耳を塞いで、声聴いて。

久寺森うみ

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第五章

5-1-2

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「まあ、園山だって成績つかなくなるの嫌だろうから、テストには来るだろうけど」


 先生の声が、どこか遠くから聞こえてくる。


(どうしよう……俺のせいだ)


 自分のせいで園山がこのまま学校に来なくなってしまったらどうしよう。自分はきっと嫌われてしまった。せっかく友達になれたのに、もう口を利いてもらえないのだろうか。

 そんな悪いことばかりが祥の頭に次々と浮かんできて、冷静に考える隙を与えてくれない。

「落ち着け井瀬塚。二人に何があったのかは知らんが、お前は思い詰めすぎだ」


 先生の言葉にハッとして俯いていた顔を上げる。そのとき初めて彼がじっと祥を見つめていることに気が付いた。


「なあ、これからこないだの話の続きをするけど、覚えてるか」

「あ、ハイ」


 こないだ、というのは祥が園山に暴力を振るおうとした日の放課後。先生に呼び出された時のことだろう。あのとき話の途中で優梨が入ってきてしまったことを思い出した。

 一体どんな話だったのだろうか。

 紫藤先生が口を開く。


「井瀬塚、お前は相手を思いやれる奴だ。見た目はチャラいが根は真面目。けどもちろん短所もある。一人で抱え込みすぎることだ。お前、溜め込みすぎるといつ爆発するか分からないしな。いつもならガス抜きの相手は筑戸だろうが、今は違うんじゃないか? 園山のせいでそんな風になってんなら、それ全部園山にぶつけて来い」

「――――っ」


 聞いている間に、目の奥がどんどん熱くなっていった。

 もしかしたら、祥はその言葉を待っていたのかもしれない。

 ようやく決心がついた。


「……はい。ありがとうございます!」 


 そう言い終わらない内に祥は教室を飛び出していた。



 先生の、廊下は走るなよ、という声は風と一緒にどこかに吹き飛んでしまった 。


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