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第9話 メイドの妊娠を公表する

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「――みなの者静かにせよ!」

場面はパーティー会場に戻る。ジェームズが床に倒れて亡くなっている前で兄と妹が口論をしていたら野太い声が響き渡った。声の主は自分たちの父であり、眉を寄せ険しい表情になっている。母も隣にいて国王夫妻が舞台の上に姿を見せた。招待客たちの騒がしい声は収まってしまい、会場はしばらく沈黙してから再び国王が言葉を口から出す。

「我が息子ジェームズが何者かの卑劣な手段で命を落とした。この場にいる誰もが不測の事態が起きて動揺していると思うがこれから話す事を落ち着いて聞いてほしい」

ジェームズは致死性の高い毒で呼吸停止が起こり即死状態だった。次期国王候補の自分の息子が死んだというのに、国王は妙に落ち着ついた声で焦っている様子がない。この事件をあらかじめされていたようにも感じる。招待客たちは息をのんで壇上に立っている国王を見つめていた。

「この度は本当に申し訳ありません。お集まりの方々に謝罪いたします……ですが亡くなったジェームズの事で皆様に伝えなければならないことがあります」

続いて隣にいた王妃様が言葉を口にする。溢れる涙が頬を流れていますが、はっきりした声で話しはじめた。王族と公爵家の婚約披露のパーティーを特別に招待状を送って、祝福を与えてもらい喜びを共有するために著名な人物に来ていただいたはずだった。こんな事になってしまい、まことに残念な状況となりましたと言い軽く頭を下げた。

すると王妃が出し抜けに話題を変えて世間に公表することがあると親しげに語りかける。その雰囲気は穏やかな表情で一瞬だけかすかな微笑を浮かべて、見ている客たちは声を上げたいくらい美しいと思えて胸中でほっと安堵した。

「私はジェームズ様に襲われて現在妊娠しています」
「同じくジェームズ様の子を身ごもっております」

王妃は目配せすると若いメイドが前に出てきた。愛らしい顔立ちで名前はエマとカミラ。招待客たちは不思議そうな顔をして、突然現れた二人をじっと眺めていたら、思いもよらない事を言いはじめる。何度もしつこく口説かれ体を要求されて、半ば無理やりキスされて妊娠する行為をされた。

結局望まない妊娠をしてしまったのだと苦しそうな泣きそうな顔をして言った。亡くなったジェームズ王子が自暴自棄になり起こした行動でした。二人には親子ほど年が離れた相思相愛そうしそうあいの情熱的に愛して快楽を共にする恋人がいるので、王子に抱かれた日は汚された気分で悔しくて、その夜はぐっすり眠ることができなかった。

心に思っていることを隠さず告白すると二人は、直後は辛そうな様子を見せますが、王妃から私が見守っていますからねと励ますような眼差しを送られると、応援の力を受けて勇気を与えられ自分を奮い立たせた。あり得ない出来事にざわざわと騒がしくなる。
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