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空を満たす何か

遊びたくないんです!

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嫌な予感しかしない。

「もうチーム分けも終わってるから、後はお題を出してもらうだけだよ。」

「では………お題は1人ずつ口頭でお伝えしますね…。」
日本だと識字率は高いし、拙くとも英語であれば何とか外国人とも意思疎通が取れる。だが魔族には統一された言語がなく、意思疎通は念話に頼り切っている。それに文字を持たない種族もいるし種族ごとに扱う文字も異なるため、お題は口頭で伝えるしかなかった。

「あなたのお題は…」

そしてゲームが終わると、
「こんなにワクワクしたのなんていつぶりだろう!お前に騙されるなんて、なんて楽しいんだ!!さぁ、もう一回だ!!」

これが続く。

そこからはもう思い出したくない。13回連続で○狼ゲームなんて飽きるよね…。私は5回で飽きた。

「あの、もうそろそろ……」
お開きにしませんか、と言おうとした。しかしそう言う前に、ゲームに参加していたツニートやカーミラさん達の顔を見てしまった。

そこには遠い目をした二人がいた。燃え尽きたぜ、と言いそうな位にはげっそりしていた。アノーリオンは私とお題作成しているため、ゲームに参加していなかったのが幸いした。

私が声をかけたことに気づいたミカエルさんは休憩にしようと声をかけてくれた。休憩中、嘘の精霊達はなぜゲームに負けたのか分析しあっていた。精霊達にも力の格があるのか、勝ち残る人達はやはり序列が上の人達のようだった。

「序列ってどうやって決めるんですか?やっぱりタイマンするんですか?」
近くにいる精霊に聞いてみた。タイマンという言葉に目を剥いて驚いていた。

「これだから人間は…。タイマンなんかしたら危ないだろう?相手によっては種族最後の生き残りかもしれないんだ。傷付けたら種族が滅亡してしまう。それに彼らはもう既に十分傷付いているから、これ以上痛めつけたら可哀想だろう?」

「おぉ…。嘘の精霊さんに諭される日が来るとは……。」

「僕達は精霊同士に限るけど、相手を見たら何となく自分より強いか弱いか分かるんだ。だから人間達のように闘って何かを決めるって事はあまりないかな。妖精は僕達精霊ほどはっきりした理性は持ってないし。勿論、自分より強い奴らを騙す楽しみ方もあるけどね?」
そう教えてくれたのは青年姿のリズワーンさんだ。

「まぁ、彼は別格だけれど。」
指し示したのはミカエルさんだった。嘘の精霊が集まると、ミカエルさんだけ何かオーラのようなものが違うのだ。これは私の予想だが、もしかしたらザナさんのように司るものが一般の嘘の精霊とは微妙に異なるのかもしれない。

小休憩を挟み、今度は嘘の精霊の皆さんだけでゲームを運営してもらう。その間、私達四人は飲み物を飲んで少し休憩していた。

「それにしても、嘘の精霊って、割とまともなのもいるのね。」
カーミラさんが感心したように言った。

「あぁ、本当に不思議なものじゃなぁ…。残虐と名高い精霊が他の精霊達を庇うのを見る日が来るとは思わなんだ。」
アノーリオンが感慨深いとでも言うように染み染みと言った。

『ラヴァルとのこと、聞いてみる?』
ツニートが声を潜めて言った。

「ふむ、確実に警戒されるじゃろうな。何せここはあ奴らの拠点ホームじゃ。勝手が分からん儂らよりも利はあろう。」

「では、このカエデ。行きます。」
私は静かに宣言した。そして真っ直ぐミカエルさんがいる所まで向かう。

「カエデ。君のお陰だよ。ここまで皆に活力が戻ったのは久しぶりのことなんだ。」
近づくとミカエルさんが機嫌良く話しかけてくれた。そのままミカエルさん達の輪の中に入り、暫くお喋りを楽しんだ。

「きみ。背中に偉大なる主人の祝福を受けているんだね。あぁ、人間だけど異世界から来たのだったか。」
隣りにいた男性が話し掛けてきた。

「だが所詮人間だ。消えてしまった我らの同胞達がここにいたら何と言うだろうか。」

嘘の精霊は騙し陥れる資質だと説明されたから、他の精霊達からは鼻つまみ者と避けられているのかと思ったがそうではないらしい。

「あぁ。欲望、選択、悔恨の精霊。後は飢饉の妖精と包丁の精霊だったか。どれも人間の傍で大きな力を振るう者達だったが、人間を惑わすとかなんとかいちゃもんつけられて片っ端から滅ぼされたんだ。」
私のお向かいの精霊が説明してくれる。

「飢饉の妖精は人間の飢饉に対する恐れと悲しみから生まれて、飢饉の前触れを報せてくれるんだ。飢饉になったら力を増すけれど、飢饉の妖精が飢饉を招く訳ではない。人間達に害を為す存在ではないが、粛清の対象になった。むしろ飢饉から早く立ち直るには彼らの力が必要だったのにな。」

「他の精霊達もそうだ。包丁の奴はいけ好かねぇ奴だったからしゃーないが。水の精霊なんて国の区画整理だとかで住処を壊されて、一時は存在すら危うくなって消滅しそうだったんだ。後から人間達がやってきて、彼女の許可を得て国を興したってのに。」

嘘の精霊という割に、そこには精霊や妖精の境遇を憂える人達の集まりだった。憂う気持ちに嘘偽りなんて一つも見当たらなかった。

「たんぽぽの妖精なんて、綿毛姿で目の前を飛ばれるのが邪魔だからって理由だったんだ。ぽわぽわして風に流されているのが可愛いかったのに…。」
最後にミカエルさんが悲しげに付け足した。

「人間はなんて勝手なんだろうね?」
ミカエルさんが私を試すように一欠片の悪意を乗せて問い掛けた。

「それには心の底から同意します。私は理不尽に痛めつけられる恐怖と痛みを知っています。ですから生き残った方達が今も苦しんでいるなら、いつか心穏やかに過ごせる日が来るよう祈っております。」
私は力強く頷く。

「へぇ?人間の君が?」

「えぇ。言葉が分かるようになる前でしたからはっきりとは分かりませんが、恐らく私は奴隷だったのでしょう。売り飛ばされ、肉体を切り刻み、淀みに侵された土地に撒かれる寸前でした。同郷の亡くなった方は、死んでなお今現在も朽ちる事を許されず利用され続けています。……ですから私はギルミアさんやラヴァルさんと対立しました。」

「守のことだね。……あぁ、君は彼と同郷なのか。ラヴァルと、ねぇ……?」

「なぜ貴方達は竜族の奇襲に力を貸したんですか?竜族は妖精達を痛めつける非道な存在ではなかったはずです。」
余所者の私をあっさり受け入れてくれたくらい、竜族の心根は善良だと思う。

「竜族に恨みなんかないよ。まぁ目障りではあったけどね。ただ消された同胞達の報復のために、人間の国を滅ぼす名分が欲しかっただけ。竜族は反対派の最大派閥だったろう?だから少し大人しくしてほしかったんだ。」
ミカエルさんがからりと微笑さえ浮かべて言った。

私は堪らなく胸を掻き毟りたくなった。だってそれでは、竜族の襲撃はただのパフォーマンスに過ぎないわけってことだ。死んでいった竜族の子ども達はとばっちりを受けただけ。そこには死んでいった正当な理由すらないってことだ。

どうしようもなく悔しくて、涙を堪える事で精一杯だった。













    
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