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第五章
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全力疾走で駅まで向かうと、ちょうどバス停にy町行きのバスが到着したところだった。それに飛び乗り、大きく深呼吸をして息を整える。
「確かアイツ、始発の所から乗るって言ってたから、終点が園山んちの最寄りってことだよな」
降りてからのことは降りてから考えよう。バスに乗った祥に、正常な思考回路が働くとは思えなかった。
なぜなら――――。
(き、気持ち悪い……)
どの乗り物とも相性が悪い祥にとって、一時間弱もバスに乗っていることは苦行でしかないからだ。
すぐにでも横になりたい欲求を抑えながら、終点に着くのをひたすら待つ。
――いくつの停留所を過ぎたのだろうか。ようやく終点を告げるアナウンスが流れた。
めまいに襲われながら、おぼつかない足取りでバスを降りる。バスが走っていた通りから一本奥に入ると、そこは閑静な住宅街だった。幸い辺りにマンションやアパートは無かったため、表札を一軒一軒見ていけば、いずれ園山の家にたどり着けるだろう。
だが五分ほど歩いた所でとうとう祥は力尽きてしまった。
(やばい、もうほんとに限界……)
立っているのも辛く、よろよろと道路脇のブロック塀に寄りかかって座り込む。
(ああ、俺情けねぇ)
せっかく意気込んでここまで来たのに、こんな状態では園山に会うどころか、家を探しに歩くことすらままならない。
とにかく酔いが治まるのを待つしかないと諦めていたら、一つの足音が聞こえた。しかもこちらに向かってくる。
(こんなとこ、誰かに見られたらマズいな)
下手をしたら救急車でも呼ばれてしまうかもしれない。大事になるのは避けたかったが、祥にはもう立ち上がる気力すら残っていなかった。取りあえず身を小さくして、気付かれないようにすることしか出来ない。
(頼む、スルーしてくれ)
顔を伏せて足を抱え込み、足音が通り過ぎるまで耐え忍ぶ。
だが足音は祥の前で止まってしまい、先に進もうとする気配は無かった。
(俺は大丈夫だから、早くどっかに行ってくれ……)
本当は全然大丈夫ではないのだが、この場を丸く収めるためには嘘でもつける覚悟だった。
一向に動かない足音の主にまだ見られているのかと思い、祥はますます足を抱える腕に力を込める。
しかし足音は尚もこちらに近づいてくる。一歩、二歩と歩みを進められ、すぐそばに相手の気配を感じた。
何と言って声をかけられるのだろうかと身構えていると、足音の主は思いもよらない言葉を発したのだ。
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