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仕事を辞める
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「お兄さん。寄ってかない? 今日は上玉揃ってるよ?」
夜。声をかけられた。俺は相当たまってるように見えるのか。また同じ男かと思って見たが、今度はさすがに違う男だった。前回の男よりかなりがたいがいい。ラガーマン系のチャラ男だ。
「今日はいつものあいつ、休みか?」
思わず聞くと、「誰の事っすか?」と例のチラシを俺に見せた。
「ちがう。店の女じゃない。キャッチの男だ」
「キャッチの男なんていっぱいいますからねぇ~。どんなヤツですか?」
「チャラそうなやつだ」
「お兄さん、オモロ~っすか? 俺らみ~んなチャラそうっすよ」
「確かにそうだな」
「はっは~」
男は笑って、「で、どうっすか?」とチラシを強引に押し付けてくる。
「この子、良くないっすか? 今なら指名可能っすよ」
一番大きく写真が載っている女の子を指さす。きっと店の稼ぎ頭なのだろう。だけどそんな子指名できない。ベータ顔の俺が指名していいような女性じゃないだろ。
だから俺は半分に折られているチラシを自ら広げ、以前、オススメされた男を指さした。
「こいつは?」
するとラガーマン風の男は、あの男と同じ反応をした。
「男っすか? こいつ人気っすよ」
そう言ってヘラヘラ笑う。
「どう人気なんだ」
あの時と同じ質問を繰り出すと、「それは指名してもらってからのお楽しみっすよ~」と定型文を返してきた。そう言えと教育でもされているのだろうか。
「じゃあ、こいつにしよう。今すぐ指名できるのか?」
聞くと、男は「確認しま~す」とチャラチャラに敬礼し、店に電話を入れた。
そのまま店まで案内してもらい、俺はその夜、男に晩酌してもらいながら酒を飲んだ。いい匂いがした。甘くて、食べたくなるような匂い。
オメガかと聞くと、男はうっすらと微笑み、タケさんはアルファですかと聞いてきた。何故そんな質問をされたのかやはり分からなかった。俺などどこからどう見てもベータじゃないか。だけどもしかすると、それですら「定型文」なのかもしれない。アルファかと聞かれて嫌な気分になる人間などきっと居ない。俺くらいだろう。だけどこの男にアルファかと聞かれても、不思議と嫌な気分にはならなかった。
「俺は……偽物のアルファだ……」
そう返事すると、男はそっと俺に体を寄せ、ただ静かに「大丈夫ですよ」と言ってくれた。
男になど少しの興味もなかったが、これほどまでに心地のいいものなのかと驚いた。心穏やかに、俺はもたれてくる男の体重を受け止め、思わず聞いていた。
「番はいるのか?」
男はうっすら微笑んだまま、「まさか」と返事し、「運命の人を探してる」とつぶやいた。可笑しなことにメルヘンかよ、とは思わなかった。
そっと繋がれた手を握り返し、オメガとアルファは、こうやって惹かれ合うものなのかもしれないとぼんやり思った。
「タケさん……あったかい」
それは俺だって一緒だった。あたたかい……。
オメガと……アルファ……か。
夜。声をかけられた。俺は相当たまってるように見えるのか。また同じ男かと思って見たが、今度はさすがに違う男だった。前回の男よりかなりがたいがいい。ラガーマン系のチャラ男だ。
「今日はいつものあいつ、休みか?」
思わず聞くと、「誰の事っすか?」と例のチラシを俺に見せた。
「ちがう。店の女じゃない。キャッチの男だ」
「キャッチの男なんていっぱいいますからねぇ~。どんなヤツですか?」
「チャラそうなやつだ」
「お兄さん、オモロ~っすか? 俺らみ~んなチャラそうっすよ」
「確かにそうだな」
「はっは~」
男は笑って、「で、どうっすか?」とチラシを強引に押し付けてくる。
「この子、良くないっすか? 今なら指名可能っすよ」
一番大きく写真が載っている女の子を指さす。きっと店の稼ぎ頭なのだろう。だけどそんな子指名できない。ベータ顔の俺が指名していいような女性じゃないだろ。
だから俺は半分に折られているチラシを自ら広げ、以前、オススメされた男を指さした。
「こいつは?」
するとラガーマン風の男は、あの男と同じ反応をした。
「男っすか? こいつ人気っすよ」
そう言ってヘラヘラ笑う。
「どう人気なんだ」
あの時と同じ質問を繰り出すと、「それは指名してもらってからのお楽しみっすよ~」と定型文を返してきた。そう言えと教育でもされているのだろうか。
「じゃあ、こいつにしよう。今すぐ指名できるのか?」
聞くと、男は「確認しま~す」とチャラチャラに敬礼し、店に電話を入れた。
そのまま店まで案内してもらい、俺はその夜、男に晩酌してもらいながら酒を飲んだ。いい匂いがした。甘くて、食べたくなるような匂い。
オメガかと聞くと、男はうっすらと微笑み、タケさんはアルファですかと聞いてきた。何故そんな質問をされたのかやはり分からなかった。俺などどこからどう見てもベータじゃないか。だけどもしかすると、それですら「定型文」なのかもしれない。アルファかと聞かれて嫌な気分になる人間などきっと居ない。俺くらいだろう。だけどこの男にアルファかと聞かれても、不思議と嫌な気分にはならなかった。
「俺は……偽物のアルファだ……」
そう返事すると、男はそっと俺に体を寄せ、ただ静かに「大丈夫ですよ」と言ってくれた。
男になど少しの興味もなかったが、これほどまでに心地のいいものなのかと驚いた。心穏やかに、俺はもたれてくる男の体重を受け止め、思わず聞いていた。
「番はいるのか?」
男はうっすら微笑んだまま、「まさか」と返事し、「運命の人を探してる」とつぶやいた。可笑しなことにメルヘンかよ、とは思わなかった。
そっと繋がれた手を握り返し、オメガとアルファは、こうやって惹かれ合うものなのかもしれないとぼんやり思った。
「タケさん……あったかい」
それは俺だって一緒だった。あたたかい……。
オメガと……アルファ……か。
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