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第三雪【家族とは】
しおりを挟む「…っ!だから子供なんていらないって言ったじゃない!!」
「やめろ、あいつに聴こえたらどうするんだ。」
「別にどうもしないわ。あの子ほんとに何考えてるのかわからないもの。勝手に海外の大学に願書出してるし。こっちが何言っても心に響かないわよ。」
また、か。
卒業式が近づくにつれ、両親の喧嘩はさらに増えて言った。
私が、海外の大学を、勝手に受験するとしたことに対し、母親はよほど気にくわなかったらしい。
最初に両親と名乗る彼らに、迷惑をかけるようなものでなければ好きにしろと言ったのは、そっちなのに。
私は、ここから逃げ出したかった。
誰からも虐げられることなく、罵倒されることなく、ただ平穏に過ごしたいだけなのだ。
私が私らしく生きられるように。
じゃないと、すぐにでもこの世界から消えてしまいそうになるから。
でも、流石に実の母親にいらないと言われると中々にショックなものがある。
だからだろうか。
私は、絶対に言わないと決めていたのに、彼に話してしまった。
「ねぇ、篠宮くんの家族ってどんな感じ?」
例のごとく、公園のベンチに座り子供のごとく足をぷらぷらさせながら、彼に問う。
受験生というのを自覚している彼は、基本会う時にも参考書を持ってきていて、今日もまた理系よりの本を、読んでいた。
そんな本から視線を外し、急になにを言い出すのかと、不思議そうな面持ちで、私を見る彼。
その視線を無視し、私は地面を見続けた。
「どんなって……いたって普通だよ。普通のサラリーマンの父親と、専業主婦の母親がいて、可愛い弟がいてって、感じ。弟が小さいのもあって、わりと今でも旅行とかよく行くけど。まぁ、家族仲はそんな悪くないかな。弟、可愛いし。」
「弟くん愛されてるねぇ、ほんと。」
10歳も歳が離れてるからか、彼は弟くんを溺愛していた。
一度写真を見せてもらったことがあるが、無邪気そうに彼に抱きついている姿は、とても愛らしく、愛情を、めい一杯受けて育っているのだと伝わるほどだった。
そんな家庭で育った彼もまた、人に好かれる性質を持っているのだろう。
中学時代の彼の周りには常に人がいた。
「そういう赤月はどうなんだよ?確か一人っ子だよな?」
「私?私のところは……」
やはり、相手の事を聞くと自分のことも話さないといけないよなと思い、私は一度なんと返すべきか迷った。
ほんとはここでいつものように、かわして良かったのに。
「そうね……出張ばっかで家にほぼほぼいない無関心な父親と、世間体ばかり気にしてるキャリア志向の母親がいるって感じかな。まぁ、基本どっちも家にいないか、いても喧嘩してるかのどっちかね。三人で食事するだけでも吐きそうになるのに、旅行だなんて絶対無理。」
「……」
嗚呼、怖くて彼の顔が見れない。
優しい彼はきっと傷ついた顔をするのだろう。
そんな顔をして欲しいわけではないのだけれど。
私は自分の足先を一心に見つめていると、ふわりと頭の上に温もりを感じ始めた。
「……今の僕じゃ何もしてあげられないけど、赤月は頑張ってるよ。ほんと頑張ってる。」
その言葉とともに、頭をポンポンっと優しく撫でられた。
何故だろう、普段の私であれば誰かに触れられること自体気持ち悪いと感じるのに、彼に触れられたところは、とても優しい熱を帯びて、緩やかに私の中を温かいものが巡っていった。
彼のこのぬくもりをこの先ずっと感じていたいと思った。
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