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私と彼の立場が変わった
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でも、今は違う。アルディンの言葉は、もう私の心には響かない。それどころか、乾いた心に火をつけた。長年、心の奥底に押し殺し、蓋をしてきた黒い感情が一気に流れ出す。
「……間違っていた? 助けてくれ?」
私の口から漏れたのは、自分でも驚くほど冷たい声だった。
「あなたが、今更それを言うの?」
脳裏に、忘れもしない夜会の光景が焼き付いて離れない。
「あの夜も、いつもあなたはリーシャ様とばかり踊っていた。私は壁の花。そんな私に、旧知の侯爵令息が手を差し伸べてくれた。ほんの一曲、ワルツを踊っただけ。それなのに、あなたは夜会の後、私を馬車の中で激しく詰問しましたよね? 『婚約者の俺がいるのに、他の男と踊るなんて浮気だ! 恥を知れ!』って」
「すまない……」
「あの時のあなたの目は、私を汚らわしいものでも見るかのように冷え切っていた。私はただ、悲しくて、悔しくて、『ごめんなさい』と謝ることしかできなかった」
私は唇の端を吊り上げて、凍るような笑みを浮かべた。
「浮気、ですって? よくそんな言葉が言えたものね。あなたはリーシャ様と一晩中踊り明かし、私のことなど見向きもしなかったくせに。私がたった一曲、他の方と踊っただけで『裏切り』だと? あなたの言っていることは、昔からいつだって矛盾だらけよ」
「そ、それは……嫉妬して……」
「嫉妬ですって? 笑わせないで。あなたはただ、自分の所有物に傷がつくのが許せなかっただけでしょ。私の心なんて、どうでもよかった。私がどう感じているかなんて、考えたこともなかった!」
「申し訳……なかった……」
アルディンは言葉に詰まりながら、そう繰り返すばかりだ。その姿が、私の怒りをさらに煽る。
「申し訳ない? ああ、そうでしょうね! 私がいつもあなたとリーシャ様の仲良さそうな姿を見るたび、どんな気持ちだったのか知っていますか?」
「悪かった……」
「悪かったでは済みません! 私は、あなたのような男は許せません。リーシャ様が体調を崩せば全て私のせいにして、どうして私があなたの愛人の体調の管理をしなければいけないのですか! ご自身の発言がどれほど恥ずかしいか、気づいていませんか?」
「今は、情けなく思っている……自分が恥ずかしいよ」
「あなたはリーシャ様が私のドレスに、わざとワインをこぼした時、なんて言ったか覚えてますか? 『君がもっと注意していれば』ですって! あなたはいつだってリーシャ様をかばって、私を悪者にした!」
「あの時は、頭がどうかしてたんだ……」
私は、言葉がどうしても止まらなかった。心の中に湧き上がる感情が、次々と口をついて出てきて、どうしようもなくなっていた。
「あなたは、人の心を踏みにじることしかできない。あなたほど酷い男、この世に存在するかしら? 絶対いない! あなたほど人の心がわからない男はいません! 私、自分でも本当によく我慢してきたと思うわ。十年間も、あなたみたいな男の隣で!」
私の剣幕に、アルディンは完全に怯んでいた。
「……間違っていた? 助けてくれ?」
私の口から漏れたのは、自分でも驚くほど冷たい声だった。
「あなたが、今更それを言うの?」
脳裏に、忘れもしない夜会の光景が焼き付いて離れない。
「あの夜も、いつもあなたはリーシャ様とばかり踊っていた。私は壁の花。そんな私に、旧知の侯爵令息が手を差し伸べてくれた。ほんの一曲、ワルツを踊っただけ。それなのに、あなたは夜会の後、私を馬車の中で激しく詰問しましたよね? 『婚約者の俺がいるのに、他の男と踊るなんて浮気だ! 恥を知れ!』って」
「すまない……」
「あの時のあなたの目は、私を汚らわしいものでも見るかのように冷え切っていた。私はただ、悲しくて、悔しくて、『ごめんなさい』と謝ることしかできなかった」
私は唇の端を吊り上げて、凍るような笑みを浮かべた。
「浮気、ですって? よくそんな言葉が言えたものね。あなたはリーシャ様と一晩中踊り明かし、私のことなど見向きもしなかったくせに。私がたった一曲、他の方と踊っただけで『裏切り』だと? あなたの言っていることは、昔からいつだって矛盾だらけよ」
「そ、それは……嫉妬して……」
「嫉妬ですって? 笑わせないで。あなたはただ、自分の所有物に傷がつくのが許せなかっただけでしょ。私の心なんて、どうでもよかった。私がどう感じているかなんて、考えたこともなかった!」
「申し訳……なかった……」
アルディンは言葉に詰まりながら、そう繰り返すばかりだ。その姿が、私の怒りをさらに煽る。
「申し訳ない? ああ、そうでしょうね! 私がいつもあなたとリーシャ様の仲良さそうな姿を見るたび、どんな気持ちだったのか知っていますか?」
「悪かった……」
「悪かったでは済みません! 私は、あなたのような男は許せません。リーシャ様が体調を崩せば全て私のせいにして、どうして私があなたの愛人の体調の管理をしなければいけないのですか! ご自身の発言がどれほど恥ずかしいか、気づいていませんか?」
「今は、情けなく思っている……自分が恥ずかしいよ」
「あなたはリーシャ様が私のドレスに、わざとワインをこぼした時、なんて言ったか覚えてますか? 『君がもっと注意していれば』ですって! あなたはいつだってリーシャ様をかばって、私を悪者にした!」
「あの時は、頭がどうかしてたんだ……」
私は、言葉がどうしても止まらなかった。心の中に湧き上がる感情が、次々と口をついて出てきて、どうしようもなくなっていた。
「あなたは、人の心を踏みにじることしかできない。あなたほど酷い男、この世に存在するかしら? 絶対いない! あなたほど人の心がわからない男はいません! 私、自分でも本当によく我慢してきたと思うわ。十年間も、あなたみたいな男の隣で!」
私の剣幕に、アルディンは完全に怯んでいた。
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