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第二章:約束
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目の前の彼も目を見開き、絶句している。
だけど、すぐに彼は「あ、あぁ、そうでしたね! すみません!」と焦ったように笑った。
「そうだ、忘れないでって言われていたんだ。勿忘草……、そう、そうだ。勿忘草、ね! 青いからって、そうだった……、そうそう」
勿忘草? 青……?
華頂さんから思わぬ言葉が飛び出し、俺は更に驚愕した。
あの日、電話を切ってからパソコン画面で見た青い勿忘草の写真が脳裏を過ぎり、俺は椅子のままひっくり返りそうになった。
「なんで……っ!」
なんで、あの日俺が電話のあとでその花を検索していたのを知ってるんだ! だとしたら、「私を忘れないで」という花言葉に具合が悪くなったのも……っ、この人は知ってるとでもいうのか!?
「なんで、勿忘草……っ!」
俺達は絶対にこの花の話はしていない。それは断言できる!
なのに、彼は混濁している記憶を手繰り寄せるように、言葉を探してこう言った。
「だって俺忘れっぽいから、土田さんが、ほら、名前の……。……いや待って。土田さんの下のお名前ってなんでしたっけ?」
待て待て待て! 名前、覚えてもいないのに! なんだ、その記憶は! 確かに俺の名前には「蒼」の文字が入ってる。だけど俺、そんな話してないだろ!
「ちょっと待ってください! 俺、勿忘草の話なんかしてません! 名前の話だって」
「え? してない? あ……して、ない?」
「してないですよ!」
「だったら、シロツメクサはっ!?」
突然、俺よりもずっと身を乗り出して、詰め寄るように華頂さんはそう言った。その勢いは「勿忘草よりも大事なナニカ」だと俺に伝えているようで、一瞬、目の前に春の陽気な風景を見た気がした。でも、それがどこなのか、何なのかを記憶するほど鮮明な映像ではなくて、コンマ何秒かのその映像は一瞬で風化した。
「シロツメクサ……?」
そんなの……俺は知らない。
「いや……、そんな話こそ、してませんよ……」
俺のこの返答は、まるで彼に絶望を与えたようだった。
前のめりだった姿勢は椅子にすとんと戻され、混乱している自分の記憶を雑に引っ掻き集めて適当に片づけ始める。それが見るからに分かった。もう記憶を辿る作業を止めました、と顔に堂々と書いてある。分からないことを調べることを好まないのが誰の目にも分かる。
この人はいつだってそうだ。分からないことは、分からないままでも大丈夫と言う。だって、「キミが全部調べて教えてくれるでしょう」って、いつだってなんだってすべて俺任せにする。楽しそうに喋って、俺に甘えて、コロコロ笑う。その足で走り回って、俺を連れまわして、疲れたと言って動けない俺の足元で眠ってしまうんだ。キミは本当に俺が居ないと……。
え?
有り得ない思考と映像に驚き、俺はビックリして視線を彼から自分の足下へと落とした。しかし、その瞬間頭の上から何かかぼとっと落ちてきて、双眸に飛び込んできたのは、綺麗なシロツメクサの花冠だった。
さすがに、椅子からひっくり返った。
ビックリして、大声を上げて、椅子から転げ落ちた俺に、華頂さんだけじゃない店にいる客もスタッフも全員が驚いてこちらを見た。
「えっ! 土田さん!?」
華頂さんが慌てて立ち上がり、俺の隣に駆け寄ってくる。
「待って! 待って、華頂さ……っ! はなか……っ、シロ……っ!」
「えっ!?」
「ある! そこ、探して!」
「なにを!? 虫ですか!? 何がありますか!?」
問われ、さっきまで覚えていたそれを瞬間的に忘れた。
あれ? 何を探して欲しいんだっけ?
だけど、すぐに彼は「あ、あぁ、そうでしたね! すみません!」と焦ったように笑った。
「そうだ、忘れないでって言われていたんだ。勿忘草……、そう、そうだ。勿忘草、ね! 青いからって、そうだった……、そうそう」
勿忘草? 青……?
華頂さんから思わぬ言葉が飛び出し、俺は更に驚愕した。
あの日、電話を切ってからパソコン画面で見た青い勿忘草の写真が脳裏を過ぎり、俺は椅子のままひっくり返りそうになった。
「なんで……っ!」
なんで、あの日俺が電話のあとでその花を検索していたのを知ってるんだ! だとしたら、「私を忘れないで」という花言葉に具合が悪くなったのも……っ、この人は知ってるとでもいうのか!?
「なんで、勿忘草……っ!」
俺達は絶対にこの花の話はしていない。それは断言できる!
なのに、彼は混濁している記憶を手繰り寄せるように、言葉を探してこう言った。
「だって俺忘れっぽいから、土田さんが、ほら、名前の……。……いや待って。土田さんの下のお名前ってなんでしたっけ?」
待て待て待て! 名前、覚えてもいないのに! なんだ、その記憶は! 確かに俺の名前には「蒼」の文字が入ってる。だけど俺、そんな話してないだろ!
「ちょっと待ってください! 俺、勿忘草の話なんかしてません! 名前の話だって」
「え? してない? あ……して、ない?」
「してないですよ!」
「だったら、シロツメクサはっ!?」
突然、俺よりもずっと身を乗り出して、詰め寄るように華頂さんはそう言った。その勢いは「勿忘草よりも大事なナニカ」だと俺に伝えているようで、一瞬、目の前に春の陽気な風景を見た気がした。でも、それがどこなのか、何なのかを記憶するほど鮮明な映像ではなくて、コンマ何秒かのその映像は一瞬で風化した。
「シロツメクサ……?」
そんなの……俺は知らない。
「いや……、そんな話こそ、してませんよ……」
俺のこの返答は、まるで彼に絶望を与えたようだった。
前のめりだった姿勢は椅子にすとんと戻され、混乱している自分の記憶を雑に引っ掻き集めて適当に片づけ始める。それが見るからに分かった。もう記憶を辿る作業を止めました、と顔に堂々と書いてある。分からないことを調べることを好まないのが誰の目にも分かる。
この人はいつだってそうだ。分からないことは、分からないままでも大丈夫と言う。だって、「キミが全部調べて教えてくれるでしょう」って、いつだってなんだってすべて俺任せにする。楽しそうに喋って、俺に甘えて、コロコロ笑う。その足で走り回って、俺を連れまわして、疲れたと言って動けない俺の足元で眠ってしまうんだ。キミは本当に俺が居ないと……。
え?
有り得ない思考と映像に驚き、俺はビックリして視線を彼から自分の足下へと落とした。しかし、その瞬間頭の上から何かかぼとっと落ちてきて、双眸に飛び込んできたのは、綺麗なシロツメクサの花冠だった。
さすがに、椅子からひっくり返った。
ビックリして、大声を上げて、椅子から転げ落ちた俺に、華頂さんだけじゃない店にいる客もスタッフも全員が驚いてこちらを見た。
「えっ! 土田さん!?」
華頂さんが慌てて立ち上がり、俺の隣に駆け寄ってくる。
「待って! 待って、華頂さ……っ! はなか……っ、シロ……っ!」
「えっ!?」
「ある! そこ、探して!」
「なにを!? 虫ですか!? 何がありますか!?」
問われ、さっきまで覚えていたそれを瞬間的に忘れた。
あれ? 何を探して欲しいんだっけ?
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