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壊れた信頼
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仲が悪い。
そう、二人は決して仲良くなんかなかった。
それでも、お互いトップナインとして培ってきたモノを信用信頼し、敬ってもいる。だが、初めて二人が言い合いをしたMOMOの方向性の会議。あの時の意見の食い違いは、決勝戦を来月に控えている現在に至っても、何かに付けてよくズレまくっていた。
このままじゃ一体感なんて出るわけない、と四人全員が心の中で思っていたが、二人の意見が食い違うのも、チームのためを本当に思っているからこそであると、全員が全員知っていた。
少しは相手に合わせる努力くらいしてよ、と太一や一ノ瀬は苛立ちを募らせたりもするが、最終的にいつも二人は言い合いの中で答えを見つけ出していた。
「いいじゃん、それ」
二人が閃くと「どう思う!?」とようやくそこで太一と一ノ瀬に意見が降りてきて、ここでダメだと言える人間なんているわけないだろと、失笑しながら頷くのであった。
もちろんだが、二人の喧嘩はテレビでも放送されている。おかげで初めて衝突したあの時のまま、MOMOは喧嘩の絶えないグループというイメージが世間に定着しつつあった。
だが、喧嘩ばかりじゃないのがこのグループで、雪村と志藤の織りなすドラマのようなドキュメンタリーに、世間は感動し、少年達の本気の戦いに心を震わせるのであった。
しかし、この状況に精神的苦痛を伴っていたのは太一や一ノ瀬なんかではなく、志藤本人だった。雪村に楯突かずに済ますことなど、簡単にできる。彼の独擅場にしてしまうことなど容易だったが、元々二人の考え方は180度違っていて、志藤は今まで自分を押さえ込んでは雪村に媚びへつらってきた。
そうするのが一番無難。
そんなことは、志藤とて分かっていた。そうするのが得意なことだって本人も知っている。だけど日々の苛立ちや焦りが、志藤にその理性を働かせてはくれなかった。
太一のいない学校生活。
結局どうなったのか分からない野瀬と太一の関係。
卒業式のあの日以来、太一が微塵も見せてこない特別な好意。
そして嫌でも近づいてくる決勝戦。
太一が好きで、大好きで、失いたくなくて、でもどうしていいかわからなくて。
仕事に没頭して、無我夢中で頑張っているのに、雪村にしょっちゅう怒られる。そんな毎日に耐えられなかった。雪村の考えに苛立つことが増えたのは、精神的にかなり追い詰められていたからだ。
なのに、雪村の言葉はいつもいつも容赦がなかった。
「志藤! またそこのステップ間違ってる! 何回目だよ!」
「……すみません」
雪村の考え方に苛立つことは多いが、それでもこればっかりはどうしようもない。事実、ミスをしているのだから。「一旦休憩すんぞ」という雪村の言葉に、用意されている椅子に座り出すチームメイト達。それを横目に、志藤は無心でステップの練習を繰り返した。
だがそれさえも雪村を怒らせるのだった。
そう、二人は決して仲良くなんかなかった。
それでも、お互いトップナインとして培ってきたモノを信用信頼し、敬ってもいる。だが、初めて二人が言い合いをしたMOMOの方向性の会議。あの時の意見の食い違いは、決勝戦を来月に控えている現在に至っても、何かに付けてよくズレまくっていた。
このままじゃ一体感なんて出るわけない、と四人全員が心の中で思っていたが、二人の意見が食い違うのも、チームのためを本当に思っているからこそであると、全員が全員知っていた。
少しは相手に合わせる努力くらいしてよ、と太一や一ノ瀬は苛立ちを募らせたりもするが、最終的にいつも二人は言い合いの中で答えを見つけ出していた。
「いいじゃん、それ」
二人が閃くと「どう思う!?」とようやくそこで太一と一ノ瀬に意見が降りてきて、ここでダメだと言える人間なんているわけないだろと、失笑しながら頷くのであった。
もちろんだが、二人の喧嘩はテレビでも放送されている。おかげで初めて衝突したあの時のまま、MOMOは喧嘩の絶えないグループというイメージが世間に定着しつつあった。
だが、喧嘩ばかりじゃないのがこのグループで、雪村と志藤の織りなすドラマのようなドキュメンタリーに、世間は感動し、少年達の本気の戦いに心を震わせるのであった。
しかし、この状況に精神的苦痛を伴っていたのは太一や一ノ瀬なんかではなく、志藤本人だった。雪村に楯突かずに済ますことなど、簡単にできる。彼の独擅場にしてしまうことなど容易だったが、元々二人の考え方は180度違っていて、志藤は今まで自分を押さえ込んでは雪村に媚びへつらってきた。
そうするのが一番無難。
そんなことは、志藤とて分かっていた。そうするのが得意なことだって本人も知っている。だけど日々の苛立ちや焦りが、志藤にその理性を働かせてはくれなかった。
太一のいない学校生活。
結局どうなったのか分からない野瀬と太一の関係。
卒業式のあの日以来、太一が微塵も見せてこない特別な好意。
そして嫌でも近づいてくる決勝戦。
太一が好きで、大好きで、失いたくなくて、でもどうしていいかわからなくて。
仕事に没頭して、無我夢中で頑張っているのに、雪村にしょっちゅう怒られる。そんな毎日に耐えられなかった。雪村の考えに苛立つことが増えたのは、精神的にかなり追い詰められていたからだ。
なのに、雪村の言葉はいつもいつも容赦がなかった。
「志藤! またそこのステップ間違ってる! 何回目だよ!」
「……すみません」
雪村の考え方に苛立つことは多いが、それでもこればっかりはどうしようもない。事実、ミスをしているのだから。「一旦休憩すんぞ」という雪村の言葉に、用意されている椅子に座り出すチームメイト達。それを横目に、志藤は無心でステップの練習を繰り返した。
だがそれさえも雪村を怒らせるのだった。
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