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予選突破に巡る想い

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 曲の終わりと共に盛大な拍手と歓声が送られる。
 だが四人は、自分たちのステージが終わってしまったことに動揺するほどゾッとした。だってもう後戻りは出来ないのだ。この後は審査員に点数を付けられる。これほど恐ろしいことはない。

 テンションの高いMCの合図で、審査員たちが点数を付けて行く。

 10点、8点、9点、10点……

 高得点が続く。
 そして。

「990点っ……!! 本日最高得点だぁぁ!」

 信じられないような点数で他と大きく差を付けた。

「ぃ……ゃ……っったぁぁぁああぁっ!」

 腹の底から声を出した一ノ瀬が大きくガッツポーズを取り、隣に立つ雪村に飛びつく。
 それを受け止めた雪村の表情も緩み、柔らかい笑顔を浮かべた。志藤と太一はハイタッチを交わし、泣き出してしまいそうなのを必死にこらえた。

 その光景をひな壇から見つめ、佐久間は四人の僅かな変化に誰よりも早く気がついていた。いや、正確に言えば雪村の変化に気付いたことで、あとの三人にも違和感を覚えたのだ。

 何が違うとは言い切れない。だが、雪村があれだけ分かりやすく安心した顔を晒すなど、佐久間には俄かに信じられなかったのだ。喜んでいる表情ではあるのだが、どちらかというと安心している顔に近い。
 ほっとした瞬間の表情など、正直そうそう拝めるものではない。なんせ相手はあの雪村涼だ。長く一緒に仕事をしている佐久間でさえ、そんな表情を多く見られない。

 何故、安心したのか。
 それはもちろん暫定一位に飛び出たからだろう。しかし、いつもの雪村ならそう簡単に喜んだり安心したりなどしない。何故ならこの後には視聴者投票が待ち構えているからだ。

 結果はそれ次第。今、どれだけ点数を稼いでいても、視聴者投票で大どんでん返しがあるかもしれないわけだ。賢い雪村がその脅威を丸無視して喜ぶわけはない。佐久間はそれを知っている。だからこそ違和感を覚えたのだ。

「このMOMOという曲タイトルは、グループ名のMonday Monsterからつけた、愛称のようなものです」

 雪村がそう切り出すと、補足するように志藤が口を開いた。

「Monday Monsterという荒々しい名前に反した、MOMOという可愛らしい愛称。同じように曲にも二面性を持たせています。一番と二番じゃまるで別の曲。すべてをリンクさせたかったんです」

 なるほどと審査員が納得し、一様に頷いた。
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