結婚したのに最後迄シない理由を教えて下さい!【完結】

Lynx🐈‍⬛

文字の大きさ
32 / 38

31 *シュバルツ公爵視点有り

しおりを挟む

 アルマとジークハルトが間借りしている部屋の前。
 壁に凭れ、ジークハルト、リンデル伯爵、ルーファスが立っていた。
 今、室内でアルマが改めて着飾っているのだ。
 アルマの着替えにジークハルトに見られてもいいが、父や兄には見せたくない、と言い、メリッサも手伝う為に待っているのだ。

「まぁ、この水色のドレスにしましょう」
「子供っぽくなりますよね、このドレス」
「何を言っているの、アルマ………先程の大人びたドレスからの違いを上手く着こなしてこそ、女の楽しさじゃないの!このドレスならあの男も驚くわ…………」
「あの男?」
「シュバルツ公爵以外誰が居ると………水色はアマリリスが好きな色だったの………可憐に着こなして、本当に可愛かった………だから……」
「…………分かりました。アマリリス様をよく知るお母様にお任せします」
「任せて頂戴!」

 アマリリスのイメージに合わせた髪型に装飾品をアルマに施したメリッサは満足そうだ。

「ジークハルト様と、私の家族を呼んでもらえるかしら」
「はい」
「奥様、今度はすっごく可愛いです!」
「可憐ですぅ!」
「て、照れますね………可愛い過ぎな気がして………」
「ア、アルマ…………」
「「おぉ………」」
「ジーク様、如何ですか?」
「…………凄い………母上の肖像画を生身で見ている様だ………」
「そうでしょう?ジークハルト様………アマリリスに似せましたわ」
「ありがとうございます!メリッサ夫人……あ、いえ…………義母上とお呼びしなければ」
「…………っ!……まぁ………ありがとうございます……夢の様………」

 子供の頃の口約束が実現出来て、感極まってしまう。

「メリッサ、もう私達も戻ろう。閣下も着替えなければならないからな」
「えぇ、そうですわね………ではまた会場で」
「はい」
「お母様、ありがとうございます」

 リンデル伯爵夫妻とルーファスが会場に戻るのを見送り、ジークハルトもアルマに合わせた装いをする。
 先程の黒のタキシードから一転し、白に装いを変え、水色の差し色にすると、また新たな気分にさせてくれた。

「行こう、アルマ」
「はい」

 再び会場に戻ると、盛り上がりも戻っていた。
 特に入場の声等は出る事はない、アルマとジークハルトは、そっと会場の片隅から入り、アレクシスを探した。

「アレックス殿下には礼を言わないとな」
「そうですね、部屋をお借りしましたし」
「その前に、踊らないか?アルマ」
「お礼を先に言わないと………」
「踊っていれば殿下が来るよ、きっと」
「…………面倒なんですね、探すの」
「よく分かってるね、流石俺の妻だ」

 会場が広いので、探すより目立てばいい。
 そうすれば自ずと見つかる。
 アルマはジークハルトに手を取られ、踊りの輪に加わる。
 大人っぽい雰囲気から、年相応の可愛らしい姿に変わったアルマは、またも注目を浴びた。

「え!…………ヴォルマ公爵夫人?」
「先程の装いと印象が凄く変わったわ!」
「化けたなぁ………アルマ夫人」

 アレクシスは当然、アルマとジークハルトを見つけ、輪の近くに迄来る。
 それだけではない。
 シュバルツ公爵さえもワイン片手にフラフラと近く迄歩み寄った。

「ア…………アマリリス……何故居る………」

 シュバルツ公爵自身、アマリリスが亡くなっている事も分かっていた。亡霊にでもなって出て来たのではないか、と思えるぐらいそっくりでいるアルマに驚くのはは無理はない。
 シュバルツ公爵だとて、馬鹿ではなかった。アルマがアマリリスの従姉の娘なのも知ってはいるが、メリッサはアマリリスにあまり似ておらず、当時自分と同じ侯爵家に嫁いだ前ヴォルマ公爵の妹の娘に、野心家のシュバルツ公爵にはメリットも無く放置していたぐらいだ。
 その放置した娘が今や、息子であるジークハルトの妻になり、力を得ようとしている。
 シュバルツ公爵が欲しいのはヴォルマ公爵領。その為に嫌いな前ヴォルマ公爵に仕えながら、まだ小さな1人娘を犯し続けた。少女趣味だった訳ではない。父親の前ヴォルマ公爵に気に入られれば婿養子に入れるかもしれない、と常に気を張り詰めていた苦労の日々が思い出される。
 騎士として腕を磨き、娘が病弱で長くは生きられないと分かると、無理矢理にでも実行しなければ、と思い詰めてしまい、魔が差した事で箍が外れ、泥臭い厩舎に連れ込み、号泣するアマリリスと契ると、少しずつ歯車が狂って行った。
 前ヴォルマ公爵に気に入られようとする一方で、その鬱憤をアマリリスにぶつけて、ある日後継者とならないか、と提案された時、アマリリスの妊娠が発覚してしまう。
 激高した前ヴォルマ公爵の前にして、シュバルツ公爵はその時期に王都での勤務となり、アマリリスを人質同然で連れて行く事にした。そうしなければ前ヴォルマ公爵が大人しくしないだろうと思われたからだ。
 アマリリスからの愛情等、向けられる事もなければ、シュバルツ公爵も与える事もなく、地位を確立し後妻を迎える準備が出来ると、アマリリスはもう不要となり、ヴォルマ公爵領に送り返した。その頃には王都での地位を揺るがす程の力は前ヴォルマ公爵には無くなっていて、アマリリスはどうせもう死ぬだろう、と病弱なアマリリスが出産に耐えられないと思ったシュバルツ公爵は腹の子共々死ぬと思っていたのだ。
 それがアマリリスは意地で産み落としたのがジークハルトだ。
 後継者の居ないヴォルマ公爵領を引継ぐ邪魔な者が居れば、シュバルツ公爵は粛清してきていたので、その地を統治出来る者は自分だけだ、と前ヴォルマ公爵が亡くなれば後は滑り込めばいい、とそれでシュバルツ公爵の計画は終われると思っていたのだ。
 ジークハルトは健康に育ち、前ヴォルマ公爵はシュバルツ公爵への恨みから尽く邪魔をされ、今か今かと時期を見計らっても次は息子が邪魔をしてくる事が、更なるシュバルツ公爵の野望を遠のかせたのだ。
 目の前にアマリリスに似るアルマが、走馬灯の様に記憶が蘇らせている。

「アマリリス…………お前………私の前に現れるのか………そうか………それならお前の息子と共にまた死ね………」

 ジークハルトをイェルマと結婚させ、アルマをヴァイスと結婚させようとしていたシュバルツ公爵だが、そんな考えはもうシュバルツ公爵には無くなった様だ。
 踊りの輪の隅で、ワイングラスを握り締めて割ると、丁度そこで曲が終わりを告げた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました

蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。 そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。 どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。 離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない! 夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー ※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。 ※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。

身代りの花嫁は25歳年上の海軍士官に溺愛される

絵麻
恋愛
 桐島花は父が病没後、継母義妹に虐げられて、使用人同然の生活を送っていた。  父の財産も尽きかけた頃、義妹に縁談が舞い込むが継母は花を嫁がせた。  理由は多額の結納金を手に入れるため。  相手は二十五歳も歳上の、海軍の大佐だという。  放り出すように、嫁がされた花を待っていたものは。  地味で冴えないと卑下された日々、花の真の力が時東邸で活かされる。  

愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。 そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。 相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。 トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。 あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。 ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。 そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが… 追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。 今更ですが、閲覧の際はご注意ください。

ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~

cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。 同棲はかれこれもう7年目。 お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。 合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。 焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。 何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。 美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。 私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな? そしてわたしの30歳の誕生日。 「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」 「なに言ってるの?」 優しかったはずの隼人が豹変。 「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」 彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。 「絶対に逃がさないよ?」

暴君幼なじみは逃がしてくれない~囚われ愛は深く濃く

なかな悠桃
恋愛
暴君な溺愛幼なじみに振り回される女の子のお話。 ※誤字脱字はご了承くださいm(__)m

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

処理中です...