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【転】 過去
ー side 蘭真 ー 1
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上京して通い始めた製菓専門学校。人生で初めての彼氏が出来た。初めてのキスも初めてのエッチも、同級生の小南に捧げた。
小南は二年になると製パンコースへと移り、ブーランジェの道を選んだ。
俺はその頃、講師の先生が仕事をしているホテルにてアルバイトを始める。先生に声をかけてもらえる生徒は本当に一握りで、俺はこれでも優等生だったという訳だ。
その時ホテルの厨房には俺と同じような境遇の調理師たまごがいて、それが後の俺の大本命彼氏になる、寺島走一郎だった。
寺島は天才だった。俺も優等生である自信はあったけど、寺島は優等生などという枠を通り越していて、プロの調理師達と同じ仕事量をこなしていた。
俺より二ヶ月早くこのホテルで仕事を始めていたらしいのだが、俺が来た時にはもうしっかり仕事を割り振られていて、しばらくの間彼が学生だということを知らなかったくらいだ。
寺島はすごく女の子に人気だった。
厨房の女性だけでなく、ホールスタッフの女の子達からもキャーキャー言われていて、先輩達からよく冷やかしを受けていた。
やめてくださいよと困ったように眉を垂れるけど、一歩厨房を出れば自分を取り囲む女性達と楽しそうに話し込む。正直俺には鼻の下を伸ばしているようにしか見えなくて気分が悪かった。
チャラい。
初めて受けた印象はそんなもの。寺島は俺とは別人種だと信じて疑ってなかった。
このホテルでのアルバイトを初めて三ヶ月。寺島と全く喋らないなんてことは不可能で、業務以外の会話もそこそこ交わすようになっていた。
「高島くんて彼女いんの?」
仕事終わりのロッカールーム。コック服から私服に着替える寺島が何気なく聞いてきた。
「まぁ……うん。恋人いるよ」
彼女ではないけどと心の中で零し、俺も私服へと着替え始めた。
「へぇ! どんな子? 可愛いの? 写真見せてよ」
「写真なんてない」
本当は腐るほどあるけど見せられるわけもなく堂々嘘をつくと、寺島は「嘘言えって!」と俺の携帯電話を取り上げてしまった。
「ちょ、まっ!!」
奪い返す前にアルバムを見られ、そこに写る彼氏の写真を見て寺島は固まった。
「ホントにねぇな……。男ばっかじゃねぇか」
「だっ、だから無いって言ってるだろ、返して!」
大慌てで奪い返して鞄の底へとし舞い込む。変に勘づかれなくて本当に良かった。
それから何ヶ月かして、寺島はホテルを辞めた。女の子達からはもちろん、ホテルの従業員皆から散々残念がられていた。社長なんか、「うちで就職すればいいのに」なんて言い出す始末。それでも寺島の意思は固かった。
更衣室でいつものようにコック服を脱ぎながら、いつものように喋る。
「学生してられんのも後ちょっとだし、のんびりするわ」
今日で最後。けど寺島は楽しそうだった。
「就職先見つかってるの?」
聞いた俺に首を振り、「これから~」とあっけらかんと言い切る。
そして俺より先に着替え終わると、また明日も会えるような人懐こい笑顔で、俺の隣に並んだ。
小南は二年になると製パンコースへと移り、ブーランジェの道を選んだ。
俺はその頃、講師の先生が仕事をしているホテルにてアルバイトを始める。先生に声をかけてもらえる生徒は本当に一握りで、俺はこれでも優等生だったという訳だ。
その時ホテルの厨房には俺と同じような境遇の調理師たまごがいて、それが後の俺の大本命彼氏になる、寺島走一郎だった。
寺島は天才だった。俺も優等生である自信はあったけど、寺島は優等生などという枠を通り越していて、プロの調理師達と同じ仕事量をこなしていた。
俺より二ヶ月早くこのホテルで仕事を始めていたらしいのだが、俺が来た時にはもうしっかり仕事を割り振られていて、しばらくの間彼が学生だということを知らなかったくらいだ。
寺島はすごく女の子に人気だった。
厨房の女性だけでなく、ホールスタッフの女の子達からもキャーキャー言われていて、先輩達からよく冷やかしを受けていた。
やめてくださいよと困ったように眉を垂れるけど、一歩厨房を出れば自分を取り囲む女性達と楽しそうに話し込む。正直俺には鼻の下を伸ばしているようにしか見えなくて気分が悪かった。
チャラい。
初めて受けた印象はそんなもの。寺島は俺とは別人種だと信じて疑ってなかった。
このホテルでのアルバイトを初めて三ヶ月。寺島と全く喋らないなんてことは不可能で、業務以外の会話もそこそこ交わすようになっていた。
「高島くんて彼女いんの?」
仕事終わりのロッカールーム。コック服から私服に着替える寺島が何気なく聞いてきた。
「まぁ……うん。恋人いるよ」
彼女ではないけどと心の中で零し、俺も私服へと着替え始めた。
「へぇ! どんな子? 可愛いの? 写真見せてよ」
「写真なんてない」
本当は腐るほどあるけど見せられるわけもなく堂々嘘をつくと、寺島は「嘘言えって!」と俺の携帯電話を取り上げてしまった。
「ちょ、まっ!!」
奪い返す前にアルバムを見られ、そこに写る彼氏の写真を見て寺島は固まった。
「ホントにねぇな……。男ばっかじゃねぇか」
「だっ、だから無いって言ってるだろ、返して!」
大慌てで奪い返して鞄の底へとし舞い込む。変に勘づかれなくて本当に良かった。
それから何ヶ月かして、寺島はホテルを辞めた。女の子達からはもちろん、ホテルの従業員皆から散々残念がられていた。社長なんか、「うちで就職すればいいのに」なんて言い出す始末。それでも寺島の意思は固かった。
更衣室でいつものようにコック服を脱ぎながら、いつものように喋る。
「学生してられんのも後ちょっとだし、のんびりするわ」
今日で最後。けど寺島は楽しそうだった。
「就職先見つかってるの?」
聞いた俺に首を振り、「これから~」とあっけらかんと言い切る。
そして俺より先に着替え終わると、また明日も会えるような人懐こい笑顔で、俺の隣に並んだ。
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