神さま別に読む「古事記」「日本書紀」

01．神霊出生の章

No.008～No.009「カミヨナナヨ」（1）

　神世七代かみよななよとは、古事記において天之常立神あめのとこたちのかみのあとに生まれた七組の神のことを言う。しかし、初めの国之常立神くにのとこたちのかみ・豊雲野神とよくもののかみは、別天ことあまつ神と同様、独神ひとりがみである。
　日本書紀では、最初に生まれた国常立尊くにのとこたちのみことから、伊弉諾尊いざなぎのみこと・伊弉冉尊いざなみのみことまでの七組を言う。こちらも、国常立尊・国狭槌神くにのさつちのみこと・豊斟渟尊とよくむぬのみことの三柱みはしらは、単独で生まれた独神である。


　古事記での記述は以下のとおり。
「次に成りませる神の名みなは、宇比地迩神うひぢにのかみ。次に妹いも須比智迩神すひちにのかみ。次に角杙神つのぐひのかみ。次に妹活杙神いくぐひのかみ。二柱。次に意冨斗能地神おほとのぢのかみ。次に妹大斗乃弁神おほとのべのかみ。次に於母陀流神おもだるのかみ。次に妹阿夜訶志古泥神あやかしこねのかみ。次に伊耶那岐神いざなきのかみ。次に妹伊耶那美神いざなみのかみ
　上かみの件くだり、国之常立神より以下しも、伊耶那美神より以前さきを、併あはせて神世七代と称いふ。上の二柱の独神はおのもおのも一代ひとよと云いふ。次に双ならべる十とはしらの神はおのもおのも二ふたはしらの神を合はせて一代と云ふ」


　日本書紀での記述は以下のとおり。
「次に神有ます。埿土煑尊うひぢにのみこと〔埿土、此こをば于毗尼うひぢと云ふ〕沙土煑尊すひぢにのみこと。〔沙土、此をば須毗尼すひぢと云ふ。亦または埿土根尊うひぢねのみこと・沙土根尊すひぢねのみことと曰まうす〕次に神有す。大戸之道尊おほとのぢのみこと〔一あるに云いはく、大戸之辺おほとのべといふ〕大苫辺尊おほとまべのみこと。〔亦は大戸摩彦尊おほとまひこのみこと・大戸摩姫尊おほとまひめのみことと曰す。亦は大富道尊おほとまぢのみこと・大富辺尊おほとまべのみことと曰す〕次に神有す。面足尊おもだるのみこと・惶根尊かしこねのみこと。〔亦は吾屋惶根尊あやかしこねのみことと曰す。亦は忌橿城尊いむかしきのみことと曰す。亦は青橿城根尊あをかしきねのみことと曰す。亦は吾屋橿城尊あやかしきのみことと曰す〕次に神有す。伊弉諾尊・伊弉冉尊。
　（一書あるふみを二つ挟む。詳細は、No.010～No.015「カミヨナナヨ」（2）にて）
　凡すべて八やはしらの神ます。乾坤あめつちの道、相参あひまじりて化なる。所以このゆゑに、此の男女をとこをみなを成す。国常立尊より、伊弉諾尊・伊弉冉尊に迄いたるまで、是これを神世七代かみのよななよと謂いふ」
（原本で小さく表記されている部分は、わかりやすよう〔　〕で囲っている）


　先代旧事本紀せんだいくじほんぎでの記述は以下のとおり。
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三代みつきの耦たぐひ生なる天あまつ神。
　角樴尊つのぐひのみこと。亦は角龍魂尊つのたつむすひのみことと云ふ。
　妹活樴尊いくぐひのみこと。亦は角活魂尊つのいくむすひのみことと云ふ。
　別天三降尊わけあまのみくだりのみこと。獨化ひとりなる天つ神、第二世ついでふたつぎの神なり。
四代よつきの耦ひ生る天つ神。
　埿土煑尊。亦は埿土根尊と云ふ。
　妹沙土煑尊。亦は沙土根尊と云ふ。
　別天合尊わけあまあひのみこと。亦は天鏡尊あまかがみのみことと云う。獨化る天つ神、第三世ついでみつぎの神なり。
五代いつつぎの耦ひ生る天つ神。
　大苫彦尊おほとまひこのみこと。亦は大戸之道と云ふ。亦は大冨道と云ふ。亦は大戸麻彦おほとまひこと云ふ。
　妹大苫辺尊。亦は大戸辺と云ふ。亦は大冨辺と云ふ。亦は大戸摩姫と云ふ。
　別天八百日尊わけあまのやをひのみこと。獨化る天つ神、第四世ついでよつぎの神なり。
六代むつぎの耦ひ生る天つ神。
　青橿城根尊。亦は沫蕩尊あわなきのみことと云ふ。亦は面足尊と云ふ。
　妹吾屋橿城尊。亦は惶根尊と云ふ。亦は蚊鳫姫尊かがりひめのみことと云ふ。
　別天八十萬魂尊わけあまのやそよろづたまのみこと。獨化る天つ神、第五世ついでいつつぎの神なり。以上いじゃう、五行いつくだりの神霊かみが成就じゃうじゅす。故に、伊弉諾・伊弉冉及および高皇産霊を化生なりいづる。
七代ななつぎの耦ひ生る天つ神。
　伊弉諾尊。天降あまくだる陽を神。
　伊弉冉尊。天降る陰め神。
　別天皇彦霊尊わけたかみむすひのみこと。亦は高魂尊たかみむすひのみことと名づく。亦は高木命たかきのみことと名づく。獨化る天つ神、第六世ついでむつぎの神なり。
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　三や七は、いずれも中国における陽数である。


　古事記において、神世七代の三世代目の神として登場するのが、「宇比地迩神」と「妹・須比智迩神」。日本書紀の本文や先代旧事本紀においては、「埿土煑尊」と「沙土煑尊」と表記される四世代目の神である。
　日本書紀三段目の一書においても、二柱で一対となる最初の神だ。ここから独神ではなく、性別が誕生したことになる。
　ウヒヂニ・スヒヂニの「ヒヂ」「ニ」は、どちらも泥の意味を持つ。「ウ」と「ス」の差は不明だが、「植うえる（埋めて固定する）」「据すえる（動かないよう置く）」など、対立した形を持つ語が存在しているから、これも基本的な意味が同じで対偶形に仕立てたものだろう。
　ウヒヂネ・スヒヂネは、ウヒヂニ・スヒヂニの音転であり、意味は同じと思われる。