死が二人を別こうとも。

すずなり。

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結婚話。

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母「・・・結婚!?」

父「結婚!?」





リビングに入るなり伝えた結婚のこと。

二人は目を見開きながら俺を見ていた。




秋臣「りらと・・・結婚したいんだ。」

父「・・・まだ早いだろう?」

母「そ・・そうよ、大学卒業して、就職してからでも遅くはないわよ?」

秋臣「・・・それじゃあ遅いんだよ!!」





俺はリビングにあるソファーに座り、自分の膝を見つめながら・・・りらのことを話し始めた。




秋臣「りらは・・・お兄さんの見立てではあと1年しか生きられないんだ。」

母「・・・・え!?」

秋臣「心臓に疾患があって・・2回手術したけど治らなくて・・・もう治せないって言われてる。」

父「治せないって・・・・」

秋臣「もちろんそんなこと信じたくないけど・・・最近発作の回数も増えてきたし・・・だからもっと一緒にいたいって思う。」





信じたくないと言っても、現実は容赦ない。

このままりらの笑顔が消え去っていくのかと思うと・・・自然と目から溢れてくるものがあった。




秋臣「だ・・だからっ・・・結婚・・・っ・・・」




いつの間にか自分の手を力いっぱい握りしめていた。

信じたくないのに信じてしまう。

失いたくないのに失うことが前提の話。

そんな話・・・言葉にして口から出すだけで悲しみにくれてしまいそうだ。




父「・・・・・辛いぞ?」

秋臣「え?」




目から溢れる涙を拭うことすらせずに、俺は父親を見た。

父親はゆっくり俺のところまできて・・・隣に座った。




父「親しい人や・・友人の死は辛い。愛する人はもっと辛い。・・・それを最期まで見届けることができるのか?それをりらちゃんは望んでるのか?」

秋臣「・・・・・・。」

父「秋臣の収入なら結婚生活は問題ないだろう。考えたくはないだろうけど・・・『別れ』の時を考えてから行動に移しなさい。」

秋臣「『別れ』・・・・。」




父親が言ってるのは・・・おそらく『りらが死んだ』あとのこと。

そんなこと・・・考えなくても決まってる。




秋臣「俺は例えりらを失っても他の誰とも付き合わない。結婚もしない。」

父「・・・まー・・お前は一度決めたことはやり通すタイプだから・・・とぅさんは反対しないよ。秋臣の人生だし・・・責任取れるだろ?」

秋臣「・・・うん、ありがとう。かぁさんは?」





流していた涙を腕で拭きとりながらキッチンを見た。

すると母親は口元を手で隠しながら・・・めっちゃ泣いていた。




母「うっ・・・」

秋臣「・・・・かぁさん・・。」

母「ごめ・・・りらちゃんと初めて会った時に・・・『秋臣のお嫁さんに来てくれたらいいのになー』って・・・思ったことがあって・・・・」

秋臣「え?」

母「でもそんな・・余命が1年だなんて・・思いもしなくて・・・・」



まだ高校生なのに余命宣告をされる人は殆どいないだろう。

ましてやその人が・・・息子の彼女だなんて。




秋臣「・・・結婚に賛成してくれる?りらは・・・『お嫁さんになることが夢』って前に言ってた。それは俺じゃなきゃ・・・叶えてやれない。」

母「!・・・好きになっちゃったんだもんね・・・反対はしないけど・・・離婚はしないでね?」

秋臣「!!・・・するわけないじゃんっ!」




涙を拭きながらご飯の準備を進めだした母親。

時々涙が溢れてくるのかエプロンで目元を拭ってる。





秋臣(俺のこと・・・信用してくれてるんだよな・・・。)




小さいころからコンクールだのなんだのと、大人の世界にいた俺は親の言うことは聞いてきた。

それに加えて自分のしたいことは貫き通してきた。

作曲を始めたときは少し反対もされたけど・・・『やる』といったら反対はされなくなった。

やりたいようにやらせてくれて・・・感謝しかない。





秋臣「・・・ありがとう。」






俺は二人に感謝しながら・・・しばらくリビングで時間を過ごした。







ーーーーーーーーーー






りらside・・・


同時刻。

りらのいる病院・・・






葵「・・・・結婚!?オミが言ったのか!?」




診察にきたお兄ちゃんに、オミくんが言ってくれたことを伝えた。



りら「うん。」

葵「結婚なんてする年じゃないだろ・・・。」




お兄ちゃんは呆れたようにしながら聴診器を手に取ったけど、私はそうでもなかった。




りら「でも私にはもう時間がないよ?」

葵「それは・・・・・・」

りら「オミくんの気持ちは嬉しかったけど・・・私は『遺す方』だから・・どうしていいかわかんないや。」

葵「りら・・・・」





オミくんの気持ちを受け取って結婚したとしても・・・私はもうすぐいなくなる。

深い眠りにつく私はいいとしても・・・オミくんが心配だ。

いなくなってしまった私のことをずっと引きずることになる。





りら「別れたほうが・・・いいのかも・・。」




結婚したら、オミくんは私のことをずっと忘れられない。

結婚しなくてもこのままずっと付き合ってて・・・私がいなくなってもきっと忘れられない。

ならこのまま別れて・・・私が消えたことを知らずにいれたら・・・オミくんは前に進める。




りら「今度・・・別れてくる。」




私の胸の音を聞いてるお兄ちゃんにそう言うと、お兄ちゃんは聴診するのをやめて私を見た。




葵「りらが決めたなら俺は反対しない。でも・・・・」

りら「?」

葵「もっと我儘になっていいんだからな?」

りら「我儘って・・・そんなの言えるわけないじゃん。ただでさえ迷惑かけてるのに・・・。」




この部屋代に、医療費、学校の保健室の改装費・・・発作を起こせばつきっきりで私を見てくれてる。

お兄ちゃんにとっても重荷でしかない私は・・・誰にも迷惑をかけずに眠りにつきたい。




葵「『迷惑』って・・言ったか?言ってないだろ?」

りら「・・・・。」

葵「たった一人の妹だ。どんな我が儘だってきいてやりたいんだよ。」

りら「でも・・・・」

葵「治してやれない分・・・我儘言ってくれ。・・・頼むよ。」

りら「・・・・。」




前に・・・本屋さんで立ち読みした本がある。

『遺すほうと遺されるほう』って本だ。

遺すほうは迷惑をかけないようにしたがる。

遺されるほうは・・・悔いが残らないように色々してあげたくなる。




りら(お兄ちゃんに後悔が残らないように・・・我儘言ったほうがいいんだ・・。)




私は両手を広げてお兄ちゃんに言った。




りら「・・・ぎゅってして?」

葵「!!・・・・もちろん。」




満足するまで抱きしめてもらいながら・・・私はいつのまにか眠っていった。








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