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予選突破に巡る想い
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* * * * *
番組終了間際、この胸の高ぶりがなんなのか、確かめるように、太一は志藤を抱きしめた。いつもただ見つめていただけの艶髪に指を通し、その柔らかさを実感する。
まだまだ華奢な体。けど、この小さな体に秘められているエネルギーも男らしさも、全部知っている。結局、やっぱりドキドキしちゃうじゃん……とすぐに体を離して、少しだけ頬を紅く染めた。
番組が終わり、一緒に戦ったチーム達と簡単に健闘を讃えあった。
それぞれの楽屋へと戻る途中、雪村は佐久間に呼び止められて、二人は少し立ち話を始めたため、太一は志藤と一ノ瀬と三人で楽屋に戻った。
「超メール入ってる」
一ノ瀬が自分の携帯を開いて笑う。
太一も携帯を開けると、見たことないくらいのメールが受信されていて、この返事は大変だぞ……と少し気が遠くなった。けど、やっぱり一番に探すのは家族からのメールと、野瀬と中原からのメール。
陽一と中原からはメールが入っていた。だが、野瀬からのメールはなく、きっと大量にメールが来ることを見越して、敢えて連絡してこなかったのだろうと、太一は都合よく解釈した。
(野瀬って、結構気の遣えるやつだしなぁ)
なんて思いながら、明日またこちらから連絡しようと決めた。
ちらりと志藤を確認すると、携帯のチェックすらしていなくて、早々に着替えを始めている。雪村も楽屋に戻ってきて、しばらく四人で喜び合い、反省会を開いた。
全チーム共通のマネージャーが途中やってきて、明日からのスケジュールを説明される。
Monday Monsterに密着しているカメラはずっと楽屋に居たが、反省会が終わるとさっさと退散した。
「さ。帰ろうか」
太一の変化に何も気付いていない志藤がいつもの調子で彼に声を掛ける。
楽屋を出ると廊下には佐久間が立っていて、二人は一瞬ドキっとしたが、雪村が後ろから「悪い、待たせたな」と声をあげたので「お疲れ様です」と小さく頭を下げ、メンバーとも別れた。後ろからは一ノ瀬を含めた雪村と佐久間の話し声が聞こえ、太一は一度だけ後ろを振り返った。
「佐久間くん。怒ってた?」
「そう? 元々そういう顔なんじゃなくて?」
冗談まじりで返事する志藤に小さく笑い返し、勝負に負けたところなんだからにこやかなわけがないかと思った。けど、佐久間は怒っていたわけでも負けて拗ねていたわけでもない。
太一の境遇を知ってしまったのだ。
雪村の口が軽いわけじゃない。佐久間の口が堅いのだ。雪村はそれを知っているし、そこに絶大な信頼も寄せている。よく軽口を叩く佐久間ではあるが、その裏側では誰もが彼に信頼を寄せていて、例に漏れず雪村とて彼を信用していた。
ただ、だからと言って弱みを見せるわけではない。震えるほど怖かったことも、泣きたいくらい安心したことも、雪村はそれを佐久間には見せない。恥ずかしいという感情が少なからずそこにあった。
番組終了間際、この胸の高ぶりがなんなのか、確かめるように、太一は志藤を抱きしめた。いつもただ見つめていただけの艶髪に指を通し、その柔らかさを実感する。
まだまだ華奢な体。けど、この小さな体に秘められているエネルギーも男らしさも、全部知っている。結局、やっぱりドキドキしちゃうじゃん……とすぐに体を離して、少しだけ頬を紅く染めた。
番組が終わり、一緒に戦ったチーム達と簡単に健闘を讃えあった。
それぞれの楽屋へと戻る途中、雪村は佐久間に呼び止められて、二人は少し立ち話を始めたため、太一は志藤と一ノ瀬と三人で楽屋に戻った。
「超メール入ってる」
一ノ瀬が自分の携帯を開いて笑う。
太一も携帯を開けると、見たことないくらいのメールが受信されていて、この返事は大変だぞ……と少し気が遠くなった。けど、やっぱり一番に探すのは家族からのメールと、野瀬と中原からのメール。
陽一と中原からはメールが入っていた。だが、野瀬からのメールはなく、きっと大量にメールが来ることを見越して、敢えて連絡してこなかったのだろうと、太一は都合よく解釈した。
(野瀬って、結構気の遣えるやつだしなぁ)
なんて思いながら、明日またこちらから連絡しようと決めた。
ちらりと志藤を確認すると、携帯のチェックすらしていなくて、早々に着替えを始めている。雪村も楽屋に戻ってきて、しばらく四人で喜び合い、反省会を開いた。
全チーム共通のマネージャーが途中やってきて、明日からのスケジュールを説明される。
Monday Monsterに密着しているカメラはずっと楽屋に居たが、反省会が終わるとさっさと退散した。
「さ。帰ろうか」
太一の変化に何も気付いていない志藤がいつもの調子で彼に声を掛ける。
楽屋を出ると廊下には佐久間が立っていて、二人は一瞬ドキっとしたが、雪村が後ろから「悪い、待たせたな」と声をあげたので「お疲れ様です」と小さく頭を下げ、メンバーとも別れた。後ろからは一ノ瀬を含めた雪村と佐久間の話し声が聞こえ、太一は一度だけ後ろを振り返った。
「佐久間くん。怒ってた?」
「そう? 元々そういう顔なんじゃなくて?」
冗談まじりで返事する志藤に小さく笑い返し、勝負に負けたところなんだからにこやかなわけがないかと思った。けど、佐久間は怒っていたわけでも負けて拗ねていたわけでもない。
太一の境遇を知ってしまったのだ。
雪村の口が軽いわけじゃない。佐久間の口が堅いのだ。雪村はそれを知っているし、そこに絶大な信頼も寄せている。よく軽口を叩く佐久間ではあるが、その裏側では誰もが彼に信頼を寄せていて、例に漏れず雪村とて彼を信用していた。
ただ、だからと言って弱みを見せるわけではない。震えるほど怖かったことも、泣きたいくらい安心したことも、雪村はそれを佐久間には見せない。恥ずかしいという感情が少なからずそこにあった。
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