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現在:幻

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 だけど、どれだけの朝を迎えても、どれだけ梓との時間を増やしても、何度優臣の幻を見ても、一度だってその表情は見えなかった。
 ただ、梓の隣にじっと立っているだけ。

 月日が過ぎる。気が狂いそうだった。梓と会うのが次第に怖くなって……それでも梓を手放せなかったのは、優臣に会えなくなってしまうからだ。あいつは何故か、俺の右隣ではなく、必ず梓の隣に現れるから。

 優臣を引き連れて歩く梓に消えて欲しくもあり、絶対に消えて欲しくもない。梓が好きだから別れを切り出せないのか、はたまた優臣に会いたいから梓を隣においているのか……分からなくなってくる。何度も……自己嫌悪する。

 もう別れてしまえよと、何度も何度も思うんだ。
 優臣の表情が見えないのだって、優臣が梓に付きまとうのだって、怒ってるからじゃないのかって……。優臣じゃなく、梓を好きになってしまうことを、怒っているんじゃないのかって……そんな風に思うんだよ。
 俺はもう長らくずっと、“尻軽そうな女”としか付き合えなくなっていて、こんなに長く一人の相手と付き合ったこと……梓が初めてなんだよ……。今まで、一度だってなかったんだ。

 梓を可愛いと思うし、大事にしたいと思うし……、いつか全部を話して……俺を許して欲しいとも思うんだよ。一緒に居て欲しいと思うんだ……。

 けど……その“許して欲しい”も、“一緒に居たい”も、“可愛い”も、“好き”も……全部優臣に向けられている感情なんじゃないかと思う瞬間もあって……。自分が……分からなくなる。俺は、梓を愛しているのか、優臣を……追いかけているだけなのか……。

 優臣の幻は……俺に何を伝えようとしているのだろう。
 許してやるものかと、俺を責めるのか……。それとも、忘れないでと……俺に縋っているのか……。

「優臣……」

 頼むよ……。応えてくれ……。俺は……どうすればいい……?



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