病弱な幼馴染を守る彼との婚約を解消、十年の恋を捨てて結婚します

ぱんだ

文字の大きさ
7 / 33

私と彼の立場が変わった

しおりを挟む
でも、今は違う。アルディンの言葉は、もう私の心には響かない。それどころか、乾いた心に火をつけた。長年、心の奥底に押し殺し、蓋をしてきた黒い感情が一気に流れ出す。

「……間違っていた? 助けてくれ?」

私の口から漏れたのは、自分でも驚くほど冷たい声だった。

「あなたが、今更それを言うの?」

脳裏に、忘れもしない夜会の光景が焼き付いて離れない。

「あの夜も、いつもあなたはリーシャ様とばかり踊っていた。私は壁の花。そんな私に、旧知の侯爵令息が手を差し伸べてくれた。ほんの一曲、ワルツを踊っただけ。それなのに、あなたは夜会の後、私を馬車の中で激しく詰問しましたよね? 『婚約者の俺がいるのに、他の男と踊るなんて浮気だ! 恥を知れ!』って」

「すまない……」

「あの時のあなたの目は、私を汚らわしいものでも見るかのように冷え切っていた。私はただ、悲しくて、悔しくて、『ごめんなさい』と謝ることしかできなかった」

私は唇の端を吊り上げて、凍るような笑みを浮かべた。

「浮気、ですって? よくそんな言葉が言えたものね。あなたはリーシャ様と一晩中踊り明かし、私のことなど見向きもしなかったくせに。私がたった一曲、他の方と踊っただけで『裏切り』だと? あなたの言っていることは、昔からいつだって矛盾だらけよ」

「そ、それは……嫉妬して……」

「嫉妬ですって? 笑わせないで。あなたはただ、自分の所有物に傷がつくのが許せなかっただけでしょ。私の心なんて、どうでもよかった。私がどう感じているかなんて、考えたこともなかった!」

「申し訳……なかった……」

アルディンは言葉に詰まりながら、そう繰り返すばかりだ。その姿が、私の怒りをさらに煽る。

「申し訳ない? ああ、そうでしょうね! 私がいつもあなたとリーシャ様の仲良さそうな姿を見るたび、どんな気持ちだったのか知っていますか?」 

「悪かった……」

「悪かったでは済みません! 私は、あなたのような男は許せません。リーシャ様が体調を崩せば全て私のせいにして、どうして私があなたのの体調の管理をしなければいけないのですか! ご自身の発言がどれほど恥ずかしいか、気づいていませんか?」

「今は、情けなく思っている……自分が恥ずかしいよ」

「あなたはリーシャ様が私のドレスに、わざとワインをこぼした時、なんて言ったか覚えてますか? 『君がもっと注意していれば』ですって! あなたはいつだってリーシャ様をかばって、私を悪者にした!」

「あの時は、頭がどうかしてたんだ……」

私は、言葉がどうしても止まらなかった。心の中に湧き上がる感情が、次々と口をついて出てきて、どうしようもなくなっていた。

「あなたは、人の心を踏みにじることしかできない。あなたほど酷い男、この世に存在するかしら? 絶対いない! あなたほど人の心がわからない男はいません! 私、自分でも本当によく我慢してきたと思うわ。十年間も、あなたみたいな男の隣で!」

私の剣幕に、アルディンは完全に怯んでいた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼馴染と仲良くし過ぎている婚約者とは婚約破棄したい!

ルイス
恋愛
ダイダロス王国の侯爵令嬢であるエレナは、リグリット公爵令息と婚約をしていた。 同じ18歳ということで話も合い、仲睦まじいカップルだったが……。 そこに現れたリグリットの幼馴染の伯爵令嬢の存在。リグリットは幼馴染を優先し始める。 あまりにも度が過ぎるので、エレナは不満を口にするが……リグリットは今までの優しい彼からは豹変し、権力にものを言わせ、エレナを束縛し始めた。 「婚約破棄なんてしたら、どうなるか分かっているな?」 その時、エレナは分かってしまったのだ。リグリットは自分の侯爵令嬢の地位だけにしか興味がないことを……。 そんな彼女の前に現れたのは、幼馴染のヨハン王子殿下だった。エレナの状況を理解し、ヨハンは動いてくれることを約束してくれる。 正式な婚約破棄の申し出をするエレナに対し、激怒するリグリットだったが……。

母の中で私の価値はゼロのまま、家の恥にしかならないと養子に出され、それを鵜呑みにした父に縁を切られたおかげで幸せになれました

珠宮さくら
恋愛
伯爵家に生まれたケイトリン・オールドリッチ。跡継ぎの兄と母に似ている妹。その2人が何をしても母は怒ることをしなかった。 なのに母に似ていないという理由で、ケイトリンは理不尽な目にあい続けていた。そんな日々に嫌気がさしたケイトリンは、兄妹を超えるために頑張るようになっていくのだが……。

婚約者様。現在社交界で広まっている噂について、大事なお話があります

柚木ゆず
恋愛
 婚約者様へ。  昨夜参加したリーベニア侯爵家主催の夜会で、私に関するとある噂が広まりつつあると知りました。  そちらについて、とても大事なお話がありますので――。これから伺いますね?

拝啓、許婚様。私は貴方のことが大嫌いでした

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
【ある日僕の元に許婚から恋文ではなく、婚約破棄の手紙が届けられた】 僕には子供の頃から決められている許婚がいた。けれどお互い特に相手のことが好きと言うわけでもなく、月に2度の『デート』と言う名目の顔合わせをするだけの間柄だった。そんなある日僕の元に許婚から手紙が届いた。そこに記されていた内容は婚約破棄を告げる内容だった。あまりにも理不尽な内容に不服を抱いた僕は、逆に彼女を遣り込める計画を立てて許婚の元へ向かった――。 ※他サイトでも投稿中

今から婚約者に会いに行きます。〜私は運命の相手ではないから

ありがとうございました。さようなら
恋愛
婚約者が王立学園の卒業を間近に控えていたある日。 ポーリーンのところに、婚約者の恋人だと名乗る女性がやってきた。 彼女は別れろ。と、一方的に迫り。 最後には暴言を吐いた。 「ああ、本当に嫌だわ。こんな田舎。肥溜めの臭いがするみたい。……貴女からも漂ってるわよ」  洗練された都会に住む自分の方がトリスタンにふさわしい。と、言わんばかりに彼女は微笑んだ。 「ねえ、卒業パーティーには来ないでね。恥をかくのは貴女よ。婚約破棄されてもまだ間に合うでしょう?早く相手を見つけたら?」 彼女が去ると、ポーリーンはある事を考えた。 ちゃんと、別れ話をしようと。 ポーリーンはこっそりと屋敷から抜け出して、婚約者のところへと向かった。

両親から謝ることもできない娘と思われ、妹の邪魔する存在と決めつけられて養子となりましたが、必要のないもの全てを捨てて幸せになれました

珠宮さくら
恋愛
伯爵家に生まれたユルシュル・バシュラールは、妹の言うことばかりを信じる両親と妹のしていることで、最低最悪な婚約者と解消や破棄ができたと言われる日々を送っていた。 一見良いことのように思えることだが、実際は妹がしていることは褒められることではなかった。 更には自己中な幼なじみやその異母妹や王妃や側妃たちによって、ユルシュルは心労の尽きない日々を送っているというのにそれに気づいてくれる人は周りにいなかったことで、ユルシュルはいつ倒れてもおかしくない状態が続いていたのだが……。

【完結】婚約者と養い親に不要といわれたので、幼馴染の側近と国を出ます

衿乃 光希
恋愛
卒業パーティーの最中、婚約者から突然婚約破棄を告げられたシェリーヌ。 婚約者の心を留めておけないような娘はいらないと、養父からも不要と言われる。 シェリーヌは16年過ごした国を出る。 生まれた時からの側近アランと一緒に・・・。 第18回恋愛小説大賞エントリーしましたので、第2部を執筆中です。 第2部祖国から手紙が届き、養父の体調がすぐれないことを知らされる。迷いながらも一時戻ってきたシェリーヌ。見舞った翌日、養父は天に召された。葬儀後、貴族の死去が相次いでいるという不穏な噂を耳にする。恋愛小説大賞は51位で終了しました。皆さま、投票ありがとうございました。

好き避けするような男のどこがいいのかわからない

麻宮デコ@SS短編
恋愛
マーガレットの婚約者であるローリーはマーガレットに対しては冷たくそっけない態度なのに、彼女の妹であるエイミーには優しく接している。いや、マーガレットだけが嫌われているようで、他の人にはローリーは優しい。 彼は妹の方と結婚した方がいいのではないかと思い、妹に、彼と結婚するようにと提案することにした。しかしその婚約自体が思いがけない方向に行くことになって――。 全5話

処理中です...