死が二人を別こうとも。

すずなり。

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最終話。

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ーーーーーーーーーー







卒業式が終わった後、泣き腫らした目をした翼が俺のもとにきた。




翼「どうだった?中谷の答辞。」



その言葉で誰がりらの音声を録ったのかがわかった。




秋臣「・・・翼だったのか、あれ録ったの。」

翼「オミが学校に呼び出された日があっただろ?あの日、ダッシュで病院に行ったんだよ。で、中谷に説明して録ったってワケ。」

秋臣「そっか・・・。」

翼「録音したやつはオミにやるし・・・好きな時に聞けよ?」

秋臣「・・・さんきゅ。」




体育館を出た俺たちは一旦教室に戻った。

そこで記念品やらなんやらもらって、クラスメイトたちと別れる。

みんなの進路は大学や専門学校、就職組に分かれたようだった。




生徒「オミーっ!元気でなー!」

秋臣「おー。」

生徒「お前だけ進路決まらなかったぞー!(笑)」

秋臣「あー・・・・。」




どうやら進路が決まらなかったのは俺だけのようで、男どもがからかうように言ってきた。

きっと彼らなりの励ましなんだろうけど・・・癪だ。




秋臣「俺は作曲者になる!『クレセント』のキーボードに就くから・・・テレビで会おうな!!」




そう言うと俺の声が聞こえたみんなから驚きの声が上がった。



生徒「えぇ!?」

生徒「今、『クレセント』って言った!?」

生徒「工藤くん、有名人になるの!?」


秋臣「ははっ、じゃーな!」








ーーーーーーーーーー








ーーーーーーー








ーーーー






ーーー










10年後・・・・・


良く晴れた5月の10日。


俺はラジオの番組でゲストとして呼ばれていた。

ヘッドホンをつけて、マイクに向かって喋る。






ラジオDJ「今日は『クレセント』のキーボード担当、オミくんに来ていただいてまーす。こんにちはー!」

秋臣「こんにちは、よろしくお願いします。」

ラジオDJ「オミくんはクレセントで作曲もされてるんですよね?」

秋臣「はい。もう・・・15年くらいですかね。」

ラジオDJ「15年というと・・・中学生の頃からですか!」

秋臣「はい。雄星に声をかけてもらって・・・ですね。」

ラジオDJ「すごいですね!そんなオミくん、なんと先日お誕生日だったとか!おめでとうございます!」

秋臣「ははっ。ありがとうございます。29になりましたねー。」

ラジオDJ「結構いいお年になりましたね。ご結婚とか考え始めるころですか?」

秋臣「あー・・・実はもう結婚してまして・・・。」

ラジオDJ「えぇ!?」

秋臣「今年・・・11年目に突入します。」

ラジオDJ「11年ってことは・・・高校生の時!?」

秋臣「18になってすぐですね。妻は同級生の子で・・・毎日大好きだって伝えてます。」

ラジオDJ「ラブラブで羨ましいですねー!ではクレセントの曲にいってみたいと思います。曲紹介よろしくお願いします。」

秋臣「はい、クレセントで『リラ』。今日はありがとうございましたー。」

ラジオDJ「ありがとうございましたー!また遊びに来てください―!」




♪~・・・





ラジオのスタジオを出た俺は、電車に乗り込み、いつもの海に向かった。

この10年・・・毎月10日は海に行ってる。





秋臣「今月もちゃんと聞かせてやるからな。」




手には真っ白の紙で折った鶴。

その紙は俺が出資したとぅさんの会社が開発したものだ。




秋臣「フツーの紙と変わんないくらいの品質で作れるとか・・・ほんとすごい。」




最初こそはでこぼこした紙で、字を書くのが大変だった。

手で触った感じや見た目はフツーの紙と変わんなかったけど・・・直線を引こうと思ったらきれいに書けなかったのだ。





秋臣「トライ&エラーの繰り返しって・・・すごいんだな。」




そこらで売ってるノートと同じくらいの紙質になったのは数年前。

それからも品質向上を目指してもらって、俺は1億の出資を継続していた。

毎年毎年とぅさんの会社に振り込んでる。





秋臣「まぁ・・・そんなにお金使わないし。」





そんなことを考えてるうちに俺は目的の駅に着いた。

電車から降りて浜辺を歩く。




秋臣「そのうちここを買って管理でもしようか。・・・なぁ、りら。」




手の中にある鶴に話しかけた時、俺のケータイが鳴った。

画面を見るとりらのお兄さんからだ。





秋臣「?・・・なんの用だろ。」



そう思いながらも俺は電話に出た。



ピッ・・・






秋臣「もしもし?」

葵「オミ?今いいか?」

秋臣「はい、大丈夫ですけど・・・?」

葵「・・・寄付、ありがとな。」





俺はりらが亡くなった後から、毎年5000万をりらのお兄さんがいる病院に寄付をしてる。

りらみたいに病気で苦しむ子の役に立てて欲しくて始めたことだ。

他にも病気の研究をしてる企業に寄付をしたり出資をしたり・・・いろいろしてる。




秋臣「役立ててくれたらそれでいいです。俺もいつまで寄付できるかわかりませんし。」

葵「!・・何を言ってるんだよ。世界で活躍してるバンドのくせに(笑)」




『クレセント』は去年、活躍の場を世界に広げた。

俺たちは世界を飛び回ってツアーやイベントを起こしてる。

今日もこの鶴を海に流したら・・・飛行機に乗らないといけない。




葵「いつもありがとな。たまには酒でも飲みに来いよ?」

秋臣「そうですね、次に帰国するときは休みを多くもらいます。」

葵「ははっ、そうしてくれ。じゃな。」

秋臣「失礼します。」ピッ・・・





電話を切ったあと、俺はいつもの場所にしゃがみ込んだ。

りらが・・・海を初めて触ったところだ。




秋臣「ちゃんと聞いてくれよ?」




真っ白な鶴を折る前に、俺は音符を書いていた。

りらが好きな・・・プレリュードだ。




秋臣「こんなことしても自己満足だって言われるかもしれないけど・・・俺はそれでもいい。りらが好きだった曲を聞かせられるって思うだけで・・・心が軽くなるんだ。」





自分にはりらを救えるような技術も知識もなかった。

自分を責めても仕方がない。

でも・・・責めてしまう。





秋臣「『もう謝らないで』って言ってたけど・・・それでも謝るよ。・・・ごめん。ずっと好きだからな。」




そう言って海の波が寄せてきたときに、俺は鶴を託した。

引き波に合わせるようにして鶴は沖に向かっていく。






太陽に照らされて・・・眩しく輝きながら沖へと泳いでいく鶴。

ゆらゆらと揺られて気持ちが良さそうだ。




秋臣「ほんと無邪気に泳いでるみたい。」





りらが亡くなって数年後、りらのお兄さんに名前の由来を聞いたことがあった。

由来は・・・『無邪気』って意味の花言葉を持つ『リラの花』から取ったそうだ。




秋臣「でもな、りら・・・他にも花言葉があるんだぞ?」



それは『思い出』って意味だ。




秋臣「りらの思い出を大事にしながら・・・俺は生きていくよ。」





無邪気に天国で遊んでることを祈りながら

その鶴が海の中に消えていくまで見送った。





秋臣「・・・・ずっと愛してる。」








ーーーーーおわり。








最後まで読んでいただいてありがとうございました。


お気に入り登録をしていただきありがとうございます。

表現不足などままならないところも多いですけど・・・温かく見ていただけたら幸いです。

読み返した時に気がついたものは修正していくようにしてますので・・・。





またお会いできる日を楽しみに。すずなり。








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