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家族に守られて強気
「……エレーヌは、もう別人のようになっていた」
兄の言葉に、母の眉がぴくりと動いた。
「別人?」
「エレーヌは、あの夜――屋敷を出ていく前、鏡の前で笑っていたんだ」
「笑っていた?」
「まるで、自分の中に誰かを飼っているみたいに、低い声でこう言った。『次は、公爵家を壊す番ね』と」
エレーヌは父と兄に見捨てられ、バーンズ伯爵家へ逃げ帰った。兄は偶然、エレーヌの様子を目にしてしまった。その時のことを思い出しただけで、背筋が強ばり指先が震えた。
エレーヌはバーンズ伯爵家で、何不自由なく過保護に育てられた。望むものはすべて手に入り、誰ひとりとして彼女に逆らう者はいなかった。そんな世界が崩れ去るなど、エレーヌにとっては想像すらできないことだった
――どうして、こんなことになったの。私はただ、少し甘えただけだったのに。
小さい頃から、何をしても叱られたことなんてなかった。父も母も兄も、私の願いを叶えることが当然だと思っていた。可愛いと言われるたび、世界は私のために回っているのだと信じて疑わなかった。
公爵家に嫁いだときも同じだった。結婚した夫のジョージ様は優しく、ダニエル様も穏やかで、みんな私を大切にしてくれた。だから私は思っていた。この幸せは永遠に続くものだと。
なのに……どうして、あの人たちは私を見捨てたの?
私の涙を見ても、手を差し伸べてくれなかった。あんな冷たい目を向けられたのは生まれて初めてだった。
屋敷を追われた夜、私は鏡の前に立っていた。そこに映った自分の顔が、あまりに醜くて笑ってしまった。そうか。もう“可愛いエレーヌ”じゃないのね。
実家に戻った時、私は泣きついた。リヒテンベルク公爵家でどれほどひどい扱いを受けていたかを、とにかく大げさに父、母、兄に訴えた。かわいそうな娘を演じれば、いつものように誰かが抱きしめて慰めてくれると思ったのだ。思った通り、みんなは私を優しく慰めてくれた。やっぱり、実家は一番居心地がいい。
それでも心のどこかで思っていた。ダニエル様が謝りに来てくれる日が来るはずだと。だって、私はいつだって愛されてきたのだから。けれど、待っても待っても誰も来なかった。屋敷の外は寒くて空は灰色で、胸の中には何も残らなかった。
その時、初めて知ったの。愛されない世界って、こんなにも静かで冷たいものなのね。
しびれを切らした家族は、私のために公爵家へ怒鳴り込みに向かった。
もう一度、思い出させてあげる。私がどれほど愛される価値のある女だったかを――。
ダニエル様とジョージ様が、公爵家から追放されたと聞いて思わず笑いがこぼれた。なるほど……やはり、私を見捨てた者には神も罰を下すのね。
「私を不安にさせた罰として、公爵家の全員は私の前にひざまずき、頭を下げて謝りなさい! そして愛の儀式として、感謝の舞まで踊るのです! 私の心を傷つけた償いとして、全財産の半分でも構わないから慰謝料を寄越しなさい! そうすれば許してあげます!」
エレーヌは、突然とんでもないことを口にした。その言葉にオリバー伯爵も、スカーレット夫人も、兄のハリーも当然だとでも言うように頷いた。私と母の顔に、半ばあきれたような表情が浮かんでいた。
エレーヌは満足げに顎を上げて微笑む。自分を守ってくれる家族が傍にいるので強気だった。
兄の言葉に、母の眉がぴくりと動いた。
「別人?」
「エレーヌは、あの夜――屋敷を出ていく前、鏡の前で笑っていたんだ」
「笑っていた?」
「まるで、自分の中に誰かを飼っているみたいに、低い声でこう言った。『次は、公爵家を壊す番ね』と」
エレーヌは父と兄に見捨てられ、バーンズ伯爵家へ逃げ帰った。兄は偶然、エレーヌの様子を目にしてしまった。その時のことを思い出しただけで、背筋が強ばり指先が震えた。
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――どうして、こんなことになったの。私はただ、少し甘えただけだったのに。
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公爵家に嫁いだときも同じだった。結婚した夫のジョージ様は優しく、ダニエル様も穏やかで、みんな私を大切にしてくれた。だから私は思っていた。この幸せは永遠に続くものだと。
なのに……どうして、あの人たちは私を見捨てたの?
私の涙を見ても、手を差し伸べてくれなかった。あんな冷たい目を向けられたのは生まれて初めてだった。
屋敷を追われた夜、私は鏡の前に立っていた。そこに映った自分の顔が、あまりに醜くて笑ってしまった。そうか。もう“可愛いエレーヌ”じゃないのね。
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それでも心のどこかで思っていた。ダニエル様が謝りに来てくれる日が来るはずだと。だって、私はいつだって愛されてきたのだから。けれど、待っても待っても誰も来なかった。屋敷の外は寒くて空は灰色で、胸の中には何も残らなかった。
その時、初めて知ったの。愛されない世界って、こんなにも静かで冷たいものなのね。
しびれを切らした家族は、私のために公爵家へ怒鳴り込みに向かった。
もう一度、思い出させてあげる。私がどれほど愛される価値のある女だったかを――。
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