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「イブリン覚悟はできてる?」
「大丈夫」
「私達も明日は一緒に付き添うからね」
「なんにも心配することないよ」
「うん」

彼と別れ話をする前日、イブリンと3人の令嬢は明日に備えて作戦会議を開いていました。

どのような言葉で彼を責めるのか?彼が妹との関係を意地を張って認めない場合はどうするのか?麗しい淑女達は真剣な顔で話し合う。

「それにしてもホークはひどいね」
「なに考えてるのかしら?」
「彼の妹も頭がどうかしてるわ」

実はあれから5日経ち、その間に彼に一度だけ会ったのです。イブリンから会いに行ったのではなく彼のほうから会いに来ました。

突然家に訪ねて来たのでイブリンは心が動揺する。でもよく考えてみれば婚約者なので普通の行動です。

彼はまだイブリンが別れたいと思っていることを知らないし、当然ながら先日妹との濃厚なキスを見られたことも想像したこともありません。

「イブリン来たよ!」
「なに?」
「まだこの前のこと怒ってる?」
「当たり前でしょ!」
「悪かったよ」
「今度はフランソワに厳しく言ってちょうだいね!」
「次は妹が泣き出しても大声で怒鳴るよ。約束する」
「わかった」

会うなり彼は元気のいい声で話しかけてきました。イブリンが不機嫌な顔で返事をすると、この間のことを反省していると謝るのです。

言うまでもなく彼を許すつもりはありません。とりあえずこの場では謝罪を受け入れてそう答えただけ。

私達に贈られたプレゼントのディナーなのに、恋人を怒らせ帰らせて彼と妹で楽しむなんて許せるわけがない。

更にキスまで目撃してしまった。それも互いに口を動かして情熱的なキス。終わった後も見つめ合いささやいて二人だけの世界に入り込んでいた。彼がどんなに一生懸命謝罪しても拭いきれない汚点。

走馬灯のようによみがえる消したくても脳に焼き付いて消せない悲しい記憶。思い出したら泣きそうになる。

「イブリン?」
「なんでもないよ……」
「何を考えてたか当ててあげようか?」
「それは絶対無理だと思う」
「僕はイブリンの心が読めるから何でも分かるよ?」
「じゃあ当ててみて」
「思いがけずに僕が来たから嬉しくて驚いた。正解でしょ?」
「違う」
「でも当たらずとも遠からずってところでしょ?」
「うん……」

イブリンがぼんやりしていると心配そうに尋ねました。首を振って大丈夫という感じですが、どこか表情が冴えない彼女にホークは勇気づけようと優しく語りかけます。

なんとイブリンの気持ちが分かると言い出して、何を思い浮かべてたのか当てると自信を持った声で言う。イブリンが分かりっこないと答えますが彼は笑顔で頷く。

僕が事前に通告しないで来たから驚き過ぎて頭の中が混乱してぼんやりしてたのかな?といたずらっぽい顔で言うとイブリンは心の中で涙を流しながら、その通りだよという風に作り笑顔で返事をしました。
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