを捨てただけ………」
「何処に!」
「…………ゴミ………ゴミ箱に捨てましたわ!」

 引くに引けずに、益々場を壊していくイェルマ。

「…………ほぉ………そのヴォルマ公爵夫人がゴミ扱いか………痴れ者!恥を知れ!………衛兵!イェルマを連れて行け!反省する迄部屋から出すな!」
「お、お父様?…………わたくしは正しい事をしましたわ!このゴミがわたくしのジークハルト様を奪ったから………」
「まだ言うか!ヴォルマ公爵とリンデル伯爵令嬢との結婚を承認したのは私だ!其方にはいずれ良き夫を見つけてやる!但し、この国の者とは結ばれぬ事を覚悟せよ!」

 王女が国賓達の前で騒ぎを起こしたのだ。
 国王としての面子は潰れ、恥をかいた。かき消す事が出来ない悪戯とそれからの言葉。国王は王女の我儘を許す事より、体裁を守った結果を選んだのだ。

「すまぬな、ヴォルマ公爵、そして夫人………王女に謝罪させようにも無理と判断する。王女の父として代わりに謝罪する」
「…………いえ、ワインでしたから」

 頭を下げそうにはなっていた国王だが、臣下の前で頭を下げるのは、国王の弱さを見せ付けてしまう為、言葉のみの謝罪だ。
 それを分かるので、ジークハルトは謝罪を受け取る。

「部屋を用意する」
「父上、部屋なら私がもう用意させましたよ」
「アレックス、そうなのか?」
「はい………ヴォルマ公爵、早く着替えてきなよ。夫人が酷く汚されたから」
「ありがとうございます、アレックス殿下」
「ありがとうございます。お借り致します」

 夜会会場の騒ぎは収まらない。

「…………ほぉ……ジークハルト……相変わらずの世あたり上手よ」
「父上」
「ヴァイスか………」
「ヴォルマ公爵の夫人、本当に別れさせられるのですか?」
「別れされられるか如何か………お前も上手く動けば事は上手く行く………必ずお前の兄を引きずり下ろせ」
「っ!…………は、はい……」

 遠くから事のなりを傍観していたシュバルツ公爵。
 ワインを片手に、次の策を考えていた。

「王女はもう使えんな………嗾けて泣き顔でも見せてくれるかと思えば、なかなか気丈な娘じゃないか………なぁ、ジークハルト………」

 息子を捨てたのに、名を呼ぶ。
 父としての情があるのかは不明だが、名を覚えている程、近くにあった存在と伺えた。
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