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予選突破に巡る想い

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「衣装もそうです。カッコかわいいをコンセプトにデザインしました」

 思わず可愛い~と言いたくなる笑顔で一ノ瀬がそう付け加える。太一はみんなの言葉にただただ頷いているだけだったけど、審査員の一人が太一の名前をあげた。

「沖太一くん、かな?」

 突然名前を呼ばれ、慌ててヘッドマイクを口元に合わせ直した。

「飛び抜けて優れた歌唱力だね。声量も伸びも、表現力も、文句なしの100点満点。これからまたまだ成長していくのかと思うと、大変興味深いですね。期待しています」

 プロミュージシャンであるその審査員の評価に、太一は感激して息を吸いこんだまま固まってしまった。そんな太一の背中を志藤がトンっと叩き、吸い込んでいた息を体から吐き出させてくれた。前転してしまうんじゃないかと思うほどの勢いで頭を下げる。

「あぁ……あっ、あ、ありがとうございますっ!」

 こんな風に真っ向から評価されたのは初めてだった。褒められ慣れてないから仕方のないことだ。いつだって、「陽一くんはすごいわね」と弟ばかりが褒められ、「陽一くんは有望だわ」とご近所のママさんが噂しているのを聞き、「陽一くんはカッコイイ」と女子が騒ぎ立てているのを見てきたのだ。そうやって今まで生きてきた。誰かが自分に『期待している』なんて考えたこともなかったし、聞いたことだってなかった。

 一度下げた頭は、なかなか上げられなくて、じわりと目頭が熱くなる。


 ここに居たい………!


 ここが自分の居場所。Monday Monsterが太一の新しい居場所なのだ。
 アメリカになど行きたくない。行ってたまるかと心に再び炎が燃え上がる。それは強い強い意思。せめて一次審査通過、などという負け越しの願いなんかじゃない。


 オレは日本に、必ず残る。


 頭を上げた太一の瞳は、もう何の迷いもなくて、何も恐れてはいなかった。

「勝ちます。……勝つためにここに来ました。だから皆さん、MOMO と一緒に夢を追いましょう」

 この会場にいる客へ、そしてテレビの向こうにいる視聴者へ、まっすぐ投げかけた言葉だった。

 オレたちに票をよこせ。というこの強烈なアピールは、控えめなアイドルとして知名度を上げていた太一のイメージを、180度変えるものとなった。

 沖太一、十五歳。芸歴四年。
 硬く閉じていた蕾はゆっくりと膨らみ始め、そして今、開花する。
 彼は覚醒するのだ。


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