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状態は・・。

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慶「リョウ、あいつは?」




病院に向かって走ってる車の中でリョウに聞く。

リョウは運転をしながら答えた。



リョウ「警察に引き渡しました。容疑は誘拐、監禁、詐欺、詐称と・・・殺人未遂です。」

慶「・・・『殺人未遂』?」

リョウ「かえでさんへの・・・『殺人未遂』です。」

慶「・・・・は?」





リョウは言葉を詰まらせながら説明し始めた。



リョウ「3・・週間ほど・・食事を与えて・・ないと・・。」

慶「・・・!?」

リョウ「『水は与えていたから死にはしない』と・・言ってましたが・・『殺人未遂』を容疑に加えてもらいました。」

慶「水があれば死にはしないかもしれないけど・・・!あのくそ狸め!!」




腕の中で目を開けないかえでをぎゅっと抱きしめた。




慶「すぐ病院に着くからな。もう大丈夫だからな・・・。」



病院につくまでの間、俺はずっとかえでに話しかけた。





ーーーーーーーーーーーーーー





医師「すぐに診ますのでこちらでお待ちください!」




病院に着いた俺は医者にかえでを引き渡した。

処置室に連れて行かれるかえでを見送り、近くにあった椅子に腰かける。



慶「・・・何もないといいけど・・。」






痩せてしまってる体や、食事をとってないことを考えると『何もない』なんてことは考えられない。

それでも『ただ気を失ってるだけ』と医者が言うことを願いたかった。




リョウ「この病院は春斗も入院してるので・・・少し様子を見てきます。」

慶「・・・あぁ、頼む。」




リョウが行ったあと、一人で椅子に座りながらかえでが出てくるのを待った。

しーん・・・とした待合。

自分の腕時計の秒針が動く音が聞こえる。




慶「・・・俺がかえでを求めたから・・・こんなことになったのか・・?」




見てるだけでいいと思っていたかえで。

お店で笑って・・時々話すくらいでよかった。

でも・・泣いてる彼女を見て放っておけなくなった。



慶「それが間違いだった・・?でもあの男のところにおいていても・・・かえでは幸せになんてなれない。」




自分が幸せにすると決めてたのに、こんなことになってしまった。




慶「・・・ごめん。」





そう呟いたとき、処置室からかえでがでてきた。





ガチャ・・・





慶「!!」

医師「ご家族の方ですか?」





家族・・ではない・・・。

でも・・・




慶「・・・そうです。」




かえでにご両親はいない。

兄妹も・・・。

今は俺と一緒に住んでる。

家族・・みたいなものだ。





医師「病室にご案内してから容態を説明しますね。」

慶「お願いします・・・。」




ベッドに乗せられ、かえでが俺の前を通る。

点滴をいくつもぶら下げながら。





慶「かえで・・・。」




心配しながら見てると、医師が口を開いた。



医師「・・・栄養状態はかなり悪いですけど・・しばらくすれば目を覚ますと思います。」

慶「・・・本当ですか!?」

医師「ただ・・喉がちょっと・・・簡単に言うと潰れてますので・・・。」

慶「え!?」

医師「詳しくは病室でしましょうか。」





そう言って医師はかえでのベッドの後ろをついて行った。

俺もさらに後ろをついていく。




慶(目を覚ます・・・目を覚ますんだよな!?)




不安だった心が一気に晴れる。

かえでが目を覚ましたら伝えたいことがたくさんある。

もう大丈夫とか・・二度と危険な目に遭わさないとか・・・


ごめん・・・とか。





医師「病室はこちらです。」

慶(医者からかえでの身体のこと聞いて・・・目が覚めたら家に移して・・・)




俺はこれからのことを考えながらかえでの病室に入った。









ーーーーーーーーーーーーーー








ーーーーーーーーーーーーーーー







病室に入った俺は医者からかえでの容態を聞いて・・・言葉が詰まった。





慶「え・・?」

医師「・・・喉が潰れてるので話すことはできません。あと、耳をどこかにぶつけたのか鼓膜が破れてるので音も聞こえにくいと思います。」

慶「それは・・ずっと・・?」

医師「いえ。数か月で元に戻ると思います。早ければ1カ月ほどで。」

慶「そうですか・・・。」




かえでの髪の毛をすくうと、耳に確かにケガがあった。

真っ暗な空間にいたのだからどこかにぶつけてしまったのかもしれない。




医師「目が覚めないと他はわからないので・・・あとは目が覚めるまで待ちましょうか。」

慶「はい・・・。ありがとうございました・・。」




医者は病室から出て行き、俺はかえでと二人っきりになった。

微動だにせずに眠るかえでを覗き込む。



慶「俺が話しかけても・・・聞こえてないの・・?」




鼓膜が破れてると言ってた医者。

どこまでかえでが聞こえてるか分からないけど、話しかけずにはいられない。



慶「かえで・・・もう大丈夫。早く目を開けて・・・。」




細くなってしまった手を握って、俺はかえでが早く目を覚ますのを待った。








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ーーーーーーーーーーーーーーー








リョウ「・・・今日もかえでさんのところですか?」

慶「あぁ。」





仕事をさっさと終わらせて、俺は家を出る準備をしていた。

かえでを助け出してから・・・1カ月が経った。

春斗は目を覚まして退院したっていうのに、かえではまだ眠ったままだ。





リョウ「今日は起きるといいですね。」

慶「そうだな。あ、春斗に『いい加減、自分を責めるのは止めろ』って言っといてくれ。」




春斗は目を覚ましたあと、かえでを見て自分を責めた。

『あのときちゃんと守れてたら・・・!』ってそればかり言ってる。



慶「今回のは多勢に無勢だった。・・・って、言っても自分を責めるんだろうけどな。」

リョウ「そうですね・・・かえでさんの目が覚めたら・・変わるかもしれませんけど。」

慶「・・・だな。行ってくる。」

リョウ「お気をつけて。」





ーーーーーーーーーー




自分で車を運転して病院に向かう。

いつもなら誰かに運転させてたけど、ここ最近は『平和』であることが確認されていたから一人で外出もできるようになっていた。



その理由は・・1カ月前のことが業界のなかでは大きな事件になっていたから・・・。



『神楽 慶の婚約者を誘拐・監禁して逮捕。判決は死刑』




その情報はあっという間に知れ渡り、『神楽 慶に手を出すと返り討ちにあう』とお触れが出回った。

本当はあの社長の悪事が芋づる式に出てきて死刑判決が出ただけだ。

人身売買、臓器売買、麻薬に密輸・・・ありとあらゆることに手を出していたことが判決の決め手だったんだろう。

でも俺の名前が出たことで・・・『神楽』に喧嘩を売ってくるやつはもういない。



慶「もういないのに・・・かえでが目を覚まさないとなんの意味もない。」




でも後ろ向きに考えるとかえでの目は覚めないかもしれない。

だから前向きに考える。



慶「きっと今日は病室に入ったら目が覚めてる。かえでは俺を見て『遅いよ』って言うんだ。」




起きてるかえでを想像しながら俺は病院に向かった。
























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