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「ステラを連れてきました。」


レイスさんはそう言って大きな扉をノックした。


「入っていいぞー。」

「失礼したします。」


取っ手を持ち、ガチャっと扉を開けたレイスさんに続いて部屋の中に入ろうと足を出した。

するとどこかで嗅いだことのある匂いが鼻を抜けたのだ。


(この匂い・・・本・・?)


部屋に足を踏み入れて視線を上げると、そこには大量の本があった。

部屋をぐるっと一周囲うように、床から天井までぎっしりと詰まってる。


(すごい量・・・図書館みたい・・・。)


あまりにも多すぎる本の量に驚いてると、咳払いが一つ聞こえてきた。

その音に、ハッと前を向く。


「あぁ、この子で間違いない。」


そう言ったのは大きな机があるところに座ってる人だった。

レイスさんとは対照的な白いマントを身にまとい、白い制服スーツのようなものを着てる。

そして煌びやかな金色のラペルピンが眩しく、マントの襟元にきれいな刺繍が施されていた。


(『間違いない』って・・・なに?)


どう考えても私に向かって言ってる言葉だ。

でもその意味が分からず、私はレイスさんの後ろに少し体を隠した。


「ステラ、8年前に森で誰かと出会わなかったか?」

「!!」


隠れた私に聞いてきたレイスさんの言葉に、私は思い当たる節があった。

森で出会う人なんかいるわけがなく、『誰かと出会わなかったか』と聞かれたら思いつくのはたった一つしかないのだ。


「・・・。」

「その顔は覚えてそうだな。・・・8年前、こちらの王がまだ王子だったんだが、ちょっとしたアクシデントで大けがをされたんだ。」

「アクシデント・・?」

「あぁ。」


この王様は8年前に調査を兼ねて森に来ていた時、大型の獣と遭遇してしまったらしい。

当時、結婚したばかりの部下が護衛にいたらしく、その部下を生きて帰らせるために自分が囮になったのだとか。

そして逃げてる途中で折れた枝がお腹に刺さってしまい、失血で気を失いかけてたときに誰かが治してくれたらしい。


「・・・。」

「私の傷を治してくれたのはキミか?ステラ。」


レイスさんが一通り話をし終えた時、王様が口を開いた。

ここで私は『はい、そうです。』なんて言えるはずもなく、ただただ無言でいるしかなかった。


「では質問を変えよう。キミはあの場にいた女の子だな?」

「それは・・・・」

「私はしっかり覚えてる。言い逃れることはできないと思うぞ?」

「・・・。」


思い返せば8年前に私がヒールをかけた人とこの王様は、雰囲気が似てる気がした。

あまり興味もなかったからあまり鮮明に思い出せるわけではないから確信は持てない。


(あの時にいた誰かから私の情報を得て、カマをかけてるってことも考えれる・・)


足りない頭をフル回転させ、どうにかして何事もなく切り抜けようと考えるけど何も浮かばない。

困り果てた私は半分は正直に答えることに決めた。


「・・・そうです、8年前、森で食べ物を探していたら・・王様と会いました。」

「答えてくれてありがとう。・・・では、私の傷を治してくれたのも・・・キミか?」

「・・・私はあの場にいただけです。それは知りません。」


そう答えた瞬間、その王様の近くにいた側近のような人が剣を抜いた。


「嘘をつくと不敬罪で処罰するぞ!!本当のことを言え!!」

「!?」


切っ先を向けられた私は驚いて一歩下がった。

するとレイスさんがマントを広げて私を隠してくれたのだ。


「ワズン!何をする!!」

「どけ!トゥレイス!王に対し嘘をつくなど言語道断・・本当のことを話さないなら処罰するべきだろう!!我が国の民でもないのだからな!!」

「!!」


その言葉に、私は一歩、また一歩と後ずさりをした。

ここにいたら殺されるか本当のことを言わされるかの二択。


「来るんじゃなかった・・・」


そう呟き、私は部屋を飛び出した。


「ステラ・・!?待て!待ってくれ・・!!」


絨毯が敷かれてるお城の中は、岩や石でごつごつした森の地面よりも走りやすい。

私は目についた廊下の角を右や左にと曲がりながら逃げた。


(レイスさんが優しいから勘違いしてたけど・・・男の人はみんな暴力で解決するんだった・・。)


威圧する態度に『言うことを聞かないと暴力を振るう』と文言は、私の前世の記憶を呼び覚ますものだ。

18年もの時間をかけて忘れそうになっていたけど、ハッキリと思い出した。


(もう帰る・・・。)


とんでもなく遠い距離を歩いて帰ることになるけど、それでも構わなかった。

一歩でも森に向かって歩けば、確かに家に近づくのだから。


(とりあえず外にでなきゃ・・・。)


追ってくる気配が途切れるまでお城の中を走り続け、私は出口を求めて歩き始めた。



ーーーーー



一方そのころ、逃げたステラを探してトゥレイスは城の中を駆けまわっていた。


「ステラ!!ステラーーっ!!どこだーーーっ!?」


無駄に広い城の中は、右に左にと曲がれるところが多い。

それに加えて上下に階段もあるものだからステラがどこに向かって走っていったのかが皆目見当もつかないのだ。


「誰かステラを見なかったか!?金色の髪の女の子だ!」


近くにいた侍女や使用人たちに声をかけるものの、皆わからなさそうな感じに首をかしげてる。


「くそっ・・!すぐに城門に連絡を!誰も外に出すな!!」

「はっ・・はいっ・・・!!」


近くにいた者に伝え、とりあえずステラを城から逃がさないように手配した。

ただ・・・


「問題はステラがまだ城にいるかどうか・・・。」


そう思ったトゥレイスだったが、その問題は見事的中していた。

ステラはもうとっくに城を出ていたのだ。

とぼとぼと歩くステラはこのとき、森を目指して街をさまよっていた。



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