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真実

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「言ってること分かってねぇようだな。俺はこの事務所に精通してんだよ。歯向かったヤツから順番に干してやる。まずはお前か、佐久間? それとも菊池か?」

 静まり返る部屋は明らかに困惑の空気で充満し、不意打ちだったとはいえ、小学生に見えるほど小さな内海に尻餅をつかされた菊池と佐久間に、全員が息を飲んだ。

 その空気を無理矢理こじ開けたのは仁科だ。

「……あはは、冗談うまいねぇ。そういうの、嫌いじゃないけど~」

 そう言って窓辺に置いていた豆乳のパックを手に取ろうとしたのに、ズバッとそこにエンピツが突き刺さると、もう誰も何も言えず、動くことすらも出来なくなった。

「……覚えとけ。その牛乳パックみたいになりたくなかったら、俺に歯向かうことも舐めたこと言うのもやめろ」

 怯え、静まり返る部屋。
 内海はそのど真ん中を闊歩し、ささっと開いていく道を歩くと窓辺の豆乳を手にして大事なエンピツを引き抜いた。水滴を振り払うようにエンピツを振ると、再びそれをズボンのポケットにしまい込む。
 そして近くにいる仁科、浅野、西川を順に睨んだが、唯一視線を逸らさなかった西川と睨みあうように見つめ合った。
 なぜ西川が目を逸らさないのか内海には理解できなかったが、ふと思った。

 ここにはトップナインが三人もいるんだなと。それはすごい確率だと思った。佐久間、西川、菊池。だとしたら、志藤だってもしかして、男を好きな可能性があるかもしれない。確率はゼロではないだろう、と。
 そう考えながら西川を睨んでいたけど、ばっとその間に佐久間が割り込んできた。

「ここにいるヤツらは全員勘弁してやってくれ。俺が全部悪かった。腹立ってんなら、俺だけにしてくれ」

 その声は必死だった。

「何でもするよ。俺が全部責任取るから」

 そういう男らしいところ、やっぱり漫画みたいだ、と内海は内心ほくそ笑んだ。

「じゃあさ。調べてよ、俺の好きな人が男に興味あるのかどうか。なさそうなら、どうにかコッチに引っ張り込んで来い」

 選択肢は一つ。拒否権はそこにない。

「分かった……。やれるだけの事してみるよ」

 誰が好きなの?
 そう聞いた佐久間に、内海は薄っすらと不敵に微笑んだ。

「お前にだけ教える。誰を駒に使ってもいいけど、誰にも他言すんな」

 佐久間は部屋から連れ出され、志藤の名前を聞かされた。

「いや……、あいつはノンケだ。調べるまでもない」

 そう伝えはしたが、「やれるだけのことやるんだろ?」と上げ足を取られてしまえば、もうやるしかなかった。
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