幼馴染を溺愛する彼へ ～婚約破棄はご自由に～

第61話

リディアという名の嵐が私の心に吹き荒れ、過去の傷を深く残した。それはあまりにも激しく、何もかもを引き裂くかのような恐ろしい出来事だった。だが、今、カイ様の愛情がそのすべてを洗い流し、私の内に柔らかな温もりをもたらしてくれる。凍えた大地に春風が吹き込んだかのように、彼の優しさは私の心をゆっくりと確実に癒している。

あの日、私たちの間にあったすべての障害が消えた。誰の目を気にすることなく、ただ二人だけで過ごす穏やかな時間。それは、夢のようでありながら現実そのもので、私たちの心に新たな絆を刻み込んでいった。誰にも触れることのできない二人だけの聖域が広がったかのような、そのひとときは、どんなに小さな瞬間でも永遠に感じられた。

「アイラ、僕の心は君だけに捧げられている」

王城のゲストハウス。私の私室のバルコニーで、静寂の中に彼の気配が近づいてきた。振り返ると、カイ様は何も言わず、ただ穏やかに私を背後から包み込むように抱きしめてくれた。その腕の中で、私の背中にぴったりと彼の胸が触れると、心臓の鼓動が優しく響いてきて、時が止まったかのように感じられた。

その瞬間、私の体中に広がる温かさと安心感は、どんな言葉でも表せないほどの幸福で満たされていった。彼の心臓の音が、私の心と一つになり、二人だけの特別な世界を作り上げていた。

「もう、君を不安にさせるものは何もない」
「……ええ。分かっていますわ」

見上げた夜空には、無数の星がまばゆい光を放ち、私たちの未来を祝福し導いてくれているかのように感じられた。それは、ただの星々ではなく、私たちの手の届かない場所から静かに語りかけてくる未来の光のように思えた。どんなに暗い夜でも星の明かりがある限り、私たちの歩むべき道は必ず明るく照らされるのだという確信に満ちていた。

「カイ様」
「ん？」
「私……いつか、あなたの妻になりたいです」

自分でも信じられないくらい。心の中に秘めていた想いが、あっけなく言葉となって口をついて出た。恥ずかしさで顔が真っ赤になり、思わず彼の腕の中で視線を落とす。

しかし、カイ様は何も言わず、静かに私を回転させて、真っ直ぐに向き合わせてくれた。その蒼の瞳が、夜空の星々よりも深く、強い光を放ちながら私を見つめている。その光の中には、言葉にできないほどの誠実さが込められており、私はその視線に完全に引き込まれてしまった。

「アイラ。それは、俺が言うべきセリフだ」

その瞬間、カイ様は何も言わずに、時間が止まったかのように私の前に膝をついた。王弟殿下が、私なんかのために、こんなにも頭を垂れるとは。世界のすべてが、私たち二人だけのものになったような気がした。

その姿勢には、ただの敬意ではなく、私への真摯な愛が込められていることを私は瞬時に理解した。心の中で、激しく鼓動が響き、言葉にできない感情が溢れ出しそうになった。

「……！　カイ様、おやめください！」

「いいや。聞いてくれ。アイラ・フォン・バランシュナイル公爵令嬢。俺は、君を心から愛している。俺の人生の、すべての光だ。どうか、俺の妻になってほしい。この命に代えても、君を一生守ると誓う」

それは、今まで聞いたことのないほど甘く、そして心の底から響く誠実なプロポーズだった。言葉が私の耳に届いた瞬間、胸の奥に温かな波が広がり、どんなに抑えようとしても涙が溢れ出してきた。私の瞳からこぼれる涙は、幸せすぎて言葉にできない気持ちをそのまま表現しているかのように、ぽろぽろとこぼれ落ちていった。

「……はい。喜んで。あなたの妻に、してください」

私がそう答えると、カイ様はほっとしたように微笑み、全ての重荷が下ろされたかのように私を強く抱きしめてくれた。その温かな抱擁の中で、私たちの唇が触れ合い交わしたキスは、未来を誓うような力強さを持っていた。

その瞬間、私の心の中に確かな確信が広がった。この人となら、どんな試練も乗り越えられる。そして、私たちは決して引き離されることのない永遠の絆で結ばれていると、心の底から信じていた。