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しおりを挟む「まぁ!酷い!直ぐに身体をお流ししましょう!」
「ドレスも染みだらけよ」
「髪も洗わなければ!」
アレクシスが用意してくれていた部屋に戻ると侍女達の嘆きで迎え入れられたアルマ。
「見事だったよ、アルマ。あの口上」
「どう来られるか分かりませんでしたから、怖かったです…………でも良かったんでしょうか。イェルマ殿下………私の印象は悪いのは仕方ないとはいえ、まさかワインを掛けてくるとは」
「俺は殴って来るかと思ったけどな………殴られそうなら俺が間に入るつもりだったし、言いくるめれる自信はあったが、アルマのあの言葉は会場の貴族達も納得する。イェルマ殿下はこれで国王陛下に大人しくさせられるだろうさ」
「そうだと良いですね………ジーク様への恋慕も減りそうで良かったです」
「…………モテる夫は嫌か?」
「僻みや嫉妬が私に向けられるのが嫌なんです」
「その分、身体で慰めるが?」
いい雰囲気になったが、ワイン塗れのアルマはワインの香りが鼻に付き、顔を歪めた。
「早く流したいのでお風呂入りますね」
「あぁ………入っておいで」
アルマが入浴しているので、ジークハルトは1人にさせたくなく部屋で待った。
コンコン。
『ヴォルマ公爵、リンデル伯爵夫妻とルーファス卿が来られてます』
「…………入ってもらってくれ」
ルーファスとはアルマの兄になる。
「閣下!」
「リンデル伯爵、メリッサ夫人、ルーファス卿………この度は、ご息女をあの様な事に遭わせてしまい誠に申し訳ございません」
「アルマは大丈夫なんでしょうか」
「ワインがドレスの中にも入りましたから、今入浴させています」
「怪我が無く良かった………」
アルマと話をする前に起きたので、駆け付けて来たのだろう、リンデル伯爵夫妻とルーファス。
「お掛け下さい。まだ出て来る迄時間もあると思われますし」
「ありがとうございます………座らせて貰おう」
「そうですね」
「失礼します、閣下」
「ルーファス卿、いつも情報提供ありがとうございます」
ルーファスは王都に居り、王城の秘書官をしている。
領地管理の勉強をする為に、別の領地に居たのをジークハルトが頼み込んで王城へと潜り込んで貰ったのだ。秘書官は経費の事や金の流れの事に詳しい。その点では領地管理にも役立つので、勉強も兼ねている。
「いえ、大した情報もなかなかお知らせ出来ず、申し訳ないと思っています。それにしても、あのセルトがアルマを追い掛けて行くなんて、気付くのを遅れました」
「処罰は受けて貰う様に手は打ってますので、ご安心を」
「助かりますわ………騎士で居た頃、アルマに対しての執着が心配だったので………それなのに、旦那様ときたら信頼しきっていたものだから」
「そ、それは悪かったと言っているだろ!」
恋は盲目と言う。
セルトは事ある毎にアルマの後を追い掛けて、偶然を装い接近をしていたのを、メリッサは見ていた。
ジークハルトとの結婚を決めたのはアルマだが、その考えを全否定しているセルトに恐怖心もあったので、アマリリスの遺言を利用したのだ。
アルマを傷付ける存在になり得そうで、遠く離れたヴォルマ公爵領であれば、諦めると思っていたのに、突如セルトはリンデル伯爵領から消えた。そしてあの事件である。
急遽、ルーファスに王城に勤務させる事にしたジークハルトは、アレクシスの口利きで働ける様になった。
そのアレクシスの情報源もルーファスは貢献する条件での事である。
「メリッサ夫人」
「はい」
「…………シュバルツ公爵は、俺とアルマを別れさせ、アルマを異母弟のヴァイスと結婚させようとしています」
「…………ルーファスから聞きましたわ。絶対に嫌です。何を勝手に……あんな男の育てた息子になんて」
「母上、閣下も一応、シュバルツ公爵のご子息なんだから」
「ジークハルト様はいいの!叔父様がお育てしたのだもの」
「そんな違い………」
「ルーファス、人は育った環境で善にも悪にもなるのよ!覚えておきなさい」
「はい」
シュバルツ公爵を毛嫌いしているメリッサ。アマリリスの死に関係している諸悪の根源を絶対に許せないのだろう。
ジークハルトはシュバルツ公爵の思惑で考えられる事や実行しようとしている事を説明する。
「…………全く……許す価値も無いわ!」
「メリッサ………怒りは尤もだが落ち着きなさい」
「ルーファス、あの男はね………アマリリスを犯して無理矢理婚約させられたのよ!13歳になったアマリリスを連れ出して、ヴォルマ公爵領の厩舎の中で!叔父様の目を盗んでね!一度ならず何度も………叔父様の部下だったあの男は、同僚達と話していた………笑って『のし上がるなら上位爵位の1人娘を狙え』ってね………私は恐ろしくて、あの男には近付かなかったけど、アマリリスは違う………ヴォルマ公爵邸にあの男も住んでいたのだもの………隙を付く術は幾らでもある………妊娠して、責任を取る、と叔父様に誓ったけれど、直ぐに他の女にうつつを抜かし、叔父様から破門を言渡された………でも、実力があったから、アマリリス迄連れて王都に移り住んだの………女を出世の道具にしかしないあの男は本当に最低よ!」
怒りが爆発しているメリッサ。
アマリリスからの話や、幼い時に耳にした言葉を鮮明に覚えている程、それだけ憎い相手の様だ。
「母上、初めて聞きましたよ……父上は?」
「私も初めて聞いたよ……ただ、シュバルツ公爵が憎い、と言う事はよく聞いたが」
「俺は、祖父や侍従達からよく聞いてました……母がされた事を……シュバルツ公爵邸から戻った母は痩せ細り、俺を産めないのではないか、と………だが、母は産むのだ、と意思は固かったといいます」
その2人に愛情があったかは分からない。
恐らく話を聞くと無かったかもしれない。
「お母様、ジーク様………その話、本当なのですか?」
「…………アルマ……えぇ………そうよ……ジークハルト様の母、アマリリスの生涯の話よ……亡くなる前、アマリリスから手紙を貰ったわ………『シュバルツ公爵を許せない』と『もう私は死んでしまうけど、産まれる子を助けて』と………だからアルマ………ジークハルト様と添い遂げる意思があるなら……アマリリスの子を助けてあげて………」
「…………はい……勿論です。私、ジーク様を愛してますから」
涙を流し怒るメリッサに、アルマも決意を固めた。
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